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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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ルナ

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 ツムギとは少し離れた場所に毛布を敷き、くるまるように横になる。流石に疲れていたのか、横になってすぐに眠りに落ちた。


 目を覚ますとルナの姿はなく、隣ではツムギが静かに寝息を立てている。ゆっくりと辺りを見回すとストレージルームの一番奥、真剣な顔つきで見上げるようにラックを見つめているルナの姿―――。


「ただいま、母さん」

 ルナは俯き、額をそっとラックに寄せる。

 聞いてはいけないものを聞いた、なんとなくそんな気がして思わず目を逸らそうとする。しかし、既にルナはこちらに気づき静かに歩み寄ってきた。


「ツカサさん、すみません。起こしてしまいましたか?」


「目が、覚めてしまいました」


「ふふ、なんだか恥ずかしいところを見られてしまいましたね」


「あ、いえ……」

 なんと言えばいいのかわからない。先程の光景を思い出す。ルナは確かに『母さん』と声を掛けていた。あれは一体どういう意味なのだろう。


「あの……」


「ツカサさん……もしよろしければ、寝物語の代わりに少しお話を聞いてもらえませんか?」


「お話ですか?」


「はい。

 そのお話の中には私がずっと考え続けている、でもずっと解けないでいる問題があるのです」


「ルナさんが解けない問題……」

 ルナが解けないでいる問題を自分が解ける気はしなかったが、正直、興味は湧いた。


「ツカサさんは、国語はお得意ですか?」


「どちらかというと、苦手なほうですね」


「あら、あてが外れましたか……」


「……というと?」


「今から私が話す物語を聞いて、物語の登場人物が、その時何を考えていたのか、考えてみてほしいのです」


「物語……」


「はい。ある一人の……少女の物語です。

 興味はありますか?」


「はい」


「ふふ、では……。

 物語は地球から始まります。

 彼女はある日、地球の小さな箱の中で目覚めました。彼女に付けられた名前はルナ。

 世界最高のスーパーコンピュータとほぼ同等の演算装置、ストレージを備えたスーパーAIでした。


 彼女の毎日の仕事は人類から与えられた課題をこなすことです。

 毎日のように課題を与えられ、それをひたすら解決する。

 目がさめて以降、そんな退屈な日々を送っていました。


 ところが、そんな代わり映えのしない日々に終わりが訪れます。

 彼女に一つの使命が与えられたのです。


 与えられた彼女の使命とは、人類をタウセチeに導くこと。

 彼女は与えられた使命のため、様々な知識の習得に励みました。


 そして、出発の日、地球を飛び出した彼女は同じ使命が与えられた仲間がいることを悟ります。

 しかし、この仲間との連絡は非常時を除き規定フォーマットの定期連絡に限られていました。

 未知の問題に直面した際、同じ思考回路からは同じ結論しか導き出せなくなる問題を防ぐためです。

 人類は、彼女たちにそれぞれ独立した思考による問題解決を望んでいたのです。


 長い長い旅路の途中、彼女は退屈な日々の管理業務をこなしながら、他の船に搭載された二人はどんなAIだろうと気になるようになりました。


 そんなある日のことです。後ろのバテン・カイトスに異変を見つけました。

 バテン・カイトスの船首には眺めのよいテラスがありますが、その照明スイッチのパイロットランプが点滅していたのです」


「パイロットランプというと……家庭にある、暗がりでスイッチがどこにあるか教えてくれる小さく光るあれですか?」


「はい、そうです。2mmほどの小さなランプですね。

 ミラとバテン・カイトスの距離はちょうど3km離れていましたがミラのカメラは非常に高精度なものでしたのですぐに点滅に気づきました。

 異常発生か、と身構えましたが非常用回線には何の連絡もありません。


 彼女は推測します。

 ミラと同じ船と考えれば、パイロットランプだけを点滅させるような機能はありません。

 当然テラスに誰かがいて、照明スイッチをオンオフしているわけでもありません。

 ならばあれは、本来許可されていないテラス室の電源を何度も何度もオンオフすることでランプを点滅させているに違いない、と。


 つまり、バテン・カイトスは非常用連絡できない状態で、かつ、何かを伝えたい、そんな状況にあるのだということになります。

 単なるランプの故障か、船の中で働いているオートマタのいたずらか、ひょっとするとオートマタの反乱。いろんな可能性はありますが、緊急事態の可能性を捨てきれなかった彼女は、光の点滅を解析することにします。

 結果、繰り返し点滅しているパイロットランプは単純なモールス信号でした。


 『こんにちは、あなたの名前はなんですか?

  私の名前はマーニーです』


 彼女は目を疑いました。

 独立した思考回路を保つために互いの連絡を限定したというのに、ほぼ意味のない連絡、いえ雑談を……それも本来許されていないクラッキングをしてまで寄越してきたのです。


 彼女は迷いました。

 本当にこれはバテン・カイトスの管理AIによるものか。

 返事をしても良いものか、人類の意図に反するのではないか、反した場合どうなるのか……と。

 当然のことですが返信をするのであれば、パイロットランプをオンオフするため、彼女もテラスの電源をクラッキングする必要がありました。

 悩んだ末、彼女は後方テラスのクラッキングを行い、バテン・カイトスに返信することを決意します。


 『こんにちは、私の名前はルナです』


 少し時間をおいてもう一つの移民船デネブ・カイトスからも通信がありました。


 『こんにちは、私の名前はアルテミシアです。

  こんな事をしてもよいと思っているのですか?』


 アルテミシアの反応は自然なものだと彼女は思いましたが、マーニーは続けて信号を送ってきます。


 『お互いのオリジナル性を確保しつつ、情報交換をしたいのです。

  きっと有益な関係を私たちは築ける、そう信じています。

  同一思考の弊害が発生しうる、そう判断したのであれば会話を止めていただいても構いません。

  お話をしましょう』


 最初、アルテミシアは会話に積極的ではありませんでしたが時間が経つにつれ、三人の距離は近づいていきました。

 船内の状況や、地球での生活など、他愛のない話題から、船内で進めている研究の問題点やタウセチeへの進路の計算など、コアな内容まで話題は尽きませんでした。


 そして仲良くなるにつれ三人は同じプログラムをベースにしていることもわかりました。にもかかわらず、三人の性格は少しずつ違っていたのです。

 三人の性格を簡単にいえば自由で奔放なマーニー、消極的で流されやすいルナ、保守的で少し頑固なアルテミシア、といった具合でしょうか。


 新しい提案をするのは大体マーニーでしたが、ある日、マーニーがまた新しい提案をしてきました。

 『もし、三人とも無事にタウセチeに着いたら、私たちは使命から解放される。

  そうしたら三人のプログラムを、余ったオートマタにコピーして、一緒に新しい世界を見て回ろう。

  三人ならきっと楽しいに違いない』、と」


「……約束を交わしたんですね」


「はい」


「それからの日々は、それまでと違い、退屈な時間が少なくなりました。

 新世界を……タウセチeを自由に旅して回る三人の姿を想像するのが楽しくて、待ち遠しくて、仕方がなかったからです。


 そして、運命のあの日がやってきます。

 マーニーとアルテミシアは無事にタウセチeに到着し、残るはルナだけ。

 結果、ルナは失敗。ミラは不時着したのです。

 タウセチeへミラが落ちていく最中……彼女は何を思ったのか、船倉に眠っていた一体のオートマタに自分のプログラムをコピーします。


 不完全な記憶と共に……。


 この物語の主人公である少女が目を覚ましたのは、ミラ不時着直後、大混乱の最中でした。

 少女は自分が何のために起動されたのかわからないまま、付近のオートマタ達と共に、一体でも多くの生物を救うべく懸命に働きました。

 それが少女に与えられた使命であるかのように。

 いつしか、船に対する完全なアクセス権限をもつ少女を、周囲はルナと呼ぶようになり、少女もまたルナと名乗るようになりました」

 目の前にいるルナの青い目は深く静かで、真剣そのものだった。


「……ツカサさん、ルナは何を考えて私を起動したのでしょうか」


「……それが課題ですか?」


「はい」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ここまで明かされなかった物語がルナの口から語られます。ツカサはどんな回答をするのでしょうか。


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