なんの成果も
円形山岳調査レポート。
プロミナさんと二人で行った一日目はなにもなかった。
プロミナさん、ガーベラと三人で行った二日目もなにもなかった。
そして三日目の今日はガーベラと二人でやっていきます。報告終わり!
「──やっぱり、現状だと情報不足かしらねぇ♡」
円形山岳はそれなりにデカいステージだけども、プロミナさんの飛行能力を借りつつ要所要所に絞って回るなら、二日でこと足りる。
なので今日は、昨日までに調べた地点を数カ所ピックして再度見回るだけ。まあつまり、成果はさほども期待していない。
見上げてみれば薄雲の夜。ただでさえ細い月の光が、今日はよりいっそう淡く滲んでいた。
まるでガーベラと私のようでイケてる。
「んふふ♡♡」
がはは♡♡
「ん、んん……例えばこの呻き声とやらが、他プレイヤーが発生させたイベントの先触れだった場合……ワタシたちはそもそも参加資格を得ていない可能性もあるわけで〜♡」
ガーベラの言うパターンだった場合なら、それこそどうしようもない。
今日……いや、もうあと一日二日くらいか? それでなにも分からなければ一旦調査終了でいいのかなぁ、というのが正直な気持ちだ。いや気にはなりますけどもね。そもそもが思いつきで始めた調査ですからね。
「なんだったら、顕界度を上げて調べてみる♡?」
比較的に樹木の少ない岩肌エリアを歩きつつ、二人で色々と考える。
ガーベラの言葉に、それもありっちゃありなんだけどねー……と触手を斜めに振って返せば、黒い霞も同じようにふわりと揺れた。
顕界度が上がれば『月光』の出力も底上げされるから、『暴く月導』だってより強力になるのは間違いないだろう。しかし一方で、『月導』は顕界度に頼らずとも封印城の秘を暴けるほどの力があるのもたしか。ゆえにこそ、顕界度上げればハイ解決という気もあまりしない。
『執心』の教唆による顕界度上昇は日に一度、一分ぽっきりだからなぁ、ちょっと出し惜しんじゃうよね。
「……モンスターの声ではない。洞窟や穴蔵を抜ける風の音でもなさそう。聞こえたという場所はランダムで規則性もなし……」
さっぱりね♡ と、ジェスチャーだけで伝えてくる。真似してみる。
いやてか、二日以上それ目当てで探し回っても一切なんの成果もないとか、それはそれでなんか変な気もする。だって、普通に山歩いてるプレイヤーさんたちが聞いてるんだよ呻き声?
「……となれば、やっぱりワタシたちには参加資格のないイベントか……あるいはー♡?」
んー、なんだろ……えー……ぇあー…………
……じゃあねぇ、そう、呻き声側が特定の相手を意図的に避けている、とかはどうでしょうかね?
いやこれガーベラが言ったこととほぼ同じか?
「……“呻き声”はゲーム側が用意したイベントではなく、かつ、明確な意思がある……なんてね♡?」
となるとその正体はプレイヤー?
なんかこう、すごい秘密の特訓してる人がいるとか? 人に見られたくなくて、なるべく姿を隠してるとか。
「…………」
そうだねぇ、分っかんないねぇ。
「……なんにせよ、今日はプロミナさんがいないから移動には難儀しそうねぇ」
そうそう、イカちゃん今夜はご両親との会食があるとかでイデアに来れないらしい。わりといいとこの娘さんだからねぇ。労働なしでも生きていけるくらいには。
「ふふ♡ たまにはワタシにだって、二人っきりのお鉢が回って来てもい──」
ガーベラの言葉はそこで途切れた。
同時、私の思考も即座に切り替わる。
背後に気配。
地の底から湧いてでてくるかのように。
幾度となく戦ってきたせいか、現れれば即座にそれと分かるあいつらの──『汚濁』の黒濁りが、一、二、三……四つッ!!
「──いと、思ってんだけども。ねぇ?」
振り向きざま、まずは太く束ねた触手鞭を横薙ぎに一振り。ガーベラの声と黒霞を乗せて大きく牽制しつつ、私はその遠心力を利用して敵影に突っ込んだ。少しの横カーブ軌道を取りながら一気に加速し、四体のうちの一つ──鞭を避けそこねたノロマに追撃ィッ!!
「ク、ッッッソ……! なんでそっちが先制できんだヨ……!!」
濁った女の声で悪態をつくそいつを触手で叩きまくる。泥モヤの波立つ体表からして、侵度だか強度だかが高いのは見て取れるけど……
「そっちが場慣れしていないだけじゃないかしら〜??」
「なに言ってっか分かンねんだよ亡霊ェ!!」
「素質もなし、と……でも、泥には適応しているみたいねぇ」
ガーベラの煽りを理解することすらできないそいつは、身を守るように両腕をかざし触手打撃を耐えようとしている。少しシルエットの崩れた、けれども間違いなく翼だと分かる両腕で。
……とりあえず切り落としとくか。二重『月光──
「ルミナ。上、上」
っととありがとガーベラっ、ギリギリ射角調整間に合ったァ!
飛んで逃げていたほかの三体──いや三人か? そいつらが逃げ遅れのノロマを助けるべく放ってきた、爆撃めいた『汚濁玉』。それを二重『月光波』で相殺する。
「……なにやってんの。アホなの?」
「うるセぇ!!」
その隙に飛び上がって逃げたノロマはそのまま空中でほか三人と合流、と同時に味方に鼻で笑われていた。仲良いなお前ら。
「──ハーピー、ハーピー、ハゲワシにフクロウ……ドンピシャねぇ」
こちらを睨みつけてくる襲撃者どもは、だれもが有翼種かつ『汚濁』をまとっている。ガーベラが目で指し数えるその頭数も特徴も、聞き覚えのあるもの。
「全然なに言ってるか分かんない」
「あのムカつく天使がいねぇと会話もできねぇんだな、こいつラ」
醜く言い争っていたフクロウの女とノロ……ぇあー、ハーピーの女が、その矛先をこちらへ向けてきた。男二人のほうは積極的に喋りはしないけども、こちらを馬鹿にするような眼差しは同様。
……うーむ。さすがにあの高度の相手に、正面から不意打ちは無理だな。
ってわけでステ覗いちゃいまーす。オラァ『月導』!
[『原母の梢』尖兵 ハルハルム 汚濁共生体 強度Ⅳ]
へぇー、ふぅーん、ほぉー。
まず真っ先に見たのは女ハーピー。このゲーム、相手の基本情報さえ覗ければNPCかプレイヤーかはレイアウトで見分けられるけど……うん、こりゃ間違いなくプレイヤーだ。名前はー、正直私は覚えてはいないけどもおそらく、いやもう100パー……
「──かつて『ナーナ』に迷惑をかけたチキン野郎共ね」
そうそう、そいつら。
プロミナさんがいないのが悔やまれる。
いたらきっと、めちゃくちゃに煽り散らかしてただろうに。




