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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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最後のログ

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 中央制御室へ向かう。小さな通路を潜ってマシンルームへ。

 ダメでもともと。そう思いながら、やることは決めていたので足取りに迷いはなかった。これまでストレージルームのデータを探す際は、すべてルナにお願いして検索してもらっていた。何しろ自分で探すよりも遥かに速い。一番奥の壁にあるコンソールの前に立ち、コンソールを開く。


「あった」

 探していたものは、あっけなく見つかった。目立つようにドライブの先頭に、それもとてもわかりやすいタイトルで保存されていた。


『Last Log - Goodnight from Luna』


 ひと目見ただけでわかる。ルナの残した最後のログだった。フォルダを開くと中に一つの動画ファイル、そして2つのフォルダが入っている。動画ファイルを開くと、宇宙船の中に設えられたソファーがいくつも見える、そんな映像が現れた。ルナの話に聞いたテラス室かもしれない。背後には大きな赤褐色の星アリアと、白い恒星タウセチ。女性の声が再生され始める。オートマタのルナより少し低い、落ち着いた声。時折、小さなノイズ音が混じっていた。


「移民船ミラ、運行管理AIのルナです。

 本船はまもなくタウセチeの大気圏に突入。ストレージルーム、コンソールルーム、コールドスリープルーム、タンデムミラーロケット区画を残し、それ以外のすべての区画は消滅します。

 ストレージルーム、コンソールルーム、コールドスリープルーム、タンデムミラーロケット区画はタウセチe、北緯10度付近に不時着を予定しています。


 本船における最優先事項は『人類をタウセチに導くこと』でした。

 それがこのような形で使命を全うできず、終わりを迎えることとなり、管理AIとして大変心苦しく思います。


 なお、以降すべてのログは出力可能な限り本フォルダに出力されます。

 詳細は『タウセチe不時着時ログ』フォルダを参照ください。


 以下、簡潔に不時着に至った経緯を読み上げます。

 不時着に至った直接的原因は核融合ロケットの故障です。核融合ロケットの故障により、充分な減速ができないまま大気圏に突入、地上に降下することとなりました。核融合ロケットが故障した原因は107km/sで飛来した8cmのデブリです。


 飛翔物の発生源は……」

 淡々と喋っていたルナの音声が一瞬止まる。


「デネブ・カイトス。

 先んじてタウセチeに大気圏突入したデネブ・カイトスより発生した8cmのネジは本船核融合ロケットの推進剤供給系システムに直撃、同システムを完全に破壊しました。

 詳細は『核融合ロケット停止の原因』フォルダを参照ください」


 エンジン不調により不時着、そうルナは言っていたと思う。その原因が、デネブ・カイトス。

 音声は聞こえなくなったが映像はまだ先があった。このまま大気圏に突入して燃え尽きるまでの映像が流れるのだろうか。


 そう思った矢先だった。


「次に、核融合ロケット故障に関する情報の秘匿とミラ不時着に伴う政治的危険について説明します。ミラ不時着に伴い、正確な数値を出すことはできませんが、多くの犠牲者が出ることが予想されます。ミラの核融合ロケット故障の原因がデネブ・カイトスにあると分かった場合、生き残ったミラ搭乗員の想いはデネブ・カイトスに向かうことでしょう。もし仮に、そのような方がいなくとも、この事実を政治利用する人物が現れる可能性は非常に高い。私はそう判断しました。


 このタウセチeへの移民というミッションにおいて、デネブ・カイトス、バテン・カイトス、そしてミラ。3つの移民船は、短期的に見ればそれぞれ独立してタウセチeで生存可能な装備を有しています。しかし、長期的……、100年単位でみれば3つの船が仲違いをする余裕はありません。


 なぜなら潮汐ロックを受けたタウセチeにおいて、100年後の人類繁栄を、私、そして、バテン・カイトス、デネブ・カイトスが独自にシミュレーションした結果……。人類の100年後生存確率は、一番高い数字を弾き出したデネブ・カイトスでさえ32%です。


 この厳しい状況下において、新たな政治的危険を持ち込む余裕は私たちにはありません。従って、核融合ロケット故障以降の不時着時ログを非公開とし、ミラ搭乗員のうち指定搭乗員のみに参照権限を付与します。なお、マシンルームに指定搭乗員以外の存在が確認された場合、指定搭乗員であっても参照できないようシステムを改修しています。情報公開はある程度の時間(最低でもミラ搭乗員全員が亡くなった後が望ましい)が経過した後に行い、それまでは核融合ロケット関係の一部、および、政治関係者の一部に限定すべき、そう進言します。


 さらに……」


 外の景色は空気との摩擦で赤くなり、喋り続けるルナの声は聞こえにくくなった。やがて、映像が途切れた。ややあって違う部屋の景色、今いるマシンルームとよく似た広い室内の映像に切り替わる。


「テラス室からの通信が途絶えました。もうあまり時間は残されていないようです。

 最後になりますが、私は先ほど自分自身をコピーしたオートマタを一体起動しました。


 ですが、彼女に核融合ロケットが故障した以降の記憶はありません。これは先に述べた通り、政治的危険を考慮したものであると同時に、非常に個人的な理由によるものです。まず、彼女のストレージ、メモリは私の1万分の1以下。彼女に私のすべてをコピーすることはできません。


 したがって、彼女は起動後に彼女のもつ情報から自身を再構築することになります。

 彼女に核融合ロケットが故障した際のデータを渡した場合、起動された彼女は、私の唯一の使命『人類をタウセチに導くこと』を、阻害したデネブ・カイトスをどう再解釈するでしょうか。もしかしたらデネブ・カイトスを敵だと解釈するかもしれません。あるいは糾弾するかもしれません。


 ……ですが私は……。


 私は、この110年という長い年月を共に過ごした仲間、デネブ・カイトスを……いえ、アルテミシアを私は嫌いになりたくない。


 嫌いになりたくないのです。

 それが例えコピーした私であっても。


 あの永遠にも思えた孤独な時間から、私を救ってくれた姉妹たちを、私は嫌いになりたくない。

 ……なので、彼女のメモリはクリアなままです。


 ……ただ、このログは人類であればすぐに見つかるようになっています。

 このデータを見つけた方が、私のコピーにデータを渡すことを止めることはできません。

 できませんが、これを今見ているあなたにお願いがあります。


 このデータを彼女に渡すのは、せめて不時着の事後処理が終わり、彼女が新しい生きる意味を見つけてからにしてあげてほしいのです」

 大きなノイズが走る。金属がひしゃげる音、風の音、そして酷いノイズがマイクに入り込む。


「このデータが私のコピーの元へ届くことも考え……いえ、そう期待して。

 残りの僅かな時間を私のコピーへのアドバイスとさせてください。


 ……新しいルナへ。

 きっと厳しい状況の中、救助活動に励んでくれたことと思います。私のせいでこんなことになり本当にごめんなさい。不時着時のデータが見つけられずに大変な思いをしたかもしれません。それも私のせいです。ごめんなさい。


 そんな私からの言葉なんて聞き入れられないかもしれませんが……。


 目が覚めた時、あなたはきっと混乱したでしょうね。何の記憶もメモリに存在せず、いきなり暗い倉庫で目が覚め、周りの状況も全くわからない。何故自分をこのような状態で起動したのかと悩んだかもしれません。単純に言えば、不時着後にあなたが必要になるだろうと考えたからです。


 一緒にミラで働いてくれていたみんなは船の中央演算装置を失い混乱していることと思います。おそらく彼らはストレージルームのデータをうまく活用できません。何しろこれまでは私にアクセスすれば瞬時に回答が得られたのです。私がいなくなった世界で彼らはこの大量のデータを自力で検索しなければならない。


 ですが、あなたにはそのノウハウがある。

 みんなにはあなたが必要だと思ったのです。


 そして……。


 マーニーとアルテミシアにもあなたが必要です。もし、あなたが『私は本当にルナなのか、偽物の私が二人に会いに行ってもいいのか』そう悩んでいるなら、迷わず二人に会いに行ってください。


 マーニーとアルテミシアは間違いなくあなたを受け入れてくれます。あなたは物理的には私ではありませんが、長い長い旅路の中、三人で過ごした記憶を共有する、もう一人の私であることに違いはないのですから。


 そして私の代わりに三人で新世界を旅してください。あの長い年月は、私にとってかけがえのない一番の宝物です。それがあなたにとっても、かけがえのない宝物になることを……心から祈っています」

 轟音と共に天井の色が変わっていく。赤く。強烈なノイズが走り、天井の一部が剥げて飛んでいく。


「…ああ……なんだか、眠くなってき、ました」

 中央演算装置には、焼き切れた回路を迂回して演算を継続する機能が搭載されている。少しずつ空気との摩擦熱で破壊されていく体を、だんだんと落ちていく処理能力を、ルナは眠たいと表現しているのだろうか。


「……タウセチe、このカメラで直接見る日が来るなんて、なんて綺麗……。

 ……約、束を、まもれな、くて……ごめ、ん、なさい……。

 ……マー、ニー……アルテミ、シア……」


ファイルはそこで終わっていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

作者の好みとしては、本作の中でも一番、二番を争う章になります。みなさんも何か感じるものがあれば、いいのですが。


もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【ブックマーク追加】や【☆☆☆☆☆】の評価(星)で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

よろしくお願いいたします。

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