第10話「お菓子試作会」
お久しぶりです!
ずいぶんと待たせてしまいましたが、投稿再開します!
不定期にはなりますが……これからもよろしくお願いします!
「レシピよし、材料よし、調理器具よし。あとは桜詩とフウが来るのを待つだけだな」
俺はキッチンに並べたレシピ集とレシピごとに分けた材料、調理器具を確認して一息つく。
桜詩とフウに文化祭の出し物である和風メイド喫茶への協力を取り付けたあと、フウの提案により三人でメニューの試作をすることになった。そのため、複数人でも作業がしやすいように準備したのだ。
桜詩とフウは一度帰ってエプロンを持ってくることになっている。
「フウのこと、最初は遠ざけようと思ってたんだけどな」
常に桜詩とフウ一が緒に行動しているので、あからさまに遠ざけることができなかったというのが本音だ。今までは。
「大和たちのおかげか」
あのとき大和が俺に声をかけてくれなかったら、彩葉が引っ張ってくれなかったら、結衣が踏み込んでくれなかったら、きっと……こんな今はなかった。
でも、まさかこんなに早く桜詩とフウを家へ呼ぶことになるとは思わなかった。
この前の一件からまた少し前に進めた気がする。とはいえ油断すると、またあんな醜態をさらすことになりかねない。自分が思っていた以上に昔の傷は深く俺の心に刻まれていた。
いつかもう一度あいつと笑いあえるように、まずはフウとちゃんと向き合うことから始めよう。確証なんてないけれど、そうすればもう一度あいつと会える気がした。
ピンポーン!
もう一度準備に抜かりはないか確認し、二人が来るまで本でも読もうかと本棚から一冊取り出したところでチャイムが鳴る。取り出した本を本棚に戻し、玄関のドアを開けて桜詩とフウを部屋に迎え入れた。
「お疲れ、意外と早かったな」
「まぁ、エプロンを取ってくるだけだからね」
「荷物は適当に置いといて。すぐ始められるように準備はしてあるから」
『はーい』
返事をした二人はそれぞれが持ってきたエプロンをカバンから取り出す。桜詩が持ってきたのは、赤と白のチェック柄のエプロンで裾にあしらわれたフリルが可愛らしい。一方、フウが持ってきたエプロンはベージュのカフェとかでよく見るシンプルなデザインのものだ。二人がエプロンを着ける姿をボーッと眺めていると、俺の視線に気がついた桜詩がにやっと笑う。
「そんなにじっと見つめちゃって、私たちのエプロン姿に見惚れちゃったの?」
「見惚れたっていうか、個性出るなぁって思って」
「そうかな?」
フウがエプロンを軽く引っ張りながら首を傾げる。一つ一つの仕草が可愛らしく、フウの魅力を引き立てているような気がした。
「個人的にだけど、フウはもっと可愛い感じのエプロンだと思ってた」
「わかる」
何気なくこぼした俺の言葉に桜詩が頷く。
「可愛いのもいいんだけど、汚れたりするとガクッとテンションが下がるからエプロンとかはシンプルなものにしてるの」
俺と桜詩の視線を受け、フウはエプロンの裾をつまみながらちょっと困ったように笑う。
「いいんじゃね。似合ってるし」
「そう? えへへっ」
「フウには似合ってるって言うんだ? 元カノの私には言わないで」
俺がフウを褒めた途端に桜詩の機嫌が急降下する。想い人ならともかく、あんな流れで付き合っていた元カレの俺に褒められたところで複雑なだけかと思っていたが、桜詩的にはそうではないらしい。
ツンっとそっぽを向いてしまった桜詩を褒めようとして、俺は少し戸惑ってしまった。似合ってはいる。似合ってはいるんだが……。
「そのエプロンは昔のほうが似合ってた」
「はっ?」
思っていたことがそのまま口から出てしまった。桜詩は俺の言葉を悪い方向に受け取ってしまったようで、その綺麗な顔に青筋が浮かび上がる。
「待った! 悪い意味じゃなくて、桜詩は昔よりも綺麗になったから可愛いデザインよりもシンプルなデザインのほうがより似合うんじゃないかと思っただけで、けっして似合ってないわけじゃなくてだな!?」
慌てて俺が釈明すると、桜詩はくすっと笑った。
「そんなに慌てなくてもいいじゃない。別に怒ってないわよ」
嘘だ。どう見てもキレる寸前だったぞ。なんかフウも俺のことをなんとも言えない表情でジーっと見てるし。まだ調理前なのにこれでは気疲れしてしまう。このままではなかなか進まないので、少々強引だがこれからの流れをパパっと説明してしまおう。そのほうが俺の精神衛生的にもいいはず。
「とりあえずエプロンの話はここまで。今日それぞれにやってもらうレシピを配ります」
キッチンで調理を開始する前に桜詩とフウにこれから試作するお菓子のレシピを渡しておく。レシピといってもネット上で検索すれば出てくる簡単なものだ。
「はい、先生。私は人に比べてちょっぴり料理が下手ですが、役に立ちますか?」
「心配すんなって。中学生のとき、桜詩に料理を教えたの誰だと思ってんだよ。ちゃんと桜詩の料理スキルに合わせたことだけやってもらうから」
「先生。あの頃よりもちゃんと成長してるので、そこも考慮して欲しいです」
「そこはこれからの様子を見て判断します」
桜詩は不満げだが、多数の前科があるため簡単に桜詩の言い分を信じるわけにはいかない。
「桜詩ちゃんって、そんなに料理下手なの?」
「中学のときはかなり酷かったな。指は切る、調味料は間違える、電子レンジで卵は爆発させる……など」
俺が語る桜詩の失敗談を聞いて、フウの顔が引き攣る。
「でもでも、それってちょっと不器用でドジなだけで料理が下手なわけではないんじゃ……」
「数々の失敗を繰り返しているのにレシピ通り作らず、アレンジをしようとする時点で料理下手と言っていいと思うけどな、俺は」
「それはなんとも典型的な……」
フウがなんとか桜詩をフォローしようとするが、俺の言い分を聞いて口を噤む。
「ふん、どうせ私は料理が下手ですよ。蓮司に付きっきりで指導してもらってようやくカレーがまともに作れたレベルですよ」
桜詩が部屋の隅で膝を抱えていじけてしまった。いつもからかってくるからちょっとした意趣返しのつもりだったんだけど、やりすぎちゃったかな。
「蓮司くん、ここは私に任せて」
フウが俺にそう言って、桜詩の元へと歩み寄る。
「桜詩ちゃん、元気だして! 今日でいじわるなことを言う蓮司くんを見返そう!」
「フウ……? ……そうよね! もう二度と料理下手なんて言わせないんだから!!」
フウの励ましで、さっきまでいじけていた桜詩の瞳にやる気の炎が灯る。
(やる気を出してくれたのはいいけど、桜詩のやつちょっと単純過ぎないか?)
桜詩のことがちょっと心配になったものの、元気が出たようなので良しとする。二人の様子を見ていた俺とこちらを振り返ったフウの視線がふいに交差し、フウは俺に向かってぱちんっとウインクをした。上手くフォローしてくれたし、フウにはあとで何かお返ししないとな。
「桜詩もやる気が出たみたいだし、さっそく今日の流れの確認をします」
「蓮司くん、ちょっといいかな?」
フウが自身の担当するお菓子のレシピをパラパラとめくりながら手を挙げた。
「なに?」
「今回の試作だけど、私と桜詩ちゃんに任せて貰えないかな」
『えっ!?』
俺と桜詩はフウの発言に驚きを隠せない。
「ねぇ、ちょっと待って? フウは何を言っているの?」
「桜詩ちゃん、これはチャンスなんだよ。今回、蓮司くんが用意してくれたレシピは簡単なものばかり。これなら二人だけで作っても問題なく作れるはず!」
両手の拳をギュッと握って「二人でもできるよ!」とやる気満々なフウの姿に桜詩は押され気味だ。
「わかった。フウがそこまで言うなら二人に任せるよ」
「ちょっ、 蓮司!?」
「桜詩。今回のレシピはフウの言うとおり、簡単で作りやすいものだけを選んでいる。中学時代にあれだけ教えこんだんだ。フウのフォローもあれば俺が手伝わなくてもできるはず」
「ほら、蓮司くんもこう言ってるし!」
「わかったわよ! 今日で料理下手なんて不名誉な称号返上してやるわよ!!」
「その意気だよ、桜詩ちゃん!」
俺とフウに背中を押され、やけくそ気味に叫ぶ桜詩。フウもやる気に満ち溢れているし、大きな失敗はないはず……ないよな?
「蓮司くんはのんびり待っててね!」
「絶対キッチンに入るんじゃないわよ!」
「へいへい」
やる気に満ちた二人がレシピを持ってキッチンへと移動する。桜詩からキッチンに入らないよう釘を刺されてしまったので、エプロンをしまいソファーへと腰を下ろす。
(俺が試作担当だから二人に任せるだけなのはよくないんだけど、まぁいいか)
ソファーから二人の様子を見る限り、そこまで心配する必要もなさそうだ。手持ち無沙汰になってしまったことだし本でも読むか。ソファーから立ち上がり、本棚から本を一冊取り出して再びソファーに座り本を開く。
(本に熱中しすぎなければ大丈夫だろう)
「……っんじ、蓮司!!」
「うわぁ!?」
桜詩の大声が耳元で聞こえて、びっくりした俺は座っていたソファーから転げ落ちた。
「っつう」
「もう終わったんだけど!」
「うぇっ!?」
腰へ手を当てて怒っている桜詩に言われ、時計を確認してみるとすでに結構な時間が経っていた。
「いやぁ、思っていた以上にこの本が面白くてさ。それに悲鳴とかも聞こえなかったし」
「悲鳴って……蓮司の中では一体どんな失敗を想定してたのよ」
本を閉じてソファーに座り直した俺を呆れた顔で桜詩は見てくる。
「まぁ、いいわ。それよりさっさと手を洗って来なさいよ、試食会始めるから」
「了解」
洗面台で手を洗い、席に着いた俺の目に飛び込んできたのは美味しそうに出来上がったお菓子の数々だった。
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