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夢の傷跡  作者: 石城群場
第1章 「面影のある彼女」

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第6話 「親睦会(中編)」

前回、後書きで次回は親睦会(後編)ですと書きましたが予定より文量が増えたため、三部構成にすることにしました。

今回は親睦会(中編)です。

 桜詩の彩葉に対する例の発言のせいで、雰囲気が少し悪くなったまま星宮の先導で店へと向かう。

 彩葉のほうは大和が寄り添って少しは落ち着いたようだ。

 それにしても、俺と彩葉が出会った当初は胸のことを周りからネタにされても動じていなかったのだが、最近はやたらと気にしているようだ。何かあったのだろうか。

 一方、桜詩はネチネチと茅ヶ崎から説教を受けている。

 桜詩は人にちょっかいをかけることが多く、時折余計な一言も言うが今回の件は流石に目に余る。

 そして一番気がかりなのは俺の隣にいて静かすぎる恭輔のことだ。

 普段なら騒がしくトラブルを呼び込むことの多い恭輔がここまで静かだと不気味である。

「なぁ、恭輔」

「なんだ?」

「今日調子でも悪いのか? いつもは耳を塞ぎたくなるくらいうるさいのに」

「おまっ、それは言い過ぎだろ」

 恭輔は俺の言葉に笑いながら軽く俺の肩を叩いてくる。どうやら調子が悪いわけではないらしい。

「いやぁ、俺もからみにいきたかったんだけどさ? 集合時間ギリギリで走ってきたあとだったし、なんか紀乃さんにめっちゃ睨まれたからやめた」

 遠い目で虚空を見つめて話す恭輔の姿に「なるほど」と納得する。

 桜詩は基本的に恭輔のように見た目がチャラかったり軽い男は嫌いだ。そして嫌いなタイプの人間には徹底して冷たく接する。

 恭輔もその例に漏れず桜詩にとって嫌いなタイプの男に認定されたのだろう。

「元気出せよ」

 俺はそう言って恭輔の肩を叩く。

「その慈愛に満ちた顔はやめろ。普段そんな顔しないだろお前!」

 いつものように騒がしくなってきた恭輔を適当にあしらいながら、前を行く星宮たちから離されないように着いていく。


「ここだよ!」

 星宮がある建物の前で止まり、俺たちへと振り返る。

「ここってカラオケだよな?」

「そうだよ! ここはご飯も美味しいし、カラオケなら騒いでも大丈夫だから親睦会にはもってこいだと思って」

 大和の問いかけに自信満々に答える星宮。

「別にいいんだけどさ、恭輔もいるんだぞ?」

「どういう意味だよ大和!?」

 ちらっと恭輔を見てから星宮に声をかける大和に恭輔が抗議の声を上げる。

『何かやらかしそうだから?』

「酷い!!」

 俺と大和が声を揃えて言うと恭輔が叫ぶ。女性陣ーー星宮を除くーーは俺たちのそのやりとりを少し離れたところから眺めている。

「私も個室はちょっと不安なんだけど、そこはやまくんに監視をしっかりしてもらうってことで」

「了解。俺も友達を犯罪者にするわけにはいかないからな」

「ちょっと待って!? 俺だって流石にそこまで変なことはしないからな!?」

「いざってときは俺が殴ってでも止める」

「蓮司まで!?」

 俺たちの言葉に涙目で叫ぶ恭輔。もはや様式美になりつつある気がする。

「とりあえず中に入ろうぜ。ほら、女性陣も」

 星宮はそんな恭輔をジト目で疑わしげに見ているが、このまま店の外にいても仕方がないので大和が店の中に入るよう促す。

「そうね。結衣行きましょ。紀乃さん達も」

 彩葉が桜詩たちも連れて星宮と一緒に店の中へ入っていく。

「よしっ、俺も」

「お前は俺たちから離れんな」

 その女性陣を恭輔が追いかけようとして大和に首根っこを掴まれる。懲りてないな、こいつ。

 恭輔に呆れながら俺たちも店内へと入ろうとしたそのとき、ピロンっとスマホの通知音が鳴る。

 確認してみると「女性陣で席決めすらから男性陣は少し待ってて」という連絡が来ていた。

「どうした?」

「星宮が『女性陣で席決めするから少し待ってて』だって」

 俺は足を止めて、大和に今来た連絡の内容を伝える。

「恭輔対策か?」

「俺対策って、そんなの大和だけにしてくれ」

 大和の疑問に恭輔は顔を顰め、そんな恭輔に対して大和はジト目を向ける。言葉にはしていないが、その目が物語っている「自業自得だよ」と。

 大和の気持ちもわかるが、この連絡については恭輔対策ではないと思う、たぶん。

「恭輔対策じゃなくてアレだろ、この前の続きをするためだろ」

「あぁ」

 大和は俺の言葉で納得したようだが、恭輔は『この前のとき』にいなかったため首を傾げている。

「なんだよ、この前の続きって?」

「時間も多少あるみたいだし、掻い摘んで話しておけば?」

「そうだな。じゃあ、まずは……」

 こうして星宮から再び連絡が来るまでの間、邪魔にならない場所に移動して恭輔に喫茶店でのできごとを説明することになった。


「よく修羅場にならなかったな」

「いや修羅場だったよ、完全に」

「あんときの彩葉は正直怖かった」

 ざっくりと喫茶店でのできごとを恭輔に説明する。俺と大和はあのときの彩葉のことを思い出して身震いしたが、その場にいなかった恭輔は呑気に「俺もその場で見たかったなぁ」なんて言っている。

「にしてもまだなのか?」

 大和が腕時計で時間を確認しながらぼやき、俺もスマホを覗こうとしたとき、ちょうど通知音が鳴った。

 そのあまりに絶妙なタイミングに俺たちは顔を見合わせる。

「向こうの準備もできたみたいだし、行くか」

「そうだな」

 三人で店の中に入り星宮に指示された部屋に向かう。


 星宮から指示された部屋の前で念の為、星宮に連絡を送る。するとすぐに部屋の扉が開いて星宮が現れた。

「三人とも揃ってるね、ほら入った入った」

「はいはい」

 星宮のあとに続き俺たちも部屋に入る。

 その部屋はカラオケによくある広めのパーティールームで、部屋の奥にモニターがあり、中央のテーブルを挟んで長いソファーが置かれている。

 そして中央のテーブルの上には、すでに人数分の飲み物とポテトやお菓子などの所謂パーティーメニューが陣取っていた。

「いやもうガッツリ注文してあるじゃん!?」

 その光景に思わずツッコミを入れた俺は悪くないはず。

「いやぁ、席決めはすぐに終わったんだけど、そこの窓からちょうど外の様子が見えてさ? なんか話し込んでるみたいだったから先にいろいろ注文しちゃった」

 てへっと可愛こぶって笑う星宮になんとも言えない気持ちになる。

(なんだろうな? 可愛いんだけど絶妙にイラッとくるこの感じは)

 とりあえず星宮にデコピンしておく。

「はにゃ!? なんでデコピンするの!?」

「なんかイラッとしたから」

「ひどいっ!」

「俺の席はどこ?」

 でこを両手で抑えてうーと唸りながら俺を睨んでくる星宮をスルーして、座っている三人に声をかける。

「蓮司の席はここよ」

 茅ヶ崎の隣に座る桜詩が自分の隣を指さす。

「やっぱりか」

「なに? 私の隣は嫌なの?」

「そうは言ってないだろ」

 むすっとした顔で絡んでくる桜詩をいなしながら席に座る。

「俺と恭輔は?」

 入口に立ったままの大和が星宮に尋ねる。

「やまくんは彩ちゃんの隣で、チャラ男はやまくんの隣のドアに一番近いとこ」

「なるほど、追い出しやすいようにか」

「その通り!」

 大和の一言に星宮は満面の笑みで親指を立てる。

「名前で呼んでなんて贅沢は言わないのでせめて名字で呼んでください」

「えっ」

 恭輔の一言に星宮が笑顔のまま固まり俺へと視線を向ける。星宮のやつ恭輔の名字覚えてないのか。

「水橋だよ、水橋恭輔」

 その星宮の反応に大和が答える。

「やだなぁ、やまくん。ちゃんと覚えてたよ? すぐに出てこなかっただけで」

「あははっ」と笑って誤魔化しながら言う星宮に大和が疑わしげに視線を向ける。

「大和、俺泣いてもいいかな?」

「おう、胸ぐらいはかしてやんよ」

 流石の恭輔も星宮のこの態度は堪えたらしい。ひしっと大和に抱きついた。抱きつかれた大和はちょっと複雑そうだけど、恭輔の背中を軽く叩いて慰めている。

「水橋くん、ごめんね」

 星宮も恭輔と大和のやりとりを見て頭を下げた。

「いやいいんだ。これから仲良くしてもらえれば」

「それは無理かな」

 頭を下げた星宮に泣き止んだ恭輔が振り返ってそう言ったが、星宮にバッサリと断られる。

「知人ぐらいの扱いはしてやってくれ」

「努力はする」

「二人揃ってなかなか酷いな」

 大和のため息混じりな一言に星宮もフワッとした返答をする。二人のやりとりに俺も思わず口を挟む。

 そして恭輔は静かに自分の席に座った。


 大和が恭輔の隣の席に座り、星宮がモニターに近い一番奥の自分の席へと戻ってグラスを右手に持ち音頭をとる。

「それでは親睦会を始めます。ほら、みんな飲み物持って!」

「いや飲み会じゃないんだから」

「いいの! こういうのはノリが大事なの!」

「はいはい」

「それじゃ、かんぱーい!!」

『かんぱーい!!』

 全員でグラス同士を軽く当てる。コンっと小気味良い音が部屋の中に響いた。


「まずは蓮くんに言いたいことがあります」

 それぞれの飲み物で喉を潤し、一息ついたところで星宮が真剣な表情で話しを切り出した。

「なに?」

「私のことも名前で呼んでよ!!」

「了解」

『いいの!?』

 星宮の言葉に俺が即答すると、結衣と彩葉が声を揃えて驚く。

「彩葉はともかくなんで結衣まで驚いてんだよ?」

「うわ、普通に私のこと名前で呼んだよいま!」

「私の名前呼びは半年も渋ったのに!」

 俺の斜め前に座る彩葉と結衣がギャーギャー煩い。彩葉が騒ぐのはわかる。半年もの間名前で呼ぶのを渋ってきたから。でも、結衣のこの反応には納得いかない。

「二人ほどじゃないけど俺も驚いたわ。結衣のことはあっさり名前で呼ぶんだな」

「結衣が特別ってわけじゃねぇよ」

 ニヤッと笑って俺をからかうように言ってくる大和に淡々とそう返す。周りも俺があっさりと結衣の名前を呼んだのが気になるようで、俺に自然と視線が集まってくる。

「大和、俺の現状を考えてくれ。これ以上悪化することはもうないだろ」

 フッと遠い目で虚空を見つめる俺に周りは何も言えなくなる。ここにいる全員が今の俺の現状を把握しているからこその現象だ。

「まぁ、元気出せよ。物理的な被害は出てないんだろ」

「今のとこはな」

 大和が優しく声をかけてくれるが、俺はやるせない返事しかできない。

「蓮司が気にしすぎなのよ。ちょっとした有名税でしょ」

 俺はすっぱりと言いきる桜詩に恨みがましい視線を向ける。

「お前のせいでもあるんだけどな」

「中学のときの距離感で接してないだけ有情でしょ?」

「そりゃそうだけどさー」

 俺の視線に動じることもなく桜詩は平然と反論してくる。

「今でも相当距離感近いと思うんだけど、中学のときってどんなだったんだよ」

 俺と桜詩のやりとりを聞いて大和が興味深そうに聞いてくる。

「ストップ! その話しは私も気になるけど後回しで!」

 それに待ったをかけたのは意外にも結衣だった。

(普段なら結衣が一番食いついてきそうな話題だったんだけど、珍しいこともあるもんだな)

「蓮くん!」

「おう」

「私のことをあっさり名前で呼べんたんだから、この流れで楓ちゃんも名前で呼ぼうよ!!」

 その結衣の言葉で俺の体にガーンとハンマーで殴られたかのような衝撃が走った。

(茅ヶ崎を名前で呼ぶ? それってつまり……)

「ちょっ、結衣! 物事には順番が……」

 桜詩が結衣を止めようとするが結衣が押し切る。

「楓ちゃんだって名前で呼んで欲しいよね!」

「そっ、それはそうだけど」

 茅ヶ崎は結衣の勢いに戸惑いながらも頷き視線を俺へと向ける。

 俺へと向けられた茅ヶ崎の瞳にはしっかりと期待の色が滲んでいた。

「そっ、それは……無理だ。ごめん」

 力なく言葉を返した俺に周りの空気が静まり返る。

「そっ、そうだよね! まだ出会ってから日も浅いし……」

 茅ヶ崎の姿を見て胸がキュッと締め付けられる。

 寂しそうに俯いたその姿はあの日のあいつにあまりにも似すぎていて。

 背筋が凍る。息がうまくできない。苦しい。

「蓮司! いったん外に出るわよ!」

 そんな俺を桜詩が無理やり部屋の外に連れ出す。

 何が起きたかわからずに混乱するみんなを部屋に残して。

最後まで閲覧ありがとうございます。


次回は親睦会(後編)の予定です。

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