ヘリウム3
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
「ツカサさん、ツムギさん。少しよろしいでしょうか?」
朝食を終えリビングでくつろいでいた僕達に声を掛けてきたのはアルテミシアだった。アルテミシアは三姉妹の中で一番、声が低くルナよりも丁寧な話し方をする。長身でスタイルがよく赤い長い髪と白い肌が特徴的な大人の女性という感じだ。
「お手数をおかけしますが、どうぞこちらへ」
促されるまま、ついて行った先は視聴覚室だった。モニタ正面のソファに二人して座らされると、モニタに映像が映る。映像には大きな会議室と三人の男が映っていた。
一人目は痩せ型で身長の高い金髪で白衣を着ている。
二人目は紺のスーツを着た黒髪。
そして、三人目は―――。
「パパだ!」
ツムギの言う通り、僕達の父さんだった。タクミの家で見た遺影では真っ白だったが、まだ黒髪で服装は黒いポロシャツに白いチノパン。地球でもこのスタイルばかり選択していたのを覚えている。母さんが「たまには違うものを着たら?」と言うと、次の日には白いポロシャツに黒のチノパンになることもあった。
「アクシスノースのストレージを探してみたところ、ミーティングを行った際の映像がいくつか見つかりました。これは移民初期に資源工学のシュミット博士、材料工学のチェ博士とタウセチ星系 第五惑星の話をしているシーンです。
もし辛いのであれば、停止しますので仰ってください」
ツムギを見ると映像を見入っているようだ。やはり父親が恋しいのかもしれない。
「大丈夫そうです」
アルテミシアは安心した様子だった。
モニタでは三人が会話をする様子がうかがえる。
『ハジメ。私を呼んだのはどんな用件なんだ?
知っての通り、こっちは水を確保するのにてんてこ舞いなんだ。
悪巧みなら、いつも通りチェ博士と二人でやってくれ』
そう言ったのは金髪の男性、モニタにアップで映った顔にはシワが何層にも走っており、この中では一番年上であろうことがわかる。
『まぁまぁ、そう言わずに。シュミット博士』
『そうそう、これを知ったら「なぜ呼ばなかったんだ」って後で言い出しますよ』
なだめたのは父さんで、続けたのはチェ博士だろう。
『そうあって欲しいものだ』
モニタに何か映るが、モニタの中のモニタということもあり、解像度は高くない。ただ、映っているのは惑星のようだった。丸い淡い青色をした惑星、中央部分だけ色が濃いのが分かる。
『今日、宇宙望遠鏡から送られてきた最新の画像がこれなんです。面白いと思いませんか?
タウセチ星系 第五惑星です』
『第五惑星。ふん、確かに変わった見た目をしている。
目玉のように見えるが、それが面白いのかね?』
『アイボールアース、と言うんですよ。
シュミット博士も口にした通り、目玉に見えるでしょう?
この星は自転していれば巨大な海か、一面氷かになっていたでしょうが、常に同じ面がタウセチを向いている。そしてタウセチを向いた面は常に光を受け氷が解けているわけですね。結果、目玉のように見えることから、こういう星をアイボールアースと呼ぶんですよ』
『ふん、資源工学の専門家を呼んで、天文学の講義でも始めるつもりか?
さっさと用件を言え』
『では、用件を。
タウセチ星系 第五惑星には磁場が無い、そして、大気も薄い。
つまり、太陽風。いや、タウセチ風も届いている』
『………ヘリウム3か』
『御名答!』
『ついでに、あの星の表面はほぼ氷です。つまり―――』
『水。
つまり、第五惑星の表面を削ってくるだけで、アリア最大の問題が二つも解決するわけだ。未来の核融合燃料、そして、水。しかし、別の惑星だ。そう簡単に取りに行けるものでもあるまい。
どうするつもりだ?』
『それを相談したかったんですよ』
そう言った父さんは笑顔だった。
はぁ、とため息をつくのはシュミット博士。
『資源工学なんぞ専攻するものではないな、やれ水が足りない、ちょっとタングステンを取ってきてくれ、終いには別の惑星にヘリウム3が眠っています、か。
地球の後進に、言ってやらんとな』
『何と?』
『総合科学と材料工学の専門家には近づくな。だな』
モニタの中では、三人が楽しそうに笑っている。
「ツカ兄と一緒の顔してる」
「ん?」
「なんか変なこと考えてる時の顔」
背後から微かな笑い声が聞こえた。
「お父様は、いつもこの会議室でご友人のチェ博士と打ち合わせをしていました。
いつも無茶を言うのですが、気づけばまわりを巻き込んで何とかしてしまう。そんな方だったと記憶しています」
父さんが僕とツムギを探して捜索隊に参加したことはタクミから聞いていた。何となく「どこにいるのかわからない子どもたちを探す父親」を想像し、どこか悲壮感ある父の姿が頭の中に浮かんでいた。だが、モニタの中の父さんはいつも通りの笑顔で、それが少し嬉しかった。
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