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夢の傷跡  作者: 石城群場
第2章 「ハプニング多め? の文化祭!」

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第9話 「結衣のお願い」

いつも閲覧ありがとうございます!

 秋も深まり駅前の街路樹が徐々に色付きはじめた九月下旬。

 俺はいつもの喫茶店で桜詩とフウと向かい合っている。桜詩は興味深そうに俺が持ってきた資料を見つめ、フウは少しばかり恥ずかしそうに頬を染めている。

 さて、俺が今何をしているかと言うと……。


 時間は少し遡り、俺が結衣に呼び出された日の部室。

 再び口喧嘩を始めた結衣と馬場先輩は鹿乃先輩の武力行使により鎮圧され、部室の床で若干涙目になって正座している。鹿乃先輩の拳骨がそんなに痛かったのだろうか。

「さて、馬鹿二人が静かになったところで神里くんを呼んだ本題に入りたいんだけど」

「その前にちょっといいですか?」

 椅子に座った鹿乃先輩が本題に入る前に俺は聞きたいことがあり、手を挙げて質問した。

「結衣と馬場先輩ってなんで口喧嘩になったんですか? 今もそうですけど俺が来たときにはすでに罵り合いになっていたので、喧嘩の原因がわからなくて。さっき結衣が言ってたことから俺が呼ばれた本題にも関わってると思うんですけど……」

「あぁ、それね」

 鹿乃先輩は呆れた顔で床に正座している二人を一瞥してから俺に向かって言った。

「文化祭の出し物をメイド喫茶にするかアニマル喫茶にするかで揉めていたのよ」

「何ですって?」

 思わず聞き返した俺に鹿乃先輩はため息を吐く。

「そんな反応にもなるわよね普通なら。でも二人にとっては譲れないみたいで。衣装を作るのは私なのに……」

「大変ですね」

 頬杖をつく鹿乃先輩は困っているように見えるがどこか楽しそうでもある。

(そういえば鹿乃先輩はコスプレもしてたんだっけ)

「そうだ! 神里くんが決めてよ、どっちにするか!」

「俺ですか!?」

 鹿乃先輩は「いいことを思いついた!」と笑顔で俺に丸投げしてきた。正座している二人の視線が俺に突き刺さる。

「友達だもん。私の意見に賛成してくれるよね?」

「何を言っているんだ星宮。神里なら先輩を立ててくれるに決まってるだろ」

 床に正座しながら睨み合う両者。視線がバチバチと火花を散らしている。

(そもそもどっちがどっちを推しているか俺は聞いてないんだけど)

 困った俺が鹿乃先輩の様子を伺うと、鹿乃先輩はそんな俺を見てニコッと笑った。

(俺が友達と先輩のどちらを選ぶかって形にしないためにってわけじゃないよなぁ、あの顔は……)

 ニコニコと笑う鹿乃先輩は今の状況を楽しんでいる。普段はキチッとしているのにこういうときに限っては意地が悪い。

 とはいえ、このまま黙ったままでいても話は一向に進まないので結論は出さなければならない。

 それに口喧嘩の原因を聞いて、結衣のお願いの内容も見当が付いた。

「質問いいですか?」

「答えるかは内容によるけど」

「どっちの案も服装のデザインって決まってますか?」

「えぇ。バッチリとは言えないけど、ある程度は」

 俺の質問に怪訝そうに答える鹿乃先輩。とりあえずこれで第一関門は突破である。

「露出が多いのはどっちですか?」

「ふぅん、神里くんも男なのねぇ。アニマル喫茶よ」

「見損なったよ蓮くん!」

 俺の質問で鹿乃先輩はからかうように笑みを深め、結衣からは非難の声が上がる。

「そう言うな星宮。男はみんなそういうもんさ」

 馬場先輩は「俺はわかっているぞ」となぜかドヤ顔で頷いている。

「ちなみにアニマル喫茶の服の露出ってどれくらいですか?」

「そこまで聞くの? そうね、ビキニと変わらないくらいよ」

「そうですか」

 鹿乃先輩の答えを聞いて俺の中で答えは決まった。

「じゃあ……」

 部室内に緊張が走る。

「アニマル喫茶はなしですね」

「なぜだ!!」

 俺の答えを聞いた馬場先輩が叫び、鹿乃先輩はきょとんとしている。

「今までの流れなら、てっきりアニマル喫茶を選ぶと思ったんだけど」

「いや桜詩は露出が多いの嫌がるんで」

「そうなの? 意外ね」

「桜詩ちゃんって美人だしスタイルもいいし、ガンガン露出していくタイプだと思ってた」

 俺の答えを聞いて顔を見合わせる鹿乃先輩と結衣。そして二人は同時に首を傾げた。

『なんで紀乃さん(桜詩ちゃん)が出てくるの?』

「えっ? だって結衣のお願いって、『桜詩を説得して欲しい』ですよね?」

 二人の質問に俺が首を傾げながら答えると、二人は驚いたあとに呆れ顔になる。

「私のお願いはそれでほぼあってるんだけど…」

「なんでこういうことは察しがいいのに…」

『はぁ』

 そして二人は同時にため息を吐いた。

「まぁ、いいわ。神里くん、メイド喫茶なら紀乃さんの協力は取り付けられそうってことでいい?」

「正直、微妙ですね」

 鹿乃先輩の問いに俺は腕を組みながら答える。

「それはなんで?」

「メイド喫茶は高校のときにやっているので、もういいとか言われそうなんですよね」

『なにそれ聞いてない! 写真ないの!?』

 俺の言葉に三人が凄い勢いで食いつく。

「ないです」

『くっ……』

 俺の答えに悔しそうに顔を歪める三人。そんなに桜詩のメイド姿が見たいのかと思わず呆れてしまう。

「それで話は戻しますけど、普通のメイド喫茶だと微妙なので和風メイド喫茶とかどうですか?」

『和風メイド喫茶?』

 俺の提案に三人が声を揃えて首を傾げる。

『あり!!』

 そして少しの間三人で顔を見合わせたあと、俺に向かって三人は笑顔でサムズアップした。

「神里くんはそういうのが好きだったのね」

「好きっていうか、ネットで偶然広告を見かけて」

「わかってるわかってる」

 鹿乃先輩がにやにやしながら俺をからかってくる。結衣や馬場先輩も思わぬ一面を知れたとニヤケ顔だ。

 反論しても流されるだけなので俺は話を進める。

「出し物決まりでいいですよね」

「そうね。担当分け決めよっか。まぁほぼ決まってるんだけど」

 鹿乃先輩が席から立ち、端に寄せられていたホワイトボードを持ってきた。

「まず衣装のデザイン、製作は私でしょ」

「内装のデザインと彩ちゃんの説得は私!」

「俺は調理器具や材料の確保」

「まだメニュー決まってないでしょ」

「なら俺は当日出すメニューの提案と試食作り、あと桜詩の説得か?」

「蓮くんはフウちゃんの説得もお願い!」

「フウの説得も俺なの? まぁやるだけやるけど」

 いつの間にか正座の刑から解放された馬場先輩と結衣もホワイトボードの周りに集まり、それぞれがやることをホワイトボードに書きながらまとめていく。

「内装の装飾作りはデザインが仕上がってからみんなでやればいいし、準備で必要なのはこんなものかな」

「星宮と神里が説得に成功しなければ企画倒れになるがな」

「変なプレッシャーかけないでくれませんか? 馬場先輩」

「大丈夫大丈夫! 勝算ならあるから!」

 俺の隣にいる結衣が笑顔で俺に向かって言う。周りのことをよく見ている結衣だからこそ言える台詞だ。

「鹿乃先輩のデザインが出来次第、行動に移しますね」

「任せてすぐに仕上げるわ!」

 鹿乃先輩の瞳にはやる気の炎が燃え上がっている。


「もう遅いし今日はこれで解散だ」

 それぞれの担当とスケジュールの目安が定まったところで、馬場先輩から号令がかかる。

 窓の外を見ると景色がオレンジに染まっていた。


 そして昨日、鹿乃先輩から完成したデザインを手渡されたので、急いで桜詩とフウの二人に連絡を取り今日喫茶店に二人を呼び出したのだ。

「私は協力するわよ。服のデザインもいいし、おもしろそうだし」

 デザイン案の書かれた紙をペラペラと捲っていた桜詩は乗り気なようでいい返事が貰えたのだが、フウのほうは少し悩んでいる。

「フウ? 無理なら断ってもいいから」

 俺がそう言うと、フウはハッと顔を上げて両手をぶんぶんと振った。

「無理ってことじゃなくて、その、私に似合うかなって……」

『絶対似合う!』

「ふ、二人がそう言うなら」

 俺と桜詩が食い気味にそう答えると、フウは少し恥ずかしそうに頬を染めながら頷いてくれた。

「二人ともありがとう」

「せっかくの文化祭だし楽しまないと損でしょ。ね、フウ?」

「そうだね。ちょっと恥ずかしいけど、こんな機会は滅多にないだろうから楽しみ」

 こうして想像以上にあっさりと二人の協力を取り付けることはできた。

「この和風メイド喫茶を提案したのって蓮司でしょ?」

 肩の荷も下りてホッとしたのも束の間、目の前いる桜詩がニヤりと笑う。

「お察しの通り」

「やっぱり。高校のときはボツになっちゃったもんね」

「それ、先輩たちには言うなよ」

「どうしよっかな〜」

 ニヤニヤにしながらからかってくる桜詩。ずいぶんと楽しそうだ。

「もう。冗談だからすねないでよ」

「すねてねぇよ」

「ホントに二人とも仲良いね」

 俺たちのやりとりを見てフウが笑い、その笑顔につられるように俺と桜詩も笑った。


「今日は解散?」

「要件は済んだし、そのつもりだけど」

「そっか。まだお昼を少し過ぎたとこだし、私たちは買い物でも行く?」

「そうだね」

 俺の要件が終わったことを確認すると、桜詩はフウと一緒にこのあとの予定を立て始めた。

「蓮司はどうするの?」

「俺? 俺はこのあとスーパーによって喫茶店で出すメニューを何個か試作するつもりだけど」

「味見しに行っていい!?」

 俺の返事を聞いた桜詩が食いつき、フウがちょっと悩んでから口を開いた。

「私たちも試作手伝うよ」

「助かるけどいいのか?」

「うん。私も人並みには料理できるから。桜詩ちゃんもいいよね?」

 俺は戸惑いながら桜詩を見る。俺が知る限り桜詩は料理が苦手だったはずだ。

「……フウがいいなら」

「決まりだね!」

 桜詩は何か言いたげに俺を見たが、結局はフウの意見に賛同するのだった。


 こうして、フウと桜詩の二人と一緒に三人で喫茶店メニューの試作会を俺の家ですることになったのである。

最後まで閲覧ありがとうございます。


作者の諸事情により次回から更新は不定期となります。

申し訳ありません。

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