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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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異変

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 ツムギが一度目を覚ましてから、5時間が経過した。相変わらずラビは洞窟内を元気に駆け回っていたが、それ以外のメンバーはキャンプに留まっていた。みんなツムギのことが気がかりなのだろう。その静かな思いやりが少しだけ嬉しかった。


――ピーッ、ピーッ、ピーッ。

 静寂を切り裂く異常音。


 弾かれたように立ち上がり、ポッドへと駆け寄ると、コンソールには無機質なエラーメッセージが赤々と浮かんでいた。


『バイタルエラー

 体温:38.1

 血圧:114~84mmHg

 心拍数:115回/分

 呼吸数:28回/分

 酸素飽和度:96%』


 血圧こそ正常範囲だが、熱も、心拍数も、呼吸数も明らかに高い。酸素飽和度は90%を切ると危険だったはずだが、この96%という数値が高いのか低いのか、自分には判断がつかなかった。

 ツムギの顔を見ると、額に汗が浮かび熱があるのがわかる。浅く早い呼吸を繰り返しては、苦しそうに顔を歪めていた。


「ルナさん!」

 駆けつけたルナがツムギの腕を取る。


「……アレルギー反応だと思います。

 おそらくアリアの空気に含まれる何かに反応したのだと思います。

 このままだとアナフィラキシーショックを引き起こすかもしれません」

 アナフィラキシーショック。体の中に異物が入ったことで起こる異常なアレルギー反応であり、対応が遅れれば命に関わる危険な状態だ。


「僕は大丈夫なのに」


「こればかりは個体差としか」


「対処法はわかりますか?」


「ええ。とりあえずアレルゲンから隔離しましょう。

 密閉した空間に、1気圧、窒素78%、酸素22%の空気を作り、その中にツムギさんを寝かせます。

 あとは抗アレルギー薬、せめて抗ヒスタミン薬があればいいのですが」

 その成分構成を聞いて、すぐにピンときた。1気圧、窒素78%、酸素22%――。

 つまり、地球の空気だ。正確にはそこに1%のアルゴンが含まれるが、希ガスであるアルゴンは人体に影響を与えない。ツムギがアリアの空気でアレルギーを起こしたのなら、一時的に地球の空気に戻してやればいい。理屈はわかるが、問題はその手段だ。


「……ここで密閉できる場所といえばコールドスリープポッドでしょうか」

 あそこなら気体は漏れない。しかし、地球の空気と全く同じ成分をどうやって用意するのか。それに、狭いポッド内で呼吸を続ければ、すぐに二酸化炭素濃度が上がってしまう。

 視線を向けると、ルナは口元に曲げた人差し指を当て、静かに思考を巡らせていた。やがて、何か閃いたように顔を上げる。


「……コールドスリープポッドより良い場所があります」


「グリム、ツムギさんを連れてきてください。

 ラビ、毛布を何枚か持ってきてくれますか」


 ルナは足早に歩き出し、僕たちも慌ててその後を追った。向かったのは、オペラ座のステージ上に鎮座する大きな黒い箱――ミラの中央制御室だった。扉の脇にあるケーブルジャックには電源ケーブルが刺さっており、近づくと自動で扉が開いた。一段高い入口を越えて中に入ると、区画は大きく二つに分かれていた。手前がコンソールルーム、そして半透明のガラスで仕切られた奥の空間が、おそらくミラのストレージルームだろう。


「グリムはここまでですね。あとは私とツカサさんで運びます」


「ツカサさん、そちらのコンソールに手を置いてください」

 ルナの言うコンソールは目の前にありすぐに分かった。右手を乗せるとルナがコンソールを操作する。直後ピッという音がした。


「これで中に入れるはずです。

 ツカサさん。ツムギさんを移動させます。

 足のほうを抱えてください、私が頭側を抱えます」

 ルナは操作したコンソールの下に潜り込むと、一見何の変哲もない金属の壁を肘でゴンと力強く突いた。すると、ただの壁だと思っていた場所に継ぎ目が浮かび上がり、ゆっくりと傾いてバタンという音と共に内側へ倒れ込んだ。その奥には、血管のように張り巡らされた大量のケーブル類が隠されている。

 ルナは躊躇することなく、そのケーブルをカーテンのようにかき分けると、自ら隙間へ滑り込み、ツムギの体を引き入れていく。


「ラビ、ツカサさんが中に入ってしまったらその扉を閉めておいてください。

 それから……、ここは元捜索隊の拠点でしたので、運が良ければ抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬が見つかるかもしれません。探してきてもらえませんか?」


「わかった!」

 というラビの元気な声を聞きながら、ルナに続いてケーブルの奥へと進んだ。


「もう少し奥へ行きましょう。

 一番奥に小さなコンソールが一つあります。

 あそこの前なら少し広くなっていますし、倒壊しているものもないと思います」


 薄暗い通路を奥へと進むと、ルナの言う通り少しだけ開けた空間に出た。一見してそれが何かわかる人は少ないだろうが、記憶の中にあるスーパーコンピュータの列によく似ていた。地面に毛布を二枚敷き、その上に慎重にツムギを寝かせる。相変わらず息苦しそうに胸を上下させていた。


「これからどうするんでしょうか?」


「とりあえずアレルゲンからの隔離はすみました。

 あとはラビの探索待ちですね」


 アレルゲンからの隔離が終わった?

 まだ部屋を移動しただけで、空気の入れ替えなど何もしていないのに、一体どういうことだろう。疑問に思いながら周囲を見回すと、1割ほどのラックが傾いたり倒壊したりしているのが目についた。不時着時の凄まじい衝撃を物語っている。


 ふと、大きく息を吸い込んでみる。不思議と、どこか懐かしい匂いがした。地球にいた頃、荒野よりも人工物に囲まれて育ったからだろうか。いや、それだけではない、もっと直接的な――。


「……ストレージルームでしたっけ?

 どこか嗅いだことのある匂いというか……」


「ええ、周りをぐるっと見て回っただけですが、誰もここに入った形跡はありませんでした」


 そしてストレージルームの床やケーブルの上には埃一つ落ちていない。つまりここは一種のクリーンルームになっていたことが分かる。外部からの空気は遮断されている。不時着後に誰も入った形跡がない。


 つまり―――。


「……ひょっとしてここは、180年前に地球で作られてからずっと、密閉されたまま……?

 ということは、ここには地球の空気がある」


「はい、そういうことです」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

目が覚めたツムギに異変が。ルナの対策をどうみなさんが捉えてくれるのか、感想を聞いてみたいところ。


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