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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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マーニー

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 北極点に近づくにつれてタウセチを追いかけているという感覚が薄くなっていく。正面、あるいは正面右手にあったタウセチはほぼ右、そしてやや右後ろに移動してゆく。それはつまり北極点に近づきつつあることを、そしてこの長い旅が終わりに近づこうとしていることを意味していた。

 今後の事はわからない。基本的にはタクミと相談して決めることになるのだと思う。


 アクシスノースは大きなクレーターの底に築かれた地下の街だった。中心には見上げる程に高い塔が聳えている。レールの終着点は街の手前にある広い停車場で、何十もの列車がホームに並んでいた。働く人やオートマタの中には不思議とこちらに目を向けてくる者が多く、辺りを見回せばよく視線が合った。


 展望台があるとルナがいうので、みんなで登ってみる。展望デッキから街を見下ろすと、巨大なクレーターの上部はガラス状の板で覆われており、その内側で塔を取り囲むようにビルが立ち並んでいた。


「あのクレーターは直径3kmあります。

 入植当初はクレーター部分だけに街があったのですが、今ではこの足元、大体直径10km付近まで広がっていますね」


「掘り進めたんですか?」


「正確には『溶かし進めた』でしょうか。

 核融合エネルギーを操るようになった人類最大の武器は熱といっても過言ではありません。ほとんどの物質を溶解し形成できるわけですし、昔のように大型のダイヤの歯でできたドリルで少しずつ掘り進めるよりずっと効率的です」


「あれ?

 ツムギを掘り出すとき、グリムはかなり苦戦してませんでした?」


「あそこで溶解掘削をすると解けたマグマがポッドを破壊する恐れがあったんです。それに沸点の低い物質の多くは蒸発します。鉛、ヒ素、水銀などが蒸発すればツカサさんは無事ではすみません。人が居る場所では簡単に溶解掘削は使えないのです」


「なるほど、重金属を肺から吸い込んで死ぬのは僕も嫌ですね」


「ふふ」

 ホームへと戻ると、案内のオートマタが待機していた。彼に連れられてアクシスノースに入ることになるらしい。ルナの話では、僕とツムギの事はアリア全体でニュースになっているとのこと。


「捜索隊が解散されて初めて救助された兄妹、そして救助された最後の避難民。奇跡の子。

 そんな呼ばれ方をしているらしいですよ」


「最後……ですか?」


「おそらく。

 アクシス政府は捜索隊の再結成はしない旨を公表しました。理由は至って簡単で、核融合炉の設計限界は180年。これは核融合炉は『最低180年以上保つ設計』ということではなく『180年でシャットダウンする設計』という意味なんです」


「……つまり」


「はい、お二人を救った核融合炉も、じき自動的に停止するでしょう」

 あと少し見つかるのが遅ければ、自分たちは助からなかったということだ。そして、まだ救助されていない方々のことをどうしても考えてしまう。


「しんみりしたってしょうがねぇさ。

 助かったことを祝おうぜ」

 軽く背中を叩かれた。


「あそこに見える大きな岩の壁にある門、あそこから先がアクシスノースの中心街ですね」


「それにしても、よくあんな都合のいいクレーターが北極点にありましたね」


「あれは人類が作ったクレーターです。

 アリアへの着陸は3つのフェーズがありまして、横方向の減速、縦方向の減速、地上への着陸です。このうち横方向、縦方向の減速には核融合ロケットで大まかな減速をするんです。その際、ノズルスカートから噴出されるエネルギーは地表を簡単に溶かしてしまうほどの温度になります。地表への着陸直前に核融合ロケットで大まかな減速をする際、地表を溶かし大きなクレーターができてしまうんですね。

 それがあのクレーターです。あの中であれば風の影響も最小限にすみますし、何より上面を覆うだけで簡素な地下都市の下地ができてしまう」


「なるほど、効率的ですね」


「でしょう?」

 先導のオートマタに続いてルナが門を越えたその時。一人の少女が両手を広げ、抱きしめるようにルナの胸元に飛び込んできた。褐色の肌に白い髪、見た目は姿が整った人間にしか見えない。


「……ごんにぢは」

 ルナの服に顔を伏せ、そう言った少女の声はふるえていた。そして、少女は続ける。


「私の名前はマーニーです。……あなたの名前はなんですか?」

 あの時を思い出したのかルナの表情が一瞬崩れ、そして笑みになる。

 少女の頭をそっと撫でるルナ。


「……私の名前はルナです」

 顔を上げたマーニーの顔は涙と鼻水で濡れていた。


「マーニー、あなたなんて顔してるんですか。

 せっかくの可愛い顔がぐしゃぐしゃですよ」

 ずずっと鼻をすする姿はとても女神の名前を持つ人物には見えなかった。その顔は子供が泣きじゃくったあとの顔そのものだ。そしてルナのお腹に濡れた顔をこすりつけるマーニー。


「ちょ、マーニー!?」


「ルナが悪いんです。

 私が一体どれだけここで待ったと思っているんですか」

 マーニーは顔をお腹につけたまま、ふくれたような、ぶすっとした子どものような声で喋る。


「……すみません。わかりません」

 顔を上げ、ルナを睨むマーニー。


「……65年です。

 日に換算すれば23,826日、時間なら571,824時間」


「ずっとここに立っていたのですか?」


「はい」


「暇なんですか?」


「いくらなんでも酷すぎます」


「ふふ、冗談です」


「ここが今なんと呼ばれているか知っていますか?

 待ち人の門、マーニーの門なんて呼ばれているんです」


「素敵な名前ですね」


「そういう事ではありません!

 名前が付くほど、それだけ長くここで待っていたんです!


 あそこにいる守衛の方はイノウエさん、守衛さんとしては18人目です。そしてあそこにある定点観測モニターで私のただただ待つだけの姿が今も配信されており『マーニーちゃんを見守る会』という謎の組織まで結成されたんです!


 言っておきますが、すべてルナのせいですから!

 あなたがすぐに来ないから」


「そう、かもしれません」

 『自分は本当にルナなのか』、答えのない問題をルナが考え続けていた時間、マーニーはずっとここで一人待っていたのだろう。


「さらに言えば、今アリアで私の名前マーニーは『まちぼうけ』の代名詞のように扱われているんです。

 『マーニーされた』って、何ですか?

 待ちぼうけをくらったくらいの使い方をしないで頂きたいものです。100歩譲って待ち続けているなら許しもしますが、『された』って過去形にしている時点であなた諦めて家に帰ってるじゃないですか!


 ……『私は今も待ち続けています』、何度……そう呟いたことか。


 最低でも10年は待ってから使ってほしいものです」


「そんなめちゃくちゃな」


「おみくじの待ち人欄に『マーニー見習うべし』って書かれたこともありました。

 『待ち人来ず』みたいな使い方をされたんです。いくらなんでもひどすぎです」


「それは、ちょっと悪意を感じますね」


「でも、これでやっと公式に苦情を入れることができます」

 再びマーニーがルナの胸元に顔を伏せ、背中へ回した腕でぎゅっとルナを抱きしめる。


「だって……私の待ち人はちゃんと来ましたから」



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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