002 生徒会室での話し合い
『今から突拍子のないことを言うが、どうか現実として受け止めてもらいたい。――我々は、学校ごと異世界に転移してしまったらしい』
蘭丸生徒会長の言う通り、突拍子のない話なのは間違いない。
しかし、現実は現実。
実際に起こっていることとして受け入れないと何も始まらない。
『これから我が校の行く末を決める話し合いの場を設けたい。各クラスの代表者は生徒会室に集まってほしい。その間、他の生徒たちにはパニックに陥らず、冷静に努めてほしい』
放送が終わる。
誰もが生徒会長の言葉を心の中で反芻し、できるだけ冷静さを失わないように行動するだろう。
この様子なら、もうさっきみたいなパニックになる心配はないだろう。
ホッと胸を撫で下ろした、その時。
小鳥遊さんが俺の方に近づいてきて、声をかけてきた。
「宇佐見くん、お願いがあるの」
「え、あ、な、何かな? 小鳥遊さん」
小鳥遊さんは美人だ。
艶のある長い黒髪や凛々しい顔立ち、堂々とした立ち振舞いはとても同級生とは思えない。
普段は遠くからちらちら見てるくらいだったため、こうした話しかけられると緊張して肩に力が入る。
「クラスの代表者として生徒会室に行ってきてくれないかしら?」
「え? でも学級委員は小鳥遊さんだし……」
「生徒会長は各クラスの代表者と言っただけで、学級委員とは言ってないわ」
へ、屁理屈じゃないか?
そう思ったが、小鳥遊さんは申し訳なさそうな、困ったような笑みを浮かべて言った。
「ごめんなさい、正直まだ私も現実を受け止め切れていないの。こんな状態じゃ生徒会長の言う話し合いに参加しても話に集中できるとは思えない」
「な、なるほど?」
「その点、貴方なら任せられるわ。さっきもクラスの皆のパニックを防ぐために行動してくれたでしょう? 多分、貴方が今この教室で一番冷静だろうから」
「わ、分かった。小鳥遊さんにそこまで言われたら断れないよ」
「ありがとう」
俺は小鳥遊さんの見せた笑顔に内心ドキッとしながらも、教室を出て生徒会室に向かった。
生徒会室には、学年問わずすでに大勢の生徒の姿があった。
俺の通う天竜高校は各学年十クラス、一年生から三年生まで合わせると三十人の代表者たちが生徒会室に集まっていた。
そこに生徒会長蘭丸恭介率いる生徒会メンバーがやってきて、席に着く。
「生徒会長の蘭丸恭介だ。今から話し合いを始める。ひとまず俺の意見を聞いてもらいたい」
生徒会長は粛々と言葉を綴った。
「まず現状を確認する。我々は学校ごと異世界に転移してしまった。それも、先生方を除いた生徒のみだ」
そういえば、空が光った直後に教壇に立っていた先生たちが姿を消した。
まさか生徒だけが異世界に?
「我々は大人の力を借りず、我々の力だけでこの局面を乗り越えねばならない。そのためには、一人一人の協力が不可欠だ」
代表生徒たちの間に緊張感が走る。
心のどこかで緩んでいた気持ちが引き締まったのうな気がした。
「目下の問題はいくつかある。まずインフラだ。我が校には非常時に備えて自家発電設備があるため、すぐに電気が使えなくなることはないが、限界はある。可能な限り節電を心がけたい」
電気は人の生活と切っても切り離せない存在だ。
今のところ気候は安定しているようだが、もし冬や夏が来たらどうなるか分からない。
灼熱の中でクーラーが使えないのは地獄だし、その逆もまた然り。
安定した発電手段が獲得できるまで、可能な限り節電するという意見には賛成だ。
「そして、重要な水と食料だ。皆が集まる前にざっと資料を確認してみたが、いずれも五日分しかない。一日一食に制限したとしても半月と持たないだろう」
たった五日。
それが恐ろしく短いタイムリミットであることは全員が理解できた。
このままだと確実に飢える。いや、飢えるだけならまだマシかも知れない。
最悪の場合、待ち受けているのは水や食料を巡る生徒同士の争い――殺し合いだ。
そう遠くないうちに訪れるかも知れない未来を想定して嫌な汗が背中を伝う。
きっと俺と同じ未来を想像したらしい代表生徒も険しい顔を見せる。
蘭丸はそんな俺たちの目を見ながら、堂々と宣言する。
「まず最初に言っておく。オレは生徒会長として、この学校の生徒を誰一人見捨てるつもりはない」
その真っ直ぐな言葉は、自然と頭の中に入ってきて俺たちに安堵感を与えてくれる。
「水と食料の確保についていくつかのプランを考えた。率直な意見がほしい」
蘭丸の目配せで生徒会メンバーがホワイトボードに今後の水と食料の確保について書き記していく。
「まず、園芸部を主体としたチームを編成し、農地の開拓や食料の生産を行う。弓道部やアーチェリー部を始めとした狩猟に役立ちそうな技能を持つ生徒を主軸として、周辺の森で狩りをしてもらう予定だ。水も同様に、森での水源確保のための調査チームを編成したいと考えている」
「き、危険すぎる……」
思わず口から言葉を漏らしてしまったことを後悔してももう遅い。
各クラスの代表生徒と生徒会メンバーが揃って俺の方を見た。
「君は一年一組の宇佐見だな」
「え、あ、はい。え、てか何で俺の名前知って……?」
「毎年新入生の資料には目を通している。長く生徒会長をやっていれば、自然と全校生徒の顔と名前くらいは覚えるさ」
まじかよすっげ。いや、そうじゃなくて。
「す、すみません、差し出がましいことを言いました……」
「いや、構わない。君が危険だと言った理由を話してほしい」
蘭丸の真っ直ぐな眼差しに射抜かれて、俺は思ったことを語った。
「えっと、その、ここって異世界じゃないですか。さっきグラウンドに入ってきたゴブリン……化け物が他にもうじゃうじゃいるかも知れない。森に入っての狩猟はリスクが高い、かなと」
「それについては同感だ。でも誰かがやらねば皆が飢えてしまう。無論、オレだけ安全な場所にいて指示を出すつもりはない。オレが直接狩猟チームを率いて――」
「あ、それはダメです」
俺は蘭丸の意見を真っ向から否定する。
「……なぜだ?」
「生徒会長が現状、この学校の精神的支柱になっているからです。生徒会長にもしものことがあったら、それこそ俺たちは全滅します」
「そう、か。ふむ、そうだな」
俺の言葉に反論はないようで、代表生徒たちも頷いていた。
「だが、何もしなければ我々は半月と経たず全滅してしまう。いや、体力面や精神面を考慮すれば十日が限界だろう」
「逆に言えば、十日も猶予があります。周辺の地形を調べたり、植生を調査したり、生物の痕跡を探してどんな生き物がいるかを把握するだけでも全然違うかと。もしかしたら近くに村があって、この世界の住人と交流できるかも知れませんし」
「……ふむ」
蘭丸が顎に手を当てて思案を巡らせる。
その時、何か閃いたらしい一人の代表生徒が声を上げた。
「もしこっちの世界に人間がいるなら、そいつらから水や食料を奪えばよくね!?」
「却下だ」
ズバッと意見を一刀両断する蘭丸。
「我々は強盗ではない。交渉で何らかの対価を払うことで食料や水を確保するならばともかく、奪うという選択肢はない」
「うっ」
「それにこの世界の文明が我々より進んでいる可能性もある。にも関わらず強引なやり方をすれば、我々に待っているのは虐殺だ」
虐殺という言葉を聞いて青ざめる代表生徒。
蘭丸は俺に視線を戻し、言葉を続けた。
「……話が逸れたな。宇佐見の提案はリスクも減らせて尚且つ食べられる果物や野草の発見、異世界の住民が見つかるかも知れない。他に意見のある者はいないか?」
「あ、はいはーい!! あーしドローン部だけど、カメラ付きのドローンで周辺の地形なら調べられると思う!!」
「植生や動物の調査なら我ら生物部にお任せあれ!!」
代表生徒の一部が声を上げ、蘭丸は満足そうに俺を見ながら頷いた。
「君の意見を採用しよう、宇佐見」
俺は緊張の糸が解けて椅子に腰を降ろす。
蘭丸が俺の方を見てフッと笑ったような気がしたが、気のせいだろう。
「続いて学校を襲った怪物への対策だが、奴らが塀をよじ登って学校の敷地内に侵入してきても撃退ないし討伐できるように、剣道部やフェンシング部等の生徒に二十四時間三交代制で見回らせ――」
それからも着々と話し合いは進んだ。
あとは代表生徒が各クラスに話を持ち帰り、情報を伝達するだけ。
俺も生徒会室での話し合いを小鳥遊さんに話すため、他の生徒に続いて生徒会室を出ようとしたところで蘭丸に呼び止められる。
「宇佐見、君はどこの部活に入っている?」
「え? あ、帰宅部ですけど」
「ならちょうどいい。君は生徒会に入れ」
「え?」
……ええ!?
キャラ紹介
宇佐見
学力 C+
身体能力 C-
思考力 B+
社交性 C+
総合力 C+
備考
同じクラスの小鳥遊に好意を寄せている。小鳥遊からはたまに話すクラスメイトとしか認識されていない。
作者「宇佐見がちょっぴり活躍したぞ!!」
宇佐見「これ活躍って言っていいのかな……」
「先生いないんか……」「生徒会に誘われたー!!」「小鳥遊さんからただのクラスメイト扱いされてるの草」と思った方は、感想、ブックマーク、ポイント評価、レビューをよろしくお願いします。




