表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/43

突入

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

「急いでください!もう外は限界の温度を超えています!」

 ルナの切迫した声を受けながら、ヴィークルに乗り込み、焼け焦げそうな荒野を列車に向かって走る。焼け付く岩の匂いと肌を刺すタウセチからの熱線、空洞から列車までのわずか200メートルが永遠に感じるほどに暴力的だった。


 ヴィークルを乗り捨て、列車の客車に転がり込むと、すぐに列車が重々しい音を立てて走り出す。

 列車は東へ向けて加速していた。


 いよいよ車内の温度も上がり、金属でできた車両からはジリジリとした熱気が伝わってくる。窓の外の景色は陽炎で揺らぎ、熱風が吹き荒れ、それはあたかもここから先は人の世界ではないとアリアが警告してくれているかのようだった。

 やがて前方に山のように大きな人工物が見えた。金属製のボウルのような形をした何か。


「大きい……」

 そういえば……。

 以前、みたことがある。地球を離れる前、家族で地球軌道上の造船ドックで建造中のミラを見学に行った時だった。


 核融合ロケットのノズルスカート。直径は約500m。

 ビルにすれば150階建てのビルがすっぽり入る大きさだ。普段は宇宙船や物理に興味のないツムギや母さんも目を丸くしてみんなではしゃいだのを思い出す。


「だな。相変わらずでけぇ。

 熱くないか?」


「熱いですが、さっきルナさんに冷水の入った水筒を渡されました」

 僕が水筒を握りしめて答えると、グリムは真剣な目を向けた。


「ダウンバーストが来たらすぐに耐熱布を被れ。

 おそらくだがダウンバーストの風は一息吸うだけで食道から肺までやられかねん。

 耐熱布の中で呼吸をするときも、ゆっくり細く、だ」


「はい」


「グリム、すみませんが機関車両に来てください」

 機関車両のルナから声がかかる。


「お気をつけて」


「おう」

 ドンと胸に拳を打ち付けたグリムの姿を見送る。

 さらにミラに近づいた列車の窓からはもはやミラのノズルスカートしか見えなかった。だんだんと息もあがり、顔、頭皮からじわじわと汗が湧いてくるのを感じる。


 まさにサウナに入っているようだった。


「カァ(ルナ!空だ!来たぞ!)」

 空を監視していたエドガーの鋭い鳴き声が割り込んだ。上空から、超高温の熱風――ダウンバーストが落ちてくる。


「ツカサさん!耐熱布を被ってください!

 あと3分で目的地に着きます!それまで耐えてください!

 ラビは空気が中に入らないようサポートを!」


「わかった!」

 咄嗟に分厚い耐熱布を被り、ベッドの上で丸くなる。隙間がないよう両肘をベッドにつく。

 明るかった景色が一瞬で暗転する。


「来た!」

 いつもは高いラビの声が曇って聞こえる。

 そしてすぐに空気が変わったのを感じた。耐熱布といえど熱を完全にシャットアウトできるわけではない。ただ燃えない炭素繊維でできた毛布のような布を被っているにすぎない。


 つまり、わずかにではあるがダウンバーストの高温の空気は中に入ってきているはずだった。想定外だったのは、耐熱布の中ならそこまで熱くないだろうという見込みだった。


 しかし現実には、高温サウナの中で毛布を被っているのとさして変わりない。空間は狭く振り落とされまいと姿勢を低く、ベッドの端を握りしめる。自然と呼吸は荒くなり、大量の汗が全身から吹き出す。


 ダン!という激しい音と共に大きな揺れ。

 とっさのことに体が反応できず、思わず上体が起き上がる。わずかに光が視界にはいってくる。


 つまり……。


「あっ……っ!!」

 一瞬遅れて強烈な熱波が顔を襲った。思わず顔を背け、体を再び丸める。すぐに目を閉じ、口を閉じる。髪の毛が焦げる匂いが毛布の中に漂う。このまま呼吸をするのは危険だと判断し、とっさに水筒の中の水をばらまく。


 毛布の中の気温は多少は下がったはずだが、実感はわかなかった。むしろ、湿度が上がった分だけ苦しさが増したような気がする。グリムに言われたことを思い出し口をすぼめ、細く呼吸を試みる。


 熱い、がぎりぎり息を吸えないこともない。だが、細く肺に入ってくる酸素は以前より明らかに減っていることを体が物語っている。


 毛布をかぶってどれくらい経っただろうか、感覚では3分はとうに過ぎている気がするのに列車の揺れはとまらない。スピードが落ちる気配もなかった


 一呼吸するたびに、息苦しさが増している。


 人間の体は血中の酸素濃度が低下するとパニックになるようにできている。呼吸は速くなり、心拍数は上昇、やがて「酸素が足りない」という不安、焦り、恐怖感が襲いかかる。そして不安や焦り、恐怖感はさらに心拍数をはね上げるという悪循環が発生する。


 落ち着け、と自分に言い聞かせる。余計なことをあれこれ考えるのは禁物だ。脳は人間の臓器でもっとも酸素を消費する。長い間、息を止めるコツは平常心、そして何も考えないこと。


 ……苦しい。突然、けたたましい衝突音が聞こえてくる。

 ……熱い。苦しい。手足にピリピリとしたしびれを感じる。


 ややあって激しいブレーキの音、列車にきついGがかかる。両手、両足に力をいれて踏ん張ろうとするが、力がはいらなかった。慣性の法則に流されて、車両の前方へ体が流れていく。右半身から崩れるように倒れる。


 これはまずい。そう思った瞬間、途端に世界が涼しくなった。恐る恐る片目を開けると、ラビが耐熱布の端を背伸びをするように大きく持ち上げていた。


「ツカサ!もう大丈夫!」

 フハーっと大きく息を吐き呼吸する。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、きっつい……」


「大丈夫!?」


「うん……昔はよくタクミとどっちが長く息を止めていられるか勝負したけど、こんなきつかったかな。

 息を止める遊びは二度とやりたくない」

 体中が汗でびっしょりだった。服の袖で額から流れる汗を拭う。


「ツカサさん、移動しましょう。

 ここにも直に熱風が来ます」


「はい」


◆ ◆ ◆


 先頭車両から客車に声をかけ、しばらくするとグリムがやってくる。

 体が大きいせいか、一瞬風に煽られ体がぐらつく。


「っと、すげぇ風だな」


「ですね、私もあまり長くは居たくありません」


「だな。

 で、どうした?」


「そろそろ車両の切り離しポイントですが、私の力ではS字フックが持ち上がりません。

 お願いします」


「そういうことか、任せろ」


「カァ(ルナ!空だ!来たぞ!)」


「ツカサさん!耐熱布を被ってください!

 あと3分で目的地に着きます!それまで耐えてください!

 ラビは空気が中に入らないようサポートを!」


「チッ!早すぎる!」


「落ち着いてください!

 私たちには私たちの仕事があります。

 ここをこなさなければ、待っているのは全滅です」


 作戦は至って簡単。

 逃げ込むべきミラ大空洞には扉がある。電源を繋げば動くだろうが、通電させている時間はない。


 ―――つまり、列車での強行突破である。


 しかし、このまま列車で突っ込んだ場合、乗っているツカサ、ツムギのポッド、下手をすればオートマタも衝撃で無事ではすまない。なので機関車両のみ切り離し、扉に突っ込みこじ開ける。後続車両は機関車両が開けた穴から空洞に飛び込み、大空洞の内部で停車。

 なお、先頭車両も遠隔で操作し大空洞の内部で停車する。


 熱風が吹き下ろす。気温は150度を超えていた。


「自分が機械仕掛けのオートマタで良かったとつくづく思うな」


「半導体メインだと、もう動けないでしょうね」


「さて……見えてきたぞ」


「ええ、ミラ大空洞の入口まで1000m!

 グリム、連結解除!」

 現在の速度は120km/h、ミラまで残り30秒。


「おう!」

 力強いグリムの両腕がS字フックを引き上げ、連結を解除する。先頭車両に加速の信号を送る。


 ―――1秒、2秒、3秒。

 先頭車両からの応答がない。


「どうした!?

 機関車両を加速させるんじゃないのか!?」


 もう一度信号を送る。先頭車両の速度を上げる予定が、速度があがらない。信号はとうに投げている。

 バチッ!という音。風と砂が摩擦を引き起こした静電気。


「風と砂の摩擦で静電気ノイズが出ています!無線が届きません!」


「チッ!」

 横にいたグリムが飛び出す。

 残り20秒。


「グリム!?」


「無線が使えねぇなら、直接操作するしかないだろ!」

 グリムは先頭車両の制御に回ってくれた。


 ならば、私の役目は……。


 先頭車両と2両目、今の間隔では危ない。先頭車両が扉に衝突した影響で減速した際、2両目が先頭車両に追突する可能性が高い。少しでも2両目の速度を落とし、距離をあけておく必要がある。2両目のブレーキへ急ぐ。ブレーキバーを掴み、全体重を掛けて手前に。ゆっくりとレバーが倒れ、制動がかかる。


 機関車両と2両目である客車の隙間が開いてくるのが見えた。

 残り10秒。


「ウォォオオオ!!」

 機関車両の手すりにグリムの右手が届く。大きな体が機関車両に上がるのが見えた。

 すぐに機関車両の速度が上がり始め――――。


 ミラ大空洞の重量感のある扉に機関車両が激突した。


◆ ◆ ◆


 暗がりの中、もうもうと立ち込める埃と煙の中、機関車の上にエドガーが停まる。


「カァ(大丈夫そうだな)」


「……これが大丈夫に見えるか?」

 機関車の屋根はなくブレーキレバーと操縦席はひん曲がり、グリムの体は上下逆さまになっていた。フレームがひしゃげた右腕は、吹き飛ばされそうになる体をぎりぎりまで支えたのだろう。あらぬ方向にねじれ、ちぎれかけていた。


「カァ(右腕以外はな)」


「……まったく。あいつが腹をくくるとろくな事がねぇ」


「カァ(それは同感だ)」


「……俺は今、生まれて初めて『生きてる』ってことを痛感してるよ」


「カァ(ふん。軽口を叩く元気があるならさっさと起きろ。お前じゃなければツムギのポッドは運べん)」


「あー、人使いが荒え……」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

助かるために、あえて東へ向かうという選択をした彼らの結果がどうなるのか、始めてのアクションシーンになります。


もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【ブックマーク追加】や【☆☆☆☆☆】の評価(星)で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ