004 ゴブリン軍団、襲来
ゴブリン軍団接近。
それを知った蘭丸会長の判断は早かった。
「ただちに迎撃チームを編成する。勘解由小路は校内放送で戦えそうな部活を招集しろ」
「戦えそうな部活……やっぱ剣道部やフェンシング部、弓道部にアーチェリー部、それから空手部や柔道部辺りですかね。でも、全員が全員戦えるわけじゃないと思いますよ?」
戦意の低い者が混じると士気の低下に繋がりかねない。
それを考慮しての勘解由小路先輩の進言だ。
「問題ない。オレの演説で全員を戦士に変えて見せよう」
「この人マジでできそうだから怖いわ。ま、分かりました。じゃあ早速放送室に――」
「あ、待ってください」
勘解由小路先輩が生徒会室を飛び出して放送室へ向かおうとしたので、慌てて呼び止める。
「えっと、負傷者が出た場合に備えて、保険委員の生徒を保健室に集めておくのはどうでしょうか?」
「……ふむ。たしかに迅速な処置ができれば、無用な犠牲を出さずに済むだろう。勘解由小路」
「了解です」
今度こそ勘解由小路先輩が生徒会室を出て、放送室に向かった。
少し寂しくなった生徒会室で蘭丸会長が笑う。
「フッ、早速生徒会に勧誘したことを正解だったと思わせてくれるな」
「い、いや、それほどでも」
俺を褒めつつ、蘭丸会長は次の指示を出した。
「宇佐見、お前は音無と共に屋上に上がれ」
「え、あ、はい。……音無?」
「あ、それあーしあーし!! あーしが音無!!」
音無というのはドローン部部長のことだったらしい。
「って、屋上ですか?」
「戦場全体を見渡して、撃ち漏らしがあった場合はこの無線機でオレに連絡をしてくれ」
そう言って蘭丸会長が生徒会の備品室から持ち出してきたのは、トランシーバーだった。
そういえば、避難訓練の時に先生たちが使ってるのを見たことがあるな。
「でも、蘭丸会長は?」
「オレは前線で直接指揮を取る。今後生徒たちを統率していくなら、目に見える実績を作っておく方がいい」
「な、なるほど」
たしかに安全な場所から指示を飛ばすだけのリーダーより、同じ戦場で見守ってくれるリーダーの方が戦う者たちの支持を得やすい。
今後も見据えた戦略、か。
……この人本当に高校生なのかな。
「よろしくね、ウサミン」
「ウサミン……?」
「え? だって宇佐見でしょ? じゃあウサミンじゃん」
「あ、はい」
どことなく気の抜ける渾名を付けられたが、俺は音無先輩と屋上へ向かった。
◆
◇
◆
「皆、よく集まってくれた」
蘭丸の前には総勢百五十人の生徒たちがいた。
面や胴、小手を装備しながら殺傷力のある木刀を携えた剣道部や道着を着た空手部や柔道部、フル装備のラグビー部だ。
他にも校舎の二階には弓道部とアーチェリー部が控えており、迎撃体勢は完璧に整っていた。
「我々は今、危機に見舞われている。あと数分足らずでこの学校に怪物の群れがやってくる。およそ三時間前、グラウンドに侵入してきた奴らと戦ったオレが断言しよう。――連中は我々を蹂躙する気だ」
淡々と事実を告げる蘭丸の言葉に、生徒たちの表情が強張った。
彼らを一瞥し、蘭丸は続ける。
「怖いだろう。恐ろしいだろう。だが、戦わねばならない。我々が戦わねば、戦えない生徒たちまでもが蹂躙される」
蘭丸の言葉が、重みとして生徒たちの心に伸しかかる。
「正直に言って、オレも怖い。だが、我々は無策で挑むわけではない。ドローン部が常に敵の位置を把握し、校舎の二階に控えている弓道部やアーチェリー部から支援射撃もある。負傷しても、すぐ保険委員が手当てしてくれる」
「で、でも蘭丸会長、ゴブリンは百匹いるって聞きました。本当に、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。隣を見ろ」
生徒たちが言われるがまま隣を見る。
そこには同じようにこちらを見る、同じ部活動の仲間たちがいた。
「我々には仲間がいる。この苦難を共に乗り越えられる大勢の仲間が。仲間を信じろ。それが勝利へと繋がるだろう」
淡々としながらも熱の入った蘭丸の言葉で、生徒たちの目に闘志が宿る。
「我々は必ず生きる。生きてこの学校を、生徒たちを守る。――必ずだ」
「「「う、うおおおおおおおおおっ!!!!」」」
生徒たちが雄叫びを上げたその時。
『ゴブリン、正門から侵入してきます!!』
宇佐見から無線が入り、ゴブリン軍団が正門から姿を現した。
「来たか。――勘解由小路」
『了解。弓道部、アーチェリー部!! 日頃の努力の賜物を見せてやれ!!』
無線機で勘解由小路に連絡すると、校舎の二階に控えていた弓道部やアーチェリー部に動きがあった。
一斉に矢が放たれ、ゴブリン軍団に降り注ぐ。
その一斉射撃によって十数匹のゴブリンに矢が刺さり、勢いを殺した。
「必ず二人一組で対処するように!! 抑えられないと判断したら、一度下がって態勢を整えろ!! 突撃!!」
「「「うおおおおおおおおおッ!!!!」」」
蘭丸の合図で生徒たちが駆け出した。
初手の一斉射撃で勢いを失ったゴブリンに対し、蘭丸の演説によって士気が向上した生徒たち。
どちらが有利かは明白だった。
『右側から三、撃ち漏らし!!』
「ラグビー部!! 右側の守りを固めろ!! 敵を通すな!!」
「「「応っ!!」」」
宇佐見から届く無線に耳を傾けながら、蘭丸は戦場を動かしていく。
その時、正門から入ってきたゴブリンたちの中に一際大きな影が混じっていることに蘭丸は気付いた。
体長およそ二メートル。
全身にボディービル部も唸るほどの筋肉をまとっており、さながら重戦車のようにも見える。
ドローン部の持ってきた映像からその姿を確認した宇佐見が『ホブゴブリン』と呼称していたため、蘭丸もその呼び名を採用することにした。
それが三体もいる。
「う、うわあ!?」
一人の剣道部員がホブゴブリンの豪腕によって吹き飛ばされ、地面を転がった。
空かさずラグビー部の生徒が三人カバーに入る。
「このデカブツを押さえろ!! 絶対に通すな!!」
しかし、ホブゴブリンたちの進撃は止まらない。
ラグビー部員を振り払い、こちらの指揮系統を瞬時に見抜いて指揮官である蘭丸に真っ直ぐ向かってきていた。
「見たところ、ホブゴブリンは重量級ボクサーよりもパワーがありそうだな。一体ならまだしも、それが三体ともなると厄介だ」
口では厄介と言いつつも、蘭丸は的確に指示を飛ばす。
「ラグビー部は十人でホブゴブリン一体の足止めを。その間に手隙の剣道部、空手部はもう一体を仕留めてくれ」
「蘭丸!! もう一体はどうする!?」
声を上げたのは蘭丸と同じクラスの生徒であり、剣道で全国大会優勝の経験もある剣道部主将、剣崎だった。
「最後の一匹はオレと剣崎で仕留める」
「二人だけで!? つーか大将が戦ってもいいのか!?」
「向こうがこちらに向かってくるのだ、仕方あるまい」
ここで蘭丸が下がれば全体の士気に関わるため、迎え撃つという選択肢しかない。
「オレが動きを封じる。お前がトドメを刺せ、剣崎」
「ああもう、分かったよ!!」
蘭丸は向かってくるホブゴブリンを正面に見据え、拳を構えた。
「ギャギャア!!」
棍棒を振り上げるホブゴブリン。
その体格と手に持った棍棒の大まかな重量から、直撃すれば致命的なダメージになり得るだろう。
それを見抜いた蘭丸がまず最初に放ったのはローキックだ。
膝を的確に狙ったその一撃にホブゴブリンは悶え、振り上げた棍棒を手放して、その場に蹲ってしまう。
すると、ホブゴブリンの顔がちょうど殴りやすい位置にまで下がってきた。
「ふんっ!!」
「ギャギャ!?」
ホブゴブリンの顔面に拳を叩き込む蘭丸。
「剣崎」
「あいよ!!」
拳を食らって怯んだホブゴブリンの脳天に、剣崎は木刀を振り下ろした。
生々しい骨を砕く感触が、木刀を通じて剣崎の手に伝わってくる。
「ギ、ギャ……」
「げっ、こいつまだ生きてる!?」
「……ふむ」
蘭丸は倒れ伏すホブゴブリンの首を全力で踏みつけ、首の骨を折り、脊椎を破壊した。
今度こそ絶命するホブゴブリン。
「よ、容赦ねーな、蘭丸……」
「必要なことだ。あまりいい気分ではないがな」
蘭丸は他のホブゴブリンに視線を向ける。
すでに剣道部と空手部はホブゴブリンの一匹を仕留めており、ラグビー部が足止めしているもう一匹に攻撃を仕掛けているところだった。
すでに侵入してきたゴブリンの大半が倒されていて、勝敗は明白であった。
最後に残ったホブゴブリンの脳天に剣道部の生徒が木刀を振り下ろし、頭蓋骨を陥没させたことで命を刈り取る。
生徒たちの勝利である。
「うおおおおおおおおおッ!!!!」
「勝ったああああああああああああっ!!!!」
「俺たちの勝利だあああああッ!!!!」
勝利の雄叫びを上げる生徒たちを横目に、蘭丸は今後のことを考える。
(ゴブリンの死体の処理や負傷者の手当て、精神的なケア……やるべきことは多い)
そう頭では理解しつつ、全員で危機を乗り切ったことに他の生徒たち同様、蘭丸も頬を緩める。
安堵の空気が学校中を包んだ、その瞬間だった。
首から下げていた無線機に、屋上から戦場を見渡していた宇佐見から通信が入った。
『蘭丸会長!! 南側の塀をよじ登ってゴブリンが侵入しようとしてます!! 数は十八!!』
「っ」
まだ戦いは終わっていなかった。
キャラ紹介
音無
学力 E-
身体能力 B+
思考力 C+
社交性 S+
総合力 C+
備考
ギャル。圧倒的陽キャ。一度話したら友達。あれ? こいつ俺のこと好きじゃね? な男子を量産するタイプ。めっちゃおっぱいデカイ。
作者「ほらほら、ちゃんと主人公も活躍してるでしょ!!」
宇佐見「これ活躍って言っていいのかな?」
「蘭丸が高校生かはたしかに疑わしい」「ウサミンええやん」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、ポイント評価、レビューをよろしくお願いします。




