旅へ
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
タクミの葬式が終わった後も、いろいろと忙しかった。タクミに会ったらタクミから話してもらおうと思っていた両親のこともツムギに話した。もう両親に会えないと理解したツムギは泣いたが、割とすぐに切り替えられたようで正直ホッとしている。
移民70周年のセレモニーにも出席した。
そしてこれからのことも……。
「これが追加してほしい新しい車両ですか?」
「ええ。タクミの遺産……というより、父さんの遺産の半分を、僕がいつ目覚めてもいいように手つかずで残してくれていたみたいで」
「そんな大事なお金を……。
いいんでしょうか」
「僕とツムギを救ってくれた命の恩人たちに、感謝のプレゼントということになりますね。
両親もこの使い方なら許してくれると思います。
……それに中を見てもらえばわかりますが、半分は僕とツムギのためなので」
みんなを連れて車両の中に入る。
「この車両は教室と図書室ですね。
これまでリビングでツムギの授業をしていましたが、黒板もホワイトボードもなかったので、あったほうがいいかと思って付けてみました。あと授業の邪魔をしないようにグリムやエドガーが貨物車両に退避してくれていたのがずっと気になってたんです」
「俺達のことは気にしなくても良かったんだがな」
そしてツムギがいかにも嫌そうな顔をする。
「……教室、なくてもいいよ?」
「必須ですね」
「必須です」
「えー」
「ここから向こうが図書室、兼視聴覚室ですね」
本棚は全部で10個あり、そのうちひとつにはルナとグリムがもともと持っていた本を、5つには傑作と呼ばれる古典から現代までの本。2つは辞典、辞書、そしてアリアに関する資料を収めてある。最後の1つは今後増えることも見据えて空にしてある。
そして、空の本棚の下から三段目には一枚の写真立て。
タクミの長男が「父の机にずっと飾ってあったものですから」と言って渡してくれた、古びた銀の額。中には地球で撮った家族写真が一枚。庭先で並んだ、両親と、双子の兄弟と、まだ三つか四つほどのツムギ。ツムギは父さんに抱き上げられて、笑い声が聞こえてきそうな顔をしている。
「どっちがツカサだ?」
「真ん中がタク兄?」
グリムとツムギの疑問の声。ツムギが小さな指で写真を指す。写真右に並んだ双子の姿はよく似ており、一見すると判別するのは難しいかもしれない。
当の本人達以外には―――。
「……真ん中は僕だと思うんだけど……」
「ツカサさんもわからないんですか?」
「まぁ、どっちかが僕ですよ」
「はは、そりゃそうだ」
本棚がぐるっと囲む視聴覚室の中央にはカーペットを敷き、その上にL字型のソファーと壁掛けディスプレイ。ディスプレイにはまだ何も飾られていない。何を飾るかはこの後みんなで考えるつもりだ。
「おい、これ!」
本棚を覗き込むように見ていたグリムが少し大きな声を出した。きっとグリムなら反応するだろうとあらかじめ仕込んでおいたものだろう。
「ポアロが地球産で全巻揃ってるじゃないか!
180年前の紙の本、それも一式なんて、博物館にあってもおかしくないぞ!
それに……、こっちはホームズ全集、フレンチ警部、ブラウン神父、ミス・マープルまで……。
はは、古典ミステリーのレジェントが勢揃いだな!」
「グリムさんなら反応すると思ってました。
ポアロにはお世話になりましたから、僕も読んでみようかと」
「ははは、なるほどな。
いやー、それにしたってポアロは簡単に手に入るもんじゃないだろ」
「この間、古書市に行った時にたまたま売っている方がいまして。
地球から持ってきたらしいのですが、子どもたちは紙の本に全く興味がないのだと寂しそうに言ってました。本当にミステリーが好きな方になら、そういって少し安くしてくれたんです」
「それは大切に読ませてもらわないとな」
「ですね」
「私も読んでみたいので、今度読書会でもどうですか?」
「悪くないな」
「いいですね、ぜひやりましょう」
次の車両に移ると目に入るのは長い廊下に9つの扉。
「そしてこちらの車両がコンパートメントですね。
今までみんなの個室がなかったので、一つ車両を用意しました。全部で8室あります。
もちろんマーニーさんとアルテミシアさんの個室もありますよ」
「わぁ、ほんとに嬉しいです。
個室付きの列車で旅ができるなんてなんだか夢のようですね。『三人で新世界を旅しよう』と言い出した時は、転がり落ちる岩から逃げたり、ムチを振るって谷を飛び越えたり、そんな光景をイメージしていたのですが、こちらのほうがずっと素敵だと思います!」
「マーニー、あなたそんな大冒険に私達を巻き込むつもりだったんですか?
ほんとにあなたは昔から自分の欲望に人を巻き込むことに躊躇がないと言うか、なんというか。
あ、ツカサさん。私達の分まで本当にありがとうございます」
「どういたしまして」
各々個室に入っていく。通路にはルナと二人だけが残った。
「本当に三人だけじゃなくていいんでしょうか」
「はい、マーニーもアルテミシアも喜んで合意してくれました。
ツカサさんこそ、アクシスノースに残ってやりたいことがあったんじゃありませんか?」
「アクシスサウスに絶対に行くと言い始めたのがツムギですからね。
タクミにも約束しましたし、流石に一人にはできません」
「ふふ、ツカサさんらしいですね」
「そうでしょうか」
「はい」
あれからマーニーとツムギは随分と仲良くなったようで、ツムギはアクシスサウスのことをマーニーからいろいろと聞いていたらしい。旅の行先を決める際、ほぼツムギの意向と事前の根回しにより列車の行先が決まったのだった。
「みんな、準備はいいー?
というわけで、アクシスサウスへ向けてー!しゅっぱーつ!!」
ツムギの掛け声に合わせ、ゆっくりと列車がアクシスノースのホームを離れていく。
ここまで読んでいただいた皆様へ。
まずはお疲れ様でした。
連載開始から一ヶ月とちょっと、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。
もともと本が好きで、人生で一度は小説を書いてみたい、ずっとそう思っていましたが、皆様のレビューや応援があってなんとか最後までなんとか連載することができました。
重ねて感謝申し上げます。
ありがとうございました。
なんだかラストっぽいですが、一応もう一話続きがあります。
ストーリー的には特に進展はしないのですが。
もしよければ読んで行ってください。
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