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夢の傷跡  作者: 石城群場
第2章 「ハプニング多め? の文化祭!」

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第11話「お菓子試作会(実食編)」

完成したお菓子たち。いよいよ実食することになるが……?

 テーブルの上に並べられたお菓子たちはどれも美味しそうだ。定番のクッキーにマフィン、コーヒーゼリーなどバラエティーに富んでいる。


「……こうやって並ぶと壮観だけど、和の要素は皆無だよな」

「レシピを渡したのは蓮司じゃない」

「和菓子を作るのは難しいし、服装は和の要素を取り込んでいるからいいんじゃないかな?」

「ぶっちゃけ、お菓子より接客する女性陣がメインだしなぁ」


 昨年ミスコンで優勝した彩葉を筆頭に、喋らなければ幻想的な美しさを纏う結衣、抜群のスタイルから人気を集める桜詩、転入したばかりとはいえ柔らかい雰囲気と可愛らしさから陰で人気が爆発しているフウ。この四人がいる時点でほぼ勝ち確なのはわざわざ言う必要もないことだ。間違いなく混雑する。つまり今回のレシピに求められることは、簡単かつ大量に作れて日持ちすることなのだ。

 メインは和風メイド服で着飾った女性陣。お菓子はあくまでおまけなのである。とはいえ、喫茶店という名目でやる以上まずいものを出すわけにはいかない。


「とりあえず試食してみるか……フウがついていたし、トラブルは起きてないみたいだからそれなりには仕上がってるだろ」

「まぁ……ちょっとだけ、大変だったけど」


 フウは少し苦笑いを浮かべている。おそらく桜詩の料理スキル、その洗礼を受けたのだろう。


「さっさと食べてみなさいよ。私とフウは作りながら味見もしてたし、あとは蓮司だけだから」

「そういうことなら、さっそく」


 俺は1枚のクッキーを摘まんで、口に放り込む。味を確かめるようにゆっくりと咀嚼して。


「——かっらっ!?」


 クッキーとは思えない味に混乱して、吹き出しそうになるのをなんとか飲み込んだ。


「あら、いきなり大当たりを引くなんて運がいいわね」


 桜詩がしてやったり、とでも言いたげに笑みを浮かべている。そのとなりでフウは申し訳なさそうに両手を合わせていた。


「……桜詩、これはなんだ?」

「辛子入りクッキーだけど?」

「なんで辛子が入ってんだよ!?」

「ロシアンクッキーよ。学祭なんだし、こういうのあったほうが盛り上がると思って」

「学際は何をやっても許される免罪符じゃねぇぞ?」

「でも、やっぱり刺激は必要じゃない?」

「それなら刺激的なうまさにしてほしかったかな!?」

「なんか漫才してるみたいだね」


 俺と桜詩のやりとりを見て、フウがポツリと漏らした。楽しそうに笑っているが、どこか寂しさも滲むようなそんな声で。昔、聞いたことがあるような。そんな不思議な既視感が首をもたげた。


「なによ、フウも混ざればいいじゃない」

「えぇ!?」

「フウを巻き込んだら、余計に収拾がつかなくなるだろうが!」

「蓮司はフウを仲間はずれにするの?」

「そうは言ってないやろがい!」

「……やっぱり、二人とも仲いいね」


 フウを巻き込もうとする桜詩を止めようとする俺をよそに、フウはにこにこと笑っている。どこか懐かしそうに、かみしめるように。その笑顔がやけに印象的で。……声が詰まった。


「どうしたの?」

「……いや。なんでもない」

「フウの笑顔に見とれてたんじゃないの~?」

「うっせぇよ」


 にやっと小悪魔的な笑みを浮かべて揶揄ってくる桜詩をしっしと手ではらいながら、俺は他のクッキーにもおそるおそる手を伸ばした。


「仕込んだのは一枚だけよ? フウに止められたから」

「えっ? じゃあ、その唯一の一枚を一発目で引いたってことか?」

「そうよ。だから言ったじゃない。『運がいいわね』って」

「そういうことかよ……」


 俺はため息をこぼしながら、クッキーを口に運ぶ。サクッとした食感と華やかなバターの香りが口いっぱいに広がり、甘さは控えめで男女関係なく食べやすい。


「よくできてんじゃん」


 ぽろっとこぼした俺の言葉を聞いて、フウと桜詩が笑顔でハイタッチを決める。


「でっしょ~! ほらほら、クッキー以外も食べなって」

「押し付けてくんな! この量を一人で食えるわけないだろ!」

「そうだよ。みんなで食べよ?」

「ちょっと、コーヒー淹れてくるわ。桜詩は前と一緒でいいか?」

「なに? 今も私の好み覚えてるわけ?」

「一緒でいいってことな。フウは?」

「私? 私は——」

「フウのはコーヒーとミルクが半々でお砂糖が5個、少しだけ冷まして」


 フウにコーヒーの好みを確認すると桜詩が先に答えた。短い期間で相手の好みを把握するほど仲良くなっていることにも驚いた。けど、フウの好みがあいつと同じことがそれ以上に衝撃で。少しの間、俺はフウから視線を外せなかった。


「桜詩ちゃんってば! それであってるけど……。あれ? 蓮司くん、どうしたの?」

「…………いや、ちょっとびっくりしたんだ。俺の……大切な友達と好みが一緒だったから」

「そうなんだ! すごい偶然だね」


 両手を合わせて華やかに笑うフウの姿にあいつの影が重なる。ありえないはずなのに。あいつは男でフウは女だ。性別も違う。なのになんでこんなに懐かしいんだ。崩れそうになる顔を見せたくなくて、俺は急いでキッチンへと姿を隠した。



「……はぁ」


 私は大きくため息を吐くと、フウの頬をむにっと引っ張る。


「いひゃいよぉ~」

「うっさい! せっかくお膳立てしたのになんで日和るのよ、そこで! 『そうなんだ。実は僕なんだよ。久しぶり蓮司!』でよかったでしょうが!」

「むひぃだよぉ~」


 蓮司がキッチンへ引っ込んでる間に、日和ったフウにお仕置きをする。いくらトスを上げても決めてくれないんじゃ、こっちとしてもたまったもんじゃない。ただでさえ、蓮司は超がつくほど鈍いのに。


「怖がるのはわかるけど、踏み込まないかぎり変わらないわよ」


 フウの頬をしばらくむにむにしたあと、喋りやすいように解放する。


「わかってるけど、そんな簡単にはいかないよぉ。それに……」

「それに?」

「もう少し今の蓮司も堪能したいというか」

「……はぁ」


 呆れた。どうしてこんなにも面倒くさくこじれてしまったのか。いや、もう気づかない蓮司が悪いってことにしよう。だらしなく頬を緩めるフウを見て、私はそう決めた。


「それにしても、小声で怒るなんて器用だね」

「誰のせいよ、誰の!」


 もう一度、フウの頬をむにっと引っ張る。この天然ヘタレ初恋こじらせ女め。誰のせいで苦労してると思ってるの!


「いふぁいってばぁ~」


 蓮司が戻ってくるまでフウとのじゃれ合いは終わらなかった。



「——はぁ」


 桜詩とフウから逃げるようにキッチンへと戻ってきた俺は冷蔵庫に背中を預けて大きく息を吐いた。偶然と呼ぶにはあまりにも出来過ぎていて。もしも…………なんて、都合のいい妄想を並べてしまった。そんな自分に嫌気がさす。なにも変わってないじゃないかと。


「……フウはフウだ。楓じゃない。勝手に面影を重ねるなんて失礼だろ」


 リビングにいる桜詩とフウへ聞こえないように小声で自分を戒めた。いつまでもキッチンに引きこもっているわけにもいかないが、少しだけ時間を置きたかった。

 心配されないよう少しだけ呼吸を整えてから、人数分のコーヒーを準備する。一つ一つ丁寧に。カップから湯気が立ち上り、コーヒーの香りが鼻こうをくすぐる。遠い記憶になってしまった両親の匂い。写真を見なきゃ顔も思い出せないくらい時間が経ってしまったけれど、コーヒーの香りをいつも漂わせていたことだけは覚えている。


「……っと、いつまでもこうしているわけにはいかないよな」


 カップをお盆に乗せて運ぼうとすると、どこか懐かしい声が背中を押してくれた気がした。



「待たせたな……って、なにやってんだ?」


 俺がキッチンから戻ると、なぜか桜詩とフウがじゃれ合っていた。


「蓮司おかえり! ちょっと待って、今お仕置きしてるから」

「いひゃいってぇ~」

「なにがあったかは知らないけど、そのくらいにしといたらどうだ?」

「甘いわね蓮司は! こいつにはわからせないといけないのよぉ!」

「はにゃぁ~!?」


 桜詩はフウの頬っぺたをぐにぐにと引っ張りまわしたあげく、最後にいい音のデコピンを決めた。ぐるぐると目を回したフウを見て満足気に頷く桜詩。どうやら気はすんだらしい。


「仲が良いのはいいが、加減はしとけよ?」

「わかってるわよ」


 桜詩は再びテーブルへ戻ると俺が淹れたコーヒーを片手にクッキーを頬張る。


「やっぱり蓮司が淹れたコーヒー美味しいわね。毎日飲みたいくらいよ」

「実際、毎日のように飲んでただろうが中学んときは」


 にこにこでコーヒーとクッキーを頬張る桜詩を尻目に、俺はソファーでダウンしているフウの元へ近づく。


「フウ、大丈夫か?」

「うっ、うん。でも少しこのままソファーで休もうかな」

「それは別にいいけど。休むならベットとかのほうがいいんじゃないか?」

「べっ、ベット!? そ、それは流石にまずいんじゃないかな!?」

「? なにかまずいか?」

「蓮司も食べなさいよー! 一人じゃ食べきれないんだけどぉ!」

「今行くって! フウはのんびりしとけよ。お菓子は帰りに包むから。あれだけあるし」

「うっ、うん。ありがとう」


 フウは顔をほのかに赤くさせながらソファーでうつ伏せになった。休むなら仰向けのほうがよくないか?

 そんな疑問を抱えながら俺はテーブルへと戻る。大量に作られたお菓子たちはまだ半分も減っていない。クッキーとかは大和たちに包んで学校で食べてもらったほうがいいかもな。


「桜詩、コーヒーゼリーとって」

「はい。クッキーはもういいの?」

「いや、マフィンとかクッキーは包んでみんなにわければいいし。コーヒーゼリーはそうもいかんだろ」

「確かにね。なら私もコーヒーゼリー食べよ。フウは?」

「少しソファーで休むってさ。なんかうつ伏せで」

「あぁ、はいはい。そういうことね」


 桜詩はなにかを察したらしく呆れながらコーヒーゼリーへと手を伸ばした。

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