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夢の傷跡  作者: 石城群場
第1章 「面影のある彼女」

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第7話 「親睦会(後編)」

お待たせしました。

今回で親睦会編、完結です!

 桜詩に連れられて部屋から出た俺は店の外で壁に寄りかかっていた。

「大丈夫?」

 俺を外まで連れ出してくれた桜詩が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「少しは楽になったよ、連れ出してくれてあんがとな」

 外の空気に触れたことで先程までの息苦しさは緩和され、荒かった呼吸を少しづつだが整えることができた。

「ごめんなさい。結衣を止められなかった」

 隣で表情を曇らせていた桜詩が俺に向かって頭を下げる。

「桜詩のせいじゃねぇよ」

 俯いた桜詩の頭にポンっと軽く手を乗せてぐしゃぐしゃと撫でてやる。

「ちょ、止めなさいよ! 髪型崩れる!」

 桜詩が俺の手を押し返す。

「らしくない顔してんじゃねぇよ」

 俺は桜詩に笑いかける。その笑顔は少しばかり強ばってしまったけど。

「蓮司こそ強がってんじゃないわよ、ばか」

「おっと」

 俺の胸に飛び込んでくる桜詩を受け止めて抱きしめる。お互いの温もりが伝わるようにギュッと強く。

「なんでそんなに桜詩が凹むんだよ」

「もっと私が気をつけていればさっきのことは防げたかもしれないでしょ」

 桜詩が俺の胸元に顔を埋めたままそう言ってくる。息が当たって少しくすぐったい。

「さっきも言ったろ、桜詩のせいじゃないって」

「私のせいなの!」

 バッと顔を上げた桜詩が叫び、俺と桜詩の視線がぶつかる。が、桜詩はまた俺の胸元に顔を埋めてしまう。

「わかってるよ。俺に何か隠してることがあるんだろ」

「なっ、なんで」

 俺の言葉で桜詩がおそるおそる顔を上げる。俺を見つめる桜詩の瞳は不安と恐怖に揺れていた。

「なんでって昔からだろ。俺に隠しごとや後ろめたいことがあるとき、桜詩がやたらと俺にからんでくるのは」

「嘘っ」

 桜詩は俺の指摘で初めて気づいたようで顔が強ばる。

「なにも聞かねぇよ。それにどんなことがあってももう突き放したりしねぇって」

「ホント?」

「約束する」

 桜詩の強ばっていた表情が和らぐ。少しは不安を取り除けたようだ。

「桜詩、先に戻っててくれ。俺ももう少ししたら戻るから」

「わかった。みんなに少しは事情を説明するけどいいわよね?」

「あぁ」

 桜詩は俺が頷いたことを確認してから店内へと戻っていく。

 俺はその背中を見送り、桜詩の姿が見えなくなったところでその場に座り込んだ。

「いい加減向き合わないとな」

 見上げた先には雲ひとつない青空が広がっている。

「向き合うつってもあいつと連絡取れねぇし、どうすっかな」

 ボヤいた俺の頬を風が撫でる。

「茅ヶ崎の呼び方も考えねぇと、あんな顔させるわけにはいかねぇし」


 蓮司より先に部屋に戻ってきた私に待っていたのは結衣と楓の突撃だった。部屋の扉を開けた瞬間、二人が一目散に迫ってきたのだ。

「桜詩ちゃん、蓮くんは!?」

「もう少ししたら戻るって、外の空気を吸って顔色も良くなってたから大丈夫よ」

「よかったぁ」

 私の言葉にほっと胸を撫で下ろした結衣は私から離れたものの、楓は俯いたままだ。

 私の元へと来たのはいいが、どんな言葉をかければいいのかわからなくなってしまったのだろう。

「楓もそんな顔しないで、楓が悪いわけじゃないから」

 楓は「うん」と小さく頷いてくれた。けれど、楓はこのことで間違いなく自分を責めるだろう。蓮司の心に傷をつけてしまったのが自分であることを楓自身が一番わかっているから。

「楓ちゃんは悪くない。悪いのは私だよ」

「結衣も悪くないわよ。楓と蓮司が仲良くなれるように動いただけでしょ?」

「でもぉ」

「桜詩の言うとおりよ。しょぼくれてないで元気だしなさい」

 泣きそうになっている結衣に彩葉が寄り添って励ましてくれた。


「話してくれるよな」

 楓と結衣が少し落ち着いて席に座ったところで、私に向かって真剣な顔でそう言ったのは篠崎くんだった。

「えぇ、蓮司にも許可は取ったから。全部ではないけど最低限はね」

 部屋の中の雰囲気がひりひりとした緊張感のあるものに変わる。

「蓮司が昔、精神的に不安定になっていたって話しはしたでしょ?」

「あぁ、恭輔にもその話しはしてある」

 私の言葉に篠崎くんが答える。

「そう。ならこのまま話しを続けるけど。蓮司がそうなるきっかけなったのが『楓』っていう名前の男の子でね、その子の雰囲気が茅ヶ崎さんと少しだけ似てるのよ」

 私がそこまで言ったところでトゲトゲした彩葉の視線が私に突き刺さる。

「つまりここにいる楓が悪いって言いたいの?」

「彩ちゃん! 楓ちゃんは悪くないって桜詩ちゃんもさっき言ったでしょ!」

「そうだけど、今の言い方だとそう言ってるように聞こえるって話しよ」

 私を睨みつけ吐き捨てるように言った彩葉に対して結衣が止めに入る。

「誤解させるような言い方になってごめんなさい。悪いのは全部私よ」

 部屋の中がシーンと静かになる。

「桜詩のせいじゃないって何度言わせんだ?」

 みんなに向かって頭を下げていた私に降ってきたのは蓮司の優しい声だった。

「みんな心配かけてごめん」

 そう言って蓮司はみんなに向かって頭を下げた。


「戻ってくんの早くね!?」

 部屋へと戻ってきて頭を下げた俺への第一声は大和のそれだった。

「蓮司! もう大丈夫なの?」

「俺のことで桜詩に全部丸投げするわけにはいかないだろ?」

 みんなに向かって下げていた頭を上げて桜詩に声をかける。

「蓮くん! もう大丈夫なの!?」

「あぁ」

 俺に向かって結衣が駆け寄ってくる。いや結衣だけじゃない部屋にいる全員がだ。

「あんま心配かけんなよな」

「そうだぞ、このこの」

「悪かったって」

 大和と恭輔が俺を小突いてくる。

「とりあえず調子は戻ったみたいね」

 彩葉も俺の顔を覗き込んで胸を撫で下ろした。

「とりあえずみんな席に座ってくんねぇかな。このままじゃ話しもできないし」

 俺がそう声をかけるとみんなも頷いて席に戻る。

「桜詩は何を話したんだ?」

「茅ヶ崎さんがあのこと同じ名前ってことと雰囲気が似ているってことだけ」

「わかった」

 桜詩に状況を聞くと思っていた以上に何も話してないことがわかった。

「ねぇ、蓮くん」

「なんだ? いきなり質問か?」

 俺が話し始めようとしたところで結衣から声がかかる。

「何も話さなくていいよ」

『えっ?』

 結衣のその言葉に驚いたのは部屋の中にいる全員だった。

「だって蓮くん、すごく辛そうなんだもん。もちろん友達だから辛いときや苦しいときは頼って欲しいし、重荷だって分けて欲しいって思う。でも、自分自身じゃないと背負えないものもあると思うし。だから、えっと……要は『言いたくないことは言わなくていいし、頼りたいときは頼って』ってこと!」

「最後雑になったわね」

「むぅ、うるさいよ彩ちゃん!」

 真剣な顔で大真面目に話していた結衣に彩葉が茶々を入れる。

「結衣の言う通りだな。友達だからって隅から隅まで話せなんて言わねぇよ。この前、喫茶店で話せるとこだけで良いって言ったばっかだし。あえて言うなら『ここにいる全員もれなく蓮司の味方だ』ってことだな」

「……知ってるよ。ずっと前から」

「ならよし!」

 大和の言葉に目頭が熱くなる。

「そうね。言いたくないことの一つや二つ誰だってあるもの。『全てを知らないと信じられないなら、そんなの友達じゃないしそんな関係虚しいだけ』でしょ?」

 彩葉はそう言って俺に微笑みかけてくれる。

「なんでみんなそんなカッコイイこと言ってくんだよ! 俺の分残ってねぇじゃん!」

 恭輔はいつも通り騒がしい。

「恭輔がカッコイイことなんて言える立場なのかよ?」

「いろいろやらかしたって噂しか聞かないしねぇ?」

「大和も星宮も余計なこと言わんでよろしい! えっと、アレだ! 喉元過ぎればなんとやらってやつだ!!」

「なんとやらって、締まらねぇなぁ」

 勢いで言いきった恭輔に思わずクスッと笑ってしまう。

「ホント良い友達を持ったわね蓮司?」

「あぁ。みんなありがとう」

 みんなの言葉に心が暖かくなる。だから精一杯の感謝を込めて笑いかけたつもりだったのだけど。

「ひぇっ」

「ゔっ」

「ぐっ」

『おっ、おう』

 何なのみんなのこの反応?

 結衣は顔を両手で覆ってるし、彩葉と茅ヶ崎は胸を押さえていて、大和と恭輔は戸惑っている。

「久しぶりに出たわね、蓮司の王子スマイル」

 桜詩は桜詩で遠く見つめながらそう言ってるし。

「蓮司ってそんな風に笑えたんだな」

「俺は今までも笑ってたんだけどな?」

 大和の言葉に謎が深まる。

「今のはまさに満面の笑みっていうか」

『いつもの笑顔とは破壊力が違った』

「破壊力!?」

 恭輔と大和が声を揃えて言った言葉がよくわからない。

 現在の状況に着いていけず、頭を悩ませている俺の元にふらふらとした足取りで結衣が寄ってきて、ガシッと俺の肩を掴み俺を見上げる。

「今のは反則だよ!」

「待って、ホントにどういうことなの?」

 俺は結衣の叫びで余計に混乱した。

「このイケメンめぇ」

「誰が?」

『お前だよ!!』

 恨みがましく呟いた結衣の言葉に聞き返すと周りから総ツッコミを喰らう。

「えっ?」

『えっ?』

 部屋の空気がシーンと静まり返る。

「ねぇ、桜詩ちゃん? もしかしてだけど蓮くんって全く自覚してないの?」

「してないわね」

 おそるおそる桜詩の方へ視線を向けて尋ねる結衣にしれっと答える桜詩。

「なんで!? 蓮くんなら告白されたことくらいあるでしょ!?」

「ないぞ?」

 結衣の言葉に俺が首を傾げるとみんなの視線が一斉に桜詩へと向く。

「蓮司が言ってることはほんとよ。私以外、蓮司に告白した女の子はいないもの」

「なんで!?」

 結衣が今度は桜詩に詰め寄る。

「なんでって、今までの私と蓮司のやりとりを思い出してみてよ」

 桜詩にそう言われて結衣は今までのことを思い返しているようだ。

「距離感近いよね、カップルって言われても納得できるくらいには」

「昔はもっとくっついてたの、人目も気にせずね」

「そんなのただのバカップルじゃん!?」

「そりゃ告白する奴もいないよなぁ」

 桜詩の言葉に衝撃を受ける結衣と納得する大和。

 確かに今となって思い返すとバカップルといっても過言ではない距離感だった。

「納得した?」

「まぁ、うん」

 桜詩の言葉に結衣はしぶしぶ頷いた。

「なぁ、とりあえず仕切り直して親睦会始めようぜ」

 恭輔が手を挙げて提案する。

「そうだね! 二人もそろそろ大丈夫そうだし」

 結衣が恭輔に同意して、ちらっと彩葉と茅ヶ崎の様子を確認してから自分の席へと戻る。

「その前に茅ヶ崎ちょっといいか?」

 俺が茅ヶ崎に向かって声をかけると、茅ヶ崎はびくっとしてからおずぞずと俺のところに来る。

「えっと、なにかな?」

「茅ヶ崎には悪いんだけどさ、やっぱり名前で呼ぶのは無理そうなんだ……だから、『フウ』って呼んでいいか?」

「うん!」

 不安そうに俺の言葉を聞いていた茅ヶ崎あらためフウの顔がパッと綻ぶ。

「じゃあ私もそう呼ぶわね」

 俺たちを心配そうに見つめていた桜詩だけじゃなく、みんなも俺の提案を受け入れてくれた。

「じゃあ、あらためて乾杯しよ!」

 結衣の一言で全員が飲み物を持ち、仕切り直して親睦会が始まった。


 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき夕方には解散する運びとなった。

「いやぁ、最初はどうなるかと思ったけど楽しかったね!」

 駅方面へ向かう俺たちの先頭を歩く結衣がそう言って振り返る。

「主に蓮司のせいだけどな」

「だからちゃんと謝っただろ」

 大和がにやにやしながら俺にちょっかいをかけてくる。

「そういえば文化祭の準備もそろそろだよな」

「もうそんな時期か、いろいろあって完全に忘れてたわ」

 俺は隣を歩く恭輔の言葉で思い出した。

「今年はミスコン盛り上がりそうだな」

「それな!」

 恭輔は楽しみでしかたないといった感じだ。

 少し冷たくなった風が頬を撫で、秋の深まりを教えてくれる。

 これからも忙しくなりそうだ。

最後まで閲覧ありがとうございます。

そろそろ第二章始まります!

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