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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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ホームズとポアロ

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 これが大空洞で何度目の食事になるだろうか。苔のスープを口に運びながら、これまでのことを考える。マシンルームにはあれから何度も足を運んだ。ルナと『不完全な記憶』を埋めるピースを探してみたが答えは何一つ見つかっていない。


 食事を終えてしばらくすると、ツムギとラビは遊びに出かけてしまった。ルナも『ちょっとお花を摘みに』と謎のセリフを残し、エドガーとキャンプから離れていく。どんな顔をしていたのかわからないが、グリムが説明してくれた。


「列車の様子を見に行ったんだろう。

 と言っても、上の方はかなりの温度になってるだろうから、できることは少ないだろうが」

 そう言いながら一本しかない左腕で器用に小さな文庫本を取り出す。


「何を読んでるんですか?」

 背表紙を見ようと頭を下げると、すっと持ち上げ、見やすい位置に持ってきてくれた。背表紙には『四つの署名』コナン・ドイルと書かれてある。


「ホームズですね」


「ああ。読んだことはあるか?」


「ホームズは数冊だけ、『四つの署名』は読んだことがありません」


「この本には有名な格言が出てくるんだ。

 『Eliminate all other factors, and the one which remains must be the truth.』。

 知ってるか?」


「えっと、言葉自体は知りません。意味はなんとなく。

 『他の可能性をすべて排除すれば、一つ残ったそれは真実に違いない』でしょうか?」


「そんなところだな。

 こんなことを本の中の登場人物にいうのもあれだが、シャーロック・ホームズってのは相当に頭の回転が速いんだな。ありとあらゆる目的地までの筋道を並べて、あり得ないルートはどんどん排除していく。そうして最後に残ったたった一つの筋道こそが真実だ、そういう考え方をする。

 それがこの格言に現れてるわけだ」


「なるほど」


「少し話はそれるが、面白いことに同じ名探偵でも全く違う思考回路で事件を解決する人物もいる。

 ホームズが探偵業を引退し田舎で養蜂を始めた頃、時を同じくしてベルギーからイギリスにやってくるんだが。誰かわかるか?」


「えっと……」


「ポアロだ」

 名前は聞いたことがあるが、読んだ記憶はない。


「確か、アガサ・クリスティーの……?」


「それだな。

 エルキュール・ポアロはシャーロック・ホームズに匹敵するほどの名探偵だが、二人の思考回路は驚くほどに違う」


「そんなに違うんですか?」


「ああ。ホームズは観察を重要視するが、ポアロは心理を重要視する。例えばホームズの場合、現場の証拠や事実から『あり得ない可能性』を徹底的に排除していく。靴についた泥の色や、机の上の切手の数なんかを観察して、無数にある行先や行動からあり得ない選択肢を削り落とす。

 そして最後に残った一つが真実だ、という推理だ。


 対するポアロは、証拠から犯人を絞り込むんじゃない。『なぜ犯人はこんな回りくどいことをするのか?』『こんなことをして誰が一番得をするのか?』と、犯人の心の中に入り込んでいく。犯人がどんな人間で、どんな思想や動機があるのか、そういった心理面から真実を組み上げるんだな。


 対極とまではいかないが、同じゴールにたどり着くまでの思考回路がずいぶんと違うわけだ」


「なるほど。

 それがグリムさんのホームズとポアロを読んだ感想ですね」


「ん?

 ああ、そういう事か。いや、今のは人類の一般論に近いな。

 ……せっかくだ俺の感想を言おうか」

 楽しいのだろう、さっきからグリムは笑顔で饒舌だ。


「俺の感想だと、ホームズの推理はAIで、ポアロの推理は人間だ。

 俺達AIは会話をする際、無限にある答えの中からより良いものを絞り込んで、たった一つ残った答えを出力する。この思考回路はホームズが推理をする時のそれによく似ていると俺は思う」


「なるほど、言われてみればその通りですね」


「対して、人間は自分の気持ちをベースにTPO、相手への愛情、時には嫌悪感といった心理的要素を加え、出力するものを練り上げていく。この思考回路はポアロが推理を組み立てる時のそれによく似ている。

 言ってしまえば、AIの思考は∞→1、対して人間の思考は0→1だ。どちらも同じ1を出力するが、その思考回路はAIから見ると驚くほどに違う。


 面白いと思わないか?」


「たしかに。

 これは面白いですね」


「だろ?

 ルナの課題にでも役立ててくれ」


「あれ?

 ご存じなんですか?」


「なんとなくな。ルナから聞いたわけじゃないが……。

 ルナは優秀なAIだが、いや優秀なAIだからこそ、か。自分で解けないと感じた時にはすぐに回りに助けを求める。

 相手は選ぶけどな。

 ちなみに、ツカサになら俺でも相談するさ」


「なんだかハードルが上がっているような」


「はは、気にするな。気楽にいけ。

 ちなみに俺も相談されたが、手も足もでなかったからな」


「反応に困りますね」


「ははは」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

個人的にはとても好きな回です。ホームズとポアロの対比をAIと人間と評価するグリムの考察が気に入っています。


もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【ブックマーク追加】や【☆☆☆☆☆】の評価(星)で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

よろしくお願いいたします。

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