空洞
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
貨物車の横にある扉を開けると荒野が見えた。砂と岩でできた少しだけ見慣れてきたいつもの風景。それがいつもの3倍の早さで流れていく。頬に当たる風はこれまでの記憶にないほど熱く、長くは耐えられないことがすぐに分かった。
ラビに案内されて乗り込んだ小型のヴィークルは四輪で前後に座席があり、操縦席にはラビが座り、後部座席にツカサが座る。
「ラビ、それじゃあ僕らも行こうか」
「うん!」
「行ってきます」
「はい。お気をつけて」
声を掛けると、心配そうなルナの顔が見えた。
ヴィークルが列車から飛び出す。下はちょうど砂地で思ったほどの衝撃はなかったが、すぐに石ころだらけの悪路になり、揺れるヴィークルから振り落とされないようフレームにしがみついた。乾いた砂と焼けた岩の匂い、肌を焼くタウセチの日差し、ここは人間の生きる領域ではないことがすぐに理解できた。
「……熱い」
「きつい!?」
「うん、ありがとう!でも大丈夫!」
独り言のつもりだったが、ラビは聴覚が優れていることを忘れていた。ヴィークルと風の音にかき消されそうになりながら、大きな声で会話する。
列車から200mも走ると、目的地の坑道が岩の影から見えてくる。
「あそこ、ツカサのいた穴!」
「うん、行こう!」
ヴィークルごと空洞の中へ入る。すこし進むと広い空間になっていた。そこでヴィークルを停車し、シートベルトを外し坑道に降り、ラビからランタンを受け取る。
坑道の中は直射日光がない分、体感温度は随分と下がった気がした。
「ここが僕が70年眠ってた空洞かぁ……」
広間を見回すと自分の知っている鉱山と随分と違う感じがした。落盤を避けるためか、いたるところに金属の支柱が立てられている。記憶の中の坑道といば木で支柱を組んでいたが、アリアにはまだ木材が満足にないのだろうと推測ができた。
「何かわかる?」
「何もわかんない」
正直に答えた。
ラビに先導されゆっくりと下る道を進む、2つ目の分岐を左に曲がり、しばらくするとガッガッという何かを掘る音が反響して聞こえてきた。映像でみた石室と、その中央に大きな穴、かろうじてグリムの頭頂部が見えている。
「ねぇ、ラビ。グリムさんに声かけてもいいのかな?」
「いいよ!」
「グリムさん、どんな感じですか?」
「おう、ツカサ。来たか。
今のところ予定通りだな、床をぶち抜いてポッドを出せるくらいに広げたが、中は結構埋まっちまってる。見ての通り、ポッドが見えねぇ」
グリムは作業を止めず、流暢に答えを返してくる。
「残り8時間!」
「ああ、わかってる。なんとかする。
……そうだ、ツカサ。そっちに寝袋がある。
気づいてないかもしれないが、そろそろ24時間起きたままだ。ここは長丁場になる。今のうちに少し寝とけ」
「でも……」
ツムギのことで気づかなかったのか、言われてみるとそれくらいの時間かもしれない。ただ、みんながツムギを助けるために動いてくれているのに、兄である自分が何もしないどころか、寝ていていいわけがない。
「ツカサ……お前の頭は頼りにしてる。が、今はやってもらうことがねぇ。
何かあったとき、睡眠不足で頭が回らない。そんなのはお前も望んじゃいまい?」
グリムのいう通りだった。
「わかりました」
言われた通りに石室の床に寝袋を広げ、足から体を滑り込ませる。よく考えればすごい1日だった。みんなのこと、避難船のこと、アリアのこと、家族のこと、そしてツムギのこと。
なんと表現すればいいかわからないが、人生でこんな濃密な一日は二度とないかもしれない。体を横にすると、グリムの穴を掘る音がメトロノームのように聞こえてくる。
そういえば地球の自分の部屋にもチクタク音がする時計があったっけ。あの家は今はどうなっただろう。そんなことを考えながら、意識を手放した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ツカサが空洞へ向かうシーンを入れたかったので、この章を書いてみました。
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