山を越えて 2
「なんつーかアレっすね。PVで多少知ってはいたけど……町っすね」
「そりゃそうだろ」
「いや、あんま隠れ里っぽさはないなーと」
「あくまでも“円形山岳によって外界から切り離されている”という意味なのだろう」
プ鱗隊長が引き連れてきた数人のプレイヤーさんたちが、あちこちに視線を飛ばしながら町中を歩いている。ほとんどが男性で、紅一点である軽鎧のお姉さんは最初に触手像を見て以降はずっとビクビクしている様子。
「しかし、やっぱ建物はほぼほぼ木造だな」
「……木造を基本とした建築様式、派手さや先進性はないが町としての機能は不足なく十全……コミュニティとして安定しているのだろう」
「今んとこ見かけた素材系アイテムも全部『ノクトの森』の〜ってついてましたし、マジで森との繋がりが強いんっすね」
「特異な一点ものというわけではないが、どれも品質は高いな。木材類は木目の風合いも良い。インテリアの素材として好ましいかもしれん」
「っすねぇ。あとでちょっと買っときますわ」
とかなんとか。
『ナーナ』が褒められていると、なんだか私も嬉しくなってしまう。
一応、ネネカさんプロミナさん経由で“近々『来訪者』がくるかも”って情報は町中に広まっていたから、町民のみなさんも、隊長たちを見かけてもことさら騒ぐような真似はしない。
そも、邪魔になるほどの大所帯というわけでもなく、喋り歩いてはいるけど喧しくはなく、ちゃんと町が起きている時間帯に来てくれて……そしてなにより、私こと月の触手と共に戦った人たちということで。街行くみんなもさほど警戒はしていない様子。
時折、一行のだれかが露店や店先を覗いては「おお、『来訪者』さんかい?」「っす」「よくまあ山を越えてきた。大したもんだ」「あざっす、っぱおれらが一番乗りっすか?」「歩きでならね」みたいなゆるく当たり障りのないやりとりをするくらいには、穏やかな雰囲気だ。
「しかしあれだ、おたくら、この前銀色様と一緒に戦ったって話じゃないか」
「っすね。いや一緒にってか、おれらは下でわちゃわちゃやってただけっすけど」
「いやいや、銀色様と志を共にした。それだけで素晴らしいことだ」
「っすか。あざっす」
……まあ今のところ、どんな入りからでも確定でこのやりとりに収束してるんだけども。軽鎧のお姉さんが「ヒィィ……みんな触手の話してくるぅ……」ってずっと怯えている。
ぇあー、はい。ではなぜ私が、そんなプ鱗隊長たちの様子を事細かに把握しているのかというとですね。
「──ふふ、夜闇に紛れる銀糸が一筋……♡」
はいそう、後をつけているからなんですねー、ええ、ええはい。
建物の屋根から屋根へと渡り、一行に気取られないようその様子を観察する……というのをさっきからずっと続けている。ガーベラと一緒に。
いや普通にこんちゃっすーって顔見せてもいいんですけどね。なんかこう、ノリでつい。いや、いやいやいや、ほらあれ、『ナーナ』とプレイヤーとの自然な関わりを尊重したといいますか? 町の自主性を重んじているといいますか?
「本当に自主性を重んじているなら、わざわざこんなことしないと思うわよ〜♡」
思考を読んで正論パンチしてくるの、ズルでは?
「まあまあ♡」
あまあま。
「んふふ♡♡」
なんてやり取りも交えつつ、プ鱗隊長御一行を追い続ける。彼らの足はゆっくりと、けれども確実に、『結わえ草』のほうへと向かっていた。
◆ ◆ ◆
「──いらっしゃいませ。そしてようこそ、銀色様と縁在りし方々」
「ヒィィィッ! 狂気的仮面淑女ッ……!!」
司教様大降臨。
……仮面、そんなにヤバいかな? 私はけっこうイケてると思うのだが……
「よく来たわね、ルミナちゃんの町へっ!」
プロミナさんや、べつに私の町ではないよ。森は……肩書き的には私の森かもしれないけども。
「天使もいるゥ……!!」
「そりゃいるだろ」
「すんませんうちのが失礼を……いやしかし、その、個性的な仮面っすね……」
「月の満ち欠けと渦巻く触手を重ね合わせた紋様です。この町に降りた美しき月光を讃えるべく」
「あー……店主のネネカ氏……で、間違いないだろうか?」
「はい。そして同時に『月光讃華』司教、ネネカでもあります。よろしくお願いしますね?」
てわけで『結わえ草』を訪れたプ鱗隊長御一行を出迎えたのは、ローブに仮面で司教モードなネネカさん。と、なぜかドヤ顔のプロミナさん。と、二人のわきに控えるラナちゃんフロウさん。と、先回りしてなに食わぬ顔で(顔ないけど)店内にいた私とガーベラ。
「『月光……」
「……讃華』?」
「『ナーナ』の救世主にして『ノクト』の主たる月の触手、銀色様に敬意を表する者たちの集い……と思っていただければ」
「「「お、おぉ……」」」
ネネカさん的にはこれが一張羅というか、初手で自分と町のスタンスを明らかにしておいたほうがいいだろうという判断らしい。その結果、部下っぽい男性陣はちょっと引いてるし、軽鎧のお姉さんは顔を青くしている。
「不躾な質問ですまないが……その『月光讃華』は、この町では主流な、あー……団体なのだろうか?」
「全員です」
「?」
「今現在この町内において、自己決定能力を持つ全ての者が、なんらかの形で『月光讃華』に関わっています」
「「「「…………」」」」
マジかよとでも言いたげな顔で私を見る、プ鱗隊長以外の面々。
いやあの、ちがくて。
最初のうちはねぇ、とくに熱心な方々だけで構成されてたはずなんですよ。なんか気付いたら誇張抜きで町ぐるみになっててビビったよね。もちろん、町の自衛機構としての側面もあるわけだから、それに足る能力をもった人たちが主要メンバーってことにはなってるんだけども。
「ちなみにこれが、わたしたちの信心を束ねるシンボルです」
仮面を被ったネネカさんは、こう……スイッチがパチっと切り替わったみたいに見事な司教様になる。しかも最近はガーベラの影響か、言い回しもほんのり厨二めいてきているような。今だってローブの背に刺繍された『月光讃華』のシンボル、月を模したまんまるから月光でも触手でもあるウェーブがいくつも降り注いでいるマークを、静かながらもどこか得意げに見せつけていた。かわいい。
プロミナさんからちょい地味判定を受けていた『月光讃華』ローブも今では、背中にシンボル&触手を模した細い銀糸の刺繍でいかにもな感じに劇的ビフォーアフターだ。
「…………しょ、触手カルトの隠れ里……」
いよいよ泡でも吹きそうな顔色で、お姉さんが呟いた。
ぇあー、そのぉー、あんまり強く否定できないです。
シンボルとか仮面のデザインはイケてると思うんですけどもね。
ちなみにこのシンボル、私は逆さ温泉マークって呼んでます。




