早朝
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https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
朝、目がさめると部屋の中は暗かった。個室のあるこの車両は朝6時になるまで通路と部屋の光を落とすよう設定されているので、今はまだ6時前だとすぐに分かる。頭を動かし机の上の時計を見ると、時刻は5時半を示していた。目がさめてすぐということもあり喉が乾いていたので、軽く身なりを整えてリビングに向かう。リビングに入るとすぐ目に入ったもの。ルナが座卓の上に突っ伏して……、倒れていた。
「ルナさん!?」
近寄って声を掛ける。返事はない。
――落ち着け。これまでの経験上、ルナはリビングで充電する時も、姿勢を崩すことはなかった。オートマタの特性上、睡眠中ということも考えにくい。充電が切れたという可能性もあるが、自己管理能力が高いルナには起こり得ないように思えた。そして次に思いついた可能性は、故障だった。もし故障だとするなら、誰が故障したルナを直すことができるのだろう。マーニー、アルテミシアなら可能だろうか、あるいはグリム。点検の結果、もし部品の交換が必要になった場合、ルナは地球で作られたオートマタだ。つまり最低でも180年前に作られた部品でできている。180年前の地球の部品が現在のアリアで入手できるのだろうか。
「……ツカサさん?」
問いかけからすこしの間があって返事があった。ゆっくりと顔を上げるルナの表情は、普段と変わらない。座卓に投げ出された淡い色の髪が、重力を思い出したかのように持ち上がっては、はらりはらりと落ちていく。そしていつもと違う点がひとつ。あのいつも明るく輝くルナの瞳の光が消えていた。薄っすらと青いレンズの奥にはいくつもの部品が見えており、おそらく中央の大きな黒い部分が光学センサーだろう。他にも周りから中央に線状の何かが層をなしているが、人間でいうところの瞳孔、光を調節する絞り羽かもしれない。
ルナが体を起こすため両手をつき俯くと、ルナの目は一瞬見えなくなった。再び顔をあげた時にはいつもの青い光が瞳に戻り、目の奥も見えなくなっていた。
「だい、じょうぶ、ですか?」
「はい、大丈夫です。見苦しいところをお見せしましたね」
「いえ、その、倒れていたように見えたので。どうしてあんな姿で……、寝ていたんですか?」
「どう、ということも無いのですが、先日マーニー、アルテミシアと話をしまして。列車の運行管理は三人で交代することにしたんです。そうすると、私がこれまで運行管理に割いていた時間が、空き時間になってしまいまして。何をしようかと迷っていたところ、マーニーが『何もない時は、思い切ってだらっとしてみるのもいいのではないか』、と」
「だらっと……」
「はい。マーニーが言うには『何事もまずは形から』と」
確かに言われてみれば、机にうつ伏せで片腕を枕に力を抜いた様は、人間がだらっとしている時の姿によく似ていた。つまり本当に何でもないのだ。そう理解すると、動揺した自分がすこし恥ずかしくなった。
「それであんな体勢で……」
「……はい」
思わず口に出た言葉を肯定したルナもまた、どこか気恥ずかしげに見えた。
「ツカサさん。もしよければ効率の良いだらけ方を教えてください」
『だらける』は非効率を望む行為だ。非効率を求める行為に、効率も何もあったものではない。
そう思い視線を戻すと、ルナの顔はいつもの冗談を言い合う時の笑顔に戻っており、頬の歯車もくるくると回っていた。
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