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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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列車

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

「よく眠れましたか?」

 目が覚めて最初に目に入ったのはルナだった。昨日と全く同じ姿勢で、同じ場所に。

 窓の外、変わらず止まったままの太陽が、ガタンゴトンと一定のリズムを刻む車内をやわらかく照らしていた。


「えっと、はい」


「そうですか、それはよかったです」

 ルナは小さく微笑んだ。その表情に安堵のようなものが滲んでいる。瞳の淡い青い光が、ふわりと揺れた気がした。


「あの、ルナさん。危ないところを助けていただいたと……。本当にありがとうございました」

 頭を下げる。体はまだ少し重かったが、それだけは伝えなければと、そう思った。


「お気になさらないでください。当然のことをしたまでです」

 ルナは少し首を傾けた。人間ならば照れているように見えるかもしれない、そんな仕草だった。


「それと、私のことは気軽にルナとお呼びください」


「そんな。命を助けていただいたのに呼び捨てだなんて」


「……真面目な方なのですね」

 ルナはそう言って、少しの間、窓の外へ視線を向けた。荒野が続いている。


「そうでした、お目覚めになったらお名前をお聞きしなければと思っていたのです」

 こちらへ向き直ったルナの瞳が、静かにこちらを見つめる。


「名前……」


「思い出せませんか?」

 ルナの声はやわらかかった。責めるでも急かすでもなく、ただ、待っている。


「……長期間のコールドスリープは記憶の混乱が発生することがある、と聞いたことはあるのですが」

 自分の名前……、思い出せそうで、思い出せないあの感じ。『あ』から順に一文字ずつ頭の中を検索して何か思い出せないか、試してみる。頭の索引が『つ』まで来た時、何かを感じた。ふと顔を上げると部屋の隅にある鏡が目に入る。鏡にはまだ成人してはいないであろう少年の顔が映っている。目に少し掛かりそうな前髪、横は耳に掛かっていて耳の形の半分はわからない。

 黒い瞳。あまり日にあたっていなかったのか、肌は白い。目が覚めて初めて見る自分の顔だった。


 ……そうだ。


「……思い出しました。僕の名前はツカサ……です」


「ツカサ……ツカサさん」

 ルナはその名前を、まるで確かめるように、もう一度小さく繰り返した。金属の頬に刻まれた表情が、かすかに和らぐ。


「……素敵なお名前ですね」


「そうですか?」


「はい。優しそうで、それでいて芯のありそうな……そんなお名前です」

 なんと返せばいいかわからず、視線を手元に落とす。


「そう……でしょうか」

 短い沈黙が流れた。気まずいわけではない。列車の振動と、レールを刻む規則的な音だけが続く。


「さ……ツカサさん、こちらをどうぞ」

 ルナが立ち上がり、小さなカップを差し出した。


「……これは?」


「食事です」

 器の中身に目を落とす。色は薄い緑がかった灰色で、表面がわずかに揺れている。湯気は立っていない。香りは……岩に雨が降ったときのような、土の匂いがした。


「……ぶっ!!」

 口に含んだ瞬間、体が正直に反応した。苦味と、えも言われぬ土の味が舌の上に広がる。


「やはりお口にあいませんでしたか?」

 ルナが小首を傾げる。その表情はどこか申し訳なさそうでもあり、しかし予想通りだったとも言いたげでもあった。


「これ……は一体……?」


「グリムが採掘した鉱石に、苔が付いている事があるのですが、その苔を集めて煎じたものです。解析したところ人間にとって毒となる要素は含まれていないことは確認済みです……。

 味は保証できませんが……」


「……」

 思わず言葉が出なかった。カップの中身をもう一度見る。確かに、言われてみれば苔のような、何か植物性のものが沈んでいる。


「申し上げにくいのですが、この列車には人間が口にできるものはおいていないのです……全員、オートマタですので」

 ルナはそう言って、自分の胸元に視線を落とした。少しの間があった。


「……なるほど……」

 もう一口、覚悟を決めて飲む。味は変わらない。しかし、飲み込めないほどではなかった。体が栄養を求めているのか、不思議と二口目は最初よりも楽だった。

 ルナはその様子をじっと見守っていた。何か言いたそうに口元が動いたが、結局何も言わずに。

 列車は変わらず揺れ続けている。窓の外の荒野も、太陽の位置も、何一つ変わっていない。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした」

 食事を終えてカップを返すと、ルナは両手でそっと受け取る。

 口の中にはまだ苔の風味が残っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ここはツカサが目が覚め、この後に続くシリアス展開の前にワンテンポ置きたかった。

なので、ルナ達の日常が分かる何かを挟んでみました。


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