弔辞
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
三人はもう大丈夫、そう判断してみんなのところに戻ると、入国手続きを行った部屋で待ってくれていた。少し離席することをグリムに伝え、ツムギを連れてもう一つの大事な用事を済ませに向かう。
「タク兄、元気にしてるかな?」
「多分ね」
道の脇にある案内板には『第3区画』と書かれていた。手紙によれば、タクミの住居は『アクシスノース1番街、第3区画、11号』。
しかし、ようやくたどり着いた目的地には、どこか不穏な空気が漂っていた。家の前では、黒い服を着た大人たちが慌ただしい様子で出入りをしている。
胸の奥がざわついた。
「あの、ひょっとしたら、ツカサ……叔父さんじゃないですか?」
不意に声を掛けられ、声の方を向くと白髪の男性が居た。自分よりずっと年上の、下手すれば祖父ほども歳の離れた男性からの「叔父さん」という呼びかけ。
「……はい、ツカサです」
「やっぱり……。
ニュースで見た通りだ」
白髪の男性は目元を拭い、深く頭を下げた。
「私はタクミの長男です。とりあえず、ここじゃなんですし……中へどうぞ。
父も、あなたにずっと会いたがっていましたから。
会ってやってください」
案内された部屋の奥には、祭壇が設けられていた。そこに飾られていたのは、穏やかに微笑む見知らぬ老人の遺影。しかし、その目元には、確かに僕と同じ顔を持っていた双子の兄の面影があった。
「一昨日から風邪で熱があったのですが、今日の早朝、肺炎で……」
◆ ◆ ◆
弔辞
親族を代表して弔辞を読ませてもらいます。
もっと良い人選があったはずですが、すっかり白髪になった甥に『共に過ごした時間の長さ』ではなく『共に過ごした時間の割合』では僕が一番ですから、となんだかタクミのようなことを言われてしまい、思わず引き受けてしまいました。僕がアクシスノースに着いたのは昨日の昼過ぎでしたが、タクミがその日の早朝に肺炎で亡くなっていたことを知ったのは家を訪ねた時でした。せめてあともう一日、そう思わずにはいられません。
話は変わりますが、どうしてもタクミに言葉にして感謝を伝えておきたいことが二つあります。
一つ目は両親の事。アリアで解凍された後、二人と共にこのアリアで生き、僕にできなかった分、たくさんの思い出を両親に残してくれたことと思います。本当は僕とツムギもそこに加わりたかったのですが、タクミは随分と両親思いだったことを伺いました。きっと僕とツムギの分も親孝行してくれたのだと思います。
二つ目は僕とツムギの事。僕が救助されたと聞き、真っ先に手紙を書いてくれました。自分が誰かすらわからない状態でしたが、あの手紙を読んで家族のことを思い出すことができました。そして、その手紙に両親の調べた情報を記載してくれたこと。あの一文がなければ僕らの末妹は助け出されることはありませんでした。
心から感謝しています。
……タクミ、本当にありがとう。
本来ならここらで思い出話でもするのが良いのでしょうが、こうして話をできる最後の機会なので、タクミが知りたがっていることを話そうと思います。
まずツムギはとても元気です。この間、6歳になり列車の中で義務教育を開始しました。国語が苦手で、算数が得意なところは僕達によく似ています。多分ですが、かなり優秀なのではないでしょうか。僕らの比較対象は少し特殊なので普通の基準がわかりませんが、九九も割り算もすぐに理解しました。
この間、「『0.4444444…』を分数にしなさい」という問題を一瞬で4/9と答えたのは正直驚きました。
『だって0.1111111…の4倍でしょ?』だそうです。
普通は『0.1111111…』が1/9だという事になかなか気づかないような気もしますが。
調べてもらったところ、インターナショナルスクールがアリアにもあるようなのでそこで学んでもらうことになるかもしれません。
そして、僕の方は、少し研究したい課題ができたのでアリアの大学に連絡を取ったところ客員として迎え入れてくれるそうです。そういうわけで、一番の問題だった生活費もなんとかなりそうです。タクミ達が親子三人で頑張ってくれたように、残された僕達も兄妹二人でなんとかやって行こうと思います。
心配しないでください。
最後になりますが、タクミからもらった手紙には、『話したいことが沢山あります』そう書かれていました。僕にも話したいことが沢山できました。僕とツムギの人生はまだ始めの方ですので、少し待たせてしまうかもしれませんが辛抱強く待っていてください。取っておきの冒険譚を用意しておこうと思います。
いつか父さん、母さんも交え、アリアの空で会いましょう。
それでは、また。
アリア歴 70年 12月1日 山城 司
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