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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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3/8

アリア

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

「……あの、ルナさん。少しお聞きしたい事があるのですが」


しばらく外の景色を眺めていると、ふとあることに気がついた。


「はい、何でしょう」


「目がさめてからしばらくたつのに一向に昼にならない、それに太陽の高さが変わらないのはどうしてですか?」


「お気づきになりましたか」


視線を窓へ逃がすと太陽はやはり数時間前と同じ、そこにあった。登ることも沈むこともせず、ただじっと水平線のすぐ上からこちらを照らし続けている。


「まず、この星は……太陽系第3惑星『地球』ではありません」


ルナの声は静かだった。ただ事実として、丁寧に言葉を告げる。


「……はい」


不思議と驚きは薄かった。目覚めてからずっと、何かがおかしいとどこかで感じていたのかもしれない。空気も、空の色も、太陽の輝きも……何もかもが知っている景色とわずかにずれていた。


「ここはタウセチ星系 第4惑星、地球ではこの星のことをタウセチeと呼んでいます」


「タウセチe……」


その名前を口の中で反芻する。知っているような、知らないような。霞の奥に何かがある気はするのに、手を伸ばしても何かが手にふれることはない。


「タウセチeでは少し呼びにくいと昔の人は感じたのでしょうね。今、私達はこの星のことを『アリア』、と、そう呼んでいます」


アリア。その響きは不思議と耳に馴染んだ。


「タウセチは太陽からほど近い恒星で、およそ11.9光年の距離に位置します。ご存知ですか?」


ルナがこちらを見る。青い瞳の光が、問いかけるようにゆらりと揺れた。


「……聞いた……ことが、あるような気はするのですが」


額に手を当てる。確かにそこにあるはずの記憶が、霧の向こうでかたちを結ばない。


「コールドスリープの後遺症かもしれませんね。コールドスリープ後は少なからず記憶障害が出ることがあると聞いていますし」


ルナは責めるふうでもなく、ただ穏やかにそう言った。少し間をおいて、おもむろに向き直る。


「それでは少しだけ、この星の歴史について説明させていただいても?」


「はい、お願いします」


ルナは一度、小さく頷いた。それから窓の外へ視線を向け、止まったままの太陽をしばらく眺めた。何かを確かめるように。あるいは、どこから話し始めるかを整えるように。


そして、静かに口を開いた。


「今からおよそ180年ほど前、地球から3隻の移民船がこのアリアに向け出発しました。


 地球からタウセチを見上げると、同じ方向にくじら座が輝いてみえることから、船の名前はくじら座の星々の名前をとって『バテン・カイトス』、『デネブ・カイトス』、そして『ミラ』と名付けられました。


 航行時間はおよそ110年。これは人類には……いえ、生物には長すぎる時間です。……なので、多くの生物はコールドスリープの処置が施され、110年の間……長い長い眠りにつくことになりました。


 そして長い長い航海の果て……三隻の船のうちデネブ・カイトスはアリアの北極点に近い場所へ、バテン・カイトスは反対の南極点に近い場所へ無事到着することができました。


 しかし最後の一隻、赤道直下へ着陸する予定だったミラは……ある問題が発生し、着陸に失敗したのです」


「……問題……」


ルナがこちらへ視線を戻す。その表情は穏やかだったが、語る言葉の重さをちゃんと知っているような、そんな目だった。


「ツカサさんは……潮汐ロックという言葉をご存知ですか?」


「ええっと……、確か月の同じ面が常に地球を向いているあれですか?」


記憶の霧の中から、そんな言葉がするりと出てきた。自分でも少し意外だった。


「そうです。月は地球の重力により潮汐ロックを受けており、常に同じ面が地球へ向いています。


 同様に地球も太陽から潮汐ロックを受けており、やがて遠い未来……太陽系に終わりがなければの話しですが、地球も太陽に同じ面を向け公転するようになるでしょう」


ルナは窓の外に視線を向けながら、静かに続けた。


「そしてアリアもタウセチにより潮汐ロックを受け、事前調査よりもはるかにゆっくりと自転していたのです」


「……それが何か問題になるでしょうか」


「アリアの公転周期は地球の約168日ですが、アリアはこの間、4回しか自転しないのです」


「……つまりアリアの1日は地球の42日」


「はい、したがって昼が21日間ずっと続くことになります」


窓の外の太陽を見た。動かない太陽。目覚めてからずっと、同じ場所に居座り続けているあの光。それがようやく腑に落ちた。


じっと見つめていると、その強い光がじりじりと肌を焼くような錯覚を覚える。


「もうおわかりかと思いますが、自転が事前の調査よりも遥かに遅いことで長時間恒星からの光を受け続けることになります。結果、昼の面の気温は最大で約600度……逆に夜の面は最低約-150度と、人類が……いえ生物が住むには非常に困難な環境だったのです」


ガタン、と列車がいつもより少し大きめの音を立てる。


-150度はともかく、600度はとても人間が生きていられる温度ではない。ただ……。


「21日間昼が続くのは北極点、南極点に降り立った二隻の船も同じでは?」


「その通りです。しかし、アリアの地軸の傾きは1度と小さく、両極点に降り立った2つの船は少し移動するだけで昼の面から夜の面へ、あるいは夜の面から昼の面へ移動が可能なのです」


「ああ、そうか。昼の面と夜の面を移動する距離は両極点に近づくほど小さくなる。寒ければ昼の側に、暑ければ夜の側に移動することで温度調節ができるという点が赤道付近とは異なるわけですね」


思考が少しずつほぐれてくる感覚があった。体はまだ重いのに、頭だけが覚めていくような、奇妙な感覚。


「そういったわけでミラは着陸地点を赤道直下から、デネブ・カイトスと同じ北極点付近に変更しました。しかし、その直後エンジントラブルが発生。赤道直下からわずか北に不時着を余儀なくされたのです」


ルナの声のトーンが、わずかに沈んだ。


「それじゃ、ミラに乗っていた生物達は……」


「幸いにも、というよりとっさの機転を利かせた結果でしょうか。着陸した地点は昼と夜の間、それも夜にほど近いあたりに着陸したため、不時着後すぐに搭乗員が焼け死ぬ心配はありません。しかし、時間は限られていました」


「昼をむかえるまでの時間は地球時間で約3日。この3日間で生物の避難を行う必要があったのです」


……3日。


「不時着後、すぐにいろいろな対策が検討されました。


 船を昼に耐えられる構造に改装する案や、自転速度が遅いことを逆手にとりビーグルで一路西へ避難しつつ北極点を目指す案、はては人類を目覚めさせ選択を委ねる案など、たくさんの対策が検討されましたがどれも生物すべてを助ける確証はありませんでした。


 そして、昼がせまりつつある中、一つの対策が実行されました」


ルナはそこで一度、言葉を切った。車内に列車の振動だけが満ちる。


「このアリアには、いえ正確にいえばミラが不時着した近辺には……地下に多くの空洞が存在することが調査でわかりました」


「……地下の空洞なら、地表より温度変化は少ない」


「そうです。そして普通なら酸素や水、食料の問題が発生しますが、コールドスリープ中の生物はいずれもそれらを消費しません」


「空洞にコールドスリープのカプセルを移動したんですね」


「はい」


短い沈黙が流れた。列車がゆっくりとしたカーブに差し掛かったことを慣性が体に伝えている。


「電源は不要なんでしょうか?」


「いえ、必要です。ですが、ミラには110年船を航行させた核融合炉とバッテリーがあったのです」


「そうか、船の……」


「はい。そして大きな空洞を見つける事ができなかったため格納場所は複数箇所に分けて・・・」


「その後は?」


「北極点のデネブ・カイトス、南極点のバテン・カイトスに格納場所を連絡して回収、そして解凍を依頼しました」


「では全員無事に?」


一瞬、ルナの瞳の光が揺れた。窓の外へ視線が逃げる。ほんのわずかな間の沈黙が答えの輪郭を作っていた。


「いえ……記録によれば不時着した移民船、ミラに搭乗していた人間は10328名。その3割にあたる約3000名が犠牲になったと言われています」


「それは……どうしてですか?」


「一番大きな問題は作業時間です。


 単純に1万名のコールドスリープポッドを移動させる時間が足りず、昼を迎えることになってしまいました。


 また避難先の空洞の深さが足りず、計算よりも温度が上昇してしまったケースもあったと聞いています。いくつかの空洞では落盤もありましたし、中には地割れに飲まれたという報告もありました」


ルナはそこで言葉を切り、ゆっくりと目を細める。彼女の頬の歯車が、音を立てず回っているのが見て取れた。


車内には、変わらず一定のリズムを刻む車輪の音だけが響いている。まるで、その失われた命の数など気にも留めないかのように、無機質に。


「そう、ですか……」


それ以上の言葉が出てこなかった。3000名。どこかそれが他人事に思えない感覚があった。


「はい。そして入植以降、星をあげてミラ搭乗員の探索が行われてきたのですが……一昨年、つまりアリア入植から68年。核融合炉の設計限界をむかえることもあり、探索は打ち切られることになりました」


「……設計限界?」


「地球を離れる際、移民船の電力は複数の核融合炉で賄うことになっていました。航行時間は110年でしたが、トラブル発生時のマージンを考え、180年耐えうる設計となっていたのです」


「それが、一昨年切れた」


「はい」


静かな沈黙が落ちた。列車が揺れる。視界には荒野が続き、太陽は動かない。


頭の中で、何かがゆっくりと繋がっていく。坑道の奥に眠っていた自分。コールドスリープ。打ち切られた探索。ルナがアリアの歴史を話そうとした理由。


「……つまり僕は……」


「わからないこともあります。しかし、確実であることもあります」


ルナがこちらを向く。その瞳の青い光は、静かで、しかし真剣だった。


「はい」


「薄々感づいていると思われますが、岩に囲まれた地下で発見されたこと、そしてコールドスリープポッドで眠っていたこと。


 ……状況からみて、ツカサさんは地球からアリアに向けて出発した入植船、ミラの搭乗員で間違いありません」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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