流石に怒ってもいいよね!
翌日。
昼のぽかぽか陽気の中、俺は屋敷の中庭に来ていた。
何故かって?
お花が見たいからさ!
昨日の夕食の時に父から魔法を使ってもいいと言質を取ったのだ。
少し注意されたような気もするけどよく覚えてない。
まあ、パーっと魔法を使ってやればスッキリして思い出すだろう!
さあやるぞ。
今朝から早く魔法を使いたくてうずうずしてたんだ。
もう誰にも止められないぜ!
「ムムム…てい!」
ぽんっ!
「や!」
わさっ!
「は!」
ぼわっ!
ふー。
久しぶりにこんなに魔法を使ったよ。
目の前には綺麗な花畑ができた。
元々は整備されたふかふかの芝生だったが、今は足の踏み場もないほど花で覆い尽くされている。
見る影もないとはこのことを言うんだな。
これは流石にやばい、こんな、このままじゃ………クセになりそう!
楽しい!
もっとだ。
まだまだこんなもんじゃない!
もっとできるはずだ!
いくぞ、地面を見えなくしてやるぜー!
「はあああ「お嬢様」あハァッ!?」
花をにょきにょき生やしていると、後ろから今まで聞いたことのないような冷たい声が聞こえた。
壊れた機械のようにガックガクと後ろを向くとイーナが居て、笑顔なのに地獄の業火を宿したかのような怒りを湛えた目だけが冷ややかにこちらを見ていた。
本能が危機を察知したのか、油のさしていない機械のようなぎこちない動きで体が勝手にこの場から離れようとする。
「逃がしませんよ」
「ひぃゃっ!」
次の瞬間にはイーナにガッチリと抱っこされ、そのまま父の元へと運ばれたのだった。
「…確かに昨日は魔法を使っても良いと言った。でも『ある程度』とも言ったはずだが?」
現在俺は父の執務室でお説教タイムである。
部屋の中には、俺と父の他に父の補佐をしている執事長と俺をここまで連れてきたイーナの4人がいる。
執事長は温厚なおじいちゃんって感じで、つい甘えたくなるようなオーラがある。
いつもにこやかな表情の父が今は、後ろにメラメラと炎が見えるようで差し詰め不動明王だ。
顔はあんなに怒ってないけど。
「…ごめんなさい、元に戻します」
怒られていると思うとつい萎縮してしまい声も小さくなる。
気が弱いんです。
だって幼女だもん。
「別に中庭を花畑にしたことには怒ってな…いや、怒って…まあいい。それよりもあんなに魔法を使ったことが心配なんだ」
「?」
怒ってるんだな。
でも中庭を花で埋め尽くしたことを怒るよりも心配だと?
聖人か?
いや、きっと花の妖精なのかもしれない。
だから中庭を花畑にしても怒ってないで、むしろ心配をしてるんだ。
あんなイケメンなのに…花の妖精……プッ!
くっ…ダメだ。
今笑ってはいけない。
こんな空気の中笑ってしまうなど、くくくっ…頭のおかしい奴だと思われてしまう。
意思に反してプルプルと震える身体を必死に抑える。
皆んなから心配そうな視線を感じるが、ツボにハマったらしくなかなか止まらない。
そうだ、違うことを考えよう。
そういえば心配って言ってたけど、魔法を使いすぎると何か良くないのだろうか。
そう考えると急に怖くなってきた。
まさか、しゃっくりを100回すると…って奴みたいに魔法を沢山使うと何かがあるのだろうか。
「どうした、さっきから震えているけど具合が悪いのか?まさか魔力欠乏症か!?」
「っ!すぐに医者を手配しましょう」
「頼む」
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
なんか皆んなに心配をかけてしまったようで、医者まで呼ぼうとしている。
待ってくれ、俺はその『まりょくけつぼーしょー』ではないんだ。多分。
ただ笑いを堪えていただけなんだ!
「大丈夫、元気です」
「だがあれほど魔法を使っては魔力をかなり消耗したはず」
なるほど。
さっきの心配は魔力を使い過ぎではないかってことか。
確かに結構減ったような気はするけど、具合が悪くなったりはしていない。
むしろ魔法を使えてスッキリしたのか、身体が軽くなったようだった。
だが他の人は心配そうにこちらを見ている。
なんともないってばー。
「やはり一度医者に診ていただいては?」
「そうだな、魔力について詳しい医者を呼べ」
「承知いたしました。すぐに連れて参ります」
そう指示を受けた執事長が止める間も無く、部屋を出て行った。
本当に医者を呼ばれるとは。
仮病してないのに罪悪感がすごい。
まさかこうやって反省させて二度とやらせないようにするという作戦か?
「お待たせいたしました。クラインベック家専属医のエリーが魔力にも造詣が深いと申しておりましたので連れて参りました」
「クラインベック家専属医のエリーと申します」
「そうか。さっそく診てくれ」
はやっ!
本当にすぐ連れて来たね。
まだ3分も経ってなかったよ。
ていうかすごい美人が来た。
「ではお嬢様、失礼します」
「あ…」
エリーという名前らしい彼女は俺と視点を合わせるようにしゃがみ、問診や触診などをテキパキと行っていく。
瞳孔の検査をするときに、紫色の瞳で覗き込むように見つめられて、サラサラとした金髪が一房はらりと垂れる様は絵画に残したいほど綺麗で思わずドキドキしてしまった。
手際もすごくいいし、できる女性って感じで素敵だと思います。
まさにエリート。
はい。
「特に異常はありませんでした。身体の不調もないそうなので、問題はないでしょう。…ですが、一点だけ気になることがございます」
「気になる、こと?」
え?
その言い方怖いんだけど!
まさか病気?
さっき異常はないって言ってたのに。
今まで楽しかったです。
わたしのことは忘れないでくださいね。
よよよ。
「はい。どうやらお嬢様は他の人よりも多く魔力を生成なさる体質のようです。ただ、魔力量にも限界はございますのでもしも限界を超えられてしまった場合…」
「…どうなると言うんだ?」
部屋の中の空気が張り詰めている。
そう感じるほどに皆んな真剣にエリーの話しの続きを待っていた。
誰かの唾を呑む音が聞こえた。
汗が一筋首を伝う。
「爆発します」
………。
「えええええ!?」
「冗談です♪」
「えええええ!」
何この人!!
爆発オチなんてサイテー!
ということで回避しました。
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次回の更新は明後日です。




