もっとにぎやか『結わえ草』
「──改めまして、ルミナの友達のガーベラといいます〜。よろしくね〜」
[ヴェグレラの左腕]撃破の翌夜。
私、ガーベラ、ネネカさん、プロミナさんの四人で再びの顔合わせ。
場所は『結わえ草』のバックヤードというか、休憩用のスペースにて。従業員が増えたってことで最近設置された四人がけのテーブルを囲んでおります。まあちゃんと座ってるのはネネカさんとプロミナさんだけで、ガーベラはイスの上でふわふわ浮いてるようなもんだし、私も座ってるというか登ってるというか、うん、にょろにょろ。
一応、顔見せ自体は昨日もしたんだけども、ほんとにちょっとだけだったからね。今日は時間もたっぷり取りまして、あらためて親睦を深めましょうぞと、そんな感じだ。
店番は信心……まちがえた新人店員さんズこと、ラナちゃんフロウさんにお願いしています。
「こちらこそ、あらためてよろしくお願いします。ネネカといいます……えっと、わたしのことはご存知、なんですよね?」
「ええ。『ナーナ』の町、『結わえ草』の店主さん。同時に、月の触手信仰団体『月光讃華』の司教でもある。ルミナから色々聞いてますから〜」
「それは、その、嬉しいような。少し恥ずかしいような……」
「ふふ、最近のルミナはもうネネカさんのことばっかりで〜」
「そ、そうですか……えへへ……」
対面して座るネネカさんとガーベラは、どちらもゆるりとした雰囲気なのもあってか、最初から穏やか〜なやり取りだ。癒やし成分がすごい。
もっとも、ガーベラに向けられるネネカさんの視線は微妙に焦点があっていない。声はほぼほぼ聞こえているようだけど、やはり姿は正確には見えていない様子。ガーベラの“注視されない”という特性は、私への『執心』が発動している今も変わらないようだ。
「──勿論、プロミナさんのことも、ね?」
はい、そうしましたらば次はネネカさんの左隣、私の正面に座るプロミナさんでございますが。
水を向けられた彼女はいつも以上に鋭い目つきで、いつも以上に威圧感たっぷりに腕を組んでいる。ま、ネネカさんと同じく視線がちょっとズレてるもんだから、微妙にカッコついてないんだけど。そういうところもかわいいね。
「はっ。あたしもあんたのことは知ってるわよ。ノソラちゃんの親友を自称するヤバい女」
おぉー、やっぱり敵愾心マシマシだ。でも親友ってのは自称じゃなくて事実だよ?
一応、あんまりにもあんまりな態度だったら私から“めっ”ってするつもりだけど……ガーベラは上機嫌に微笑んだままなので、まあ、大丈夫でしょう。
ていうかこの二人もぜんぜん仲良くできると思ってるんですけどね私はね。甘愛からのイカちゃんの評価ってけっこう高めっぽいし。
「自称じゃなくて事実よ〜?」
「どうだか」
「……あの、お二人は向こうの……『来訪者』さんの世界では面識がないんです……よね?」
初手から遠慮のない二人のやりとりに、ネネカさんは少し苦笑い。
「ええ。ワタシはルミナの友人、プロミナさんはルミナの……お客さん? みたいなものかしら〜」
「ぐ、くっ……!」
ガーベラ自身は煽るつもりもない、でも煽りに聞こえるだろうことはちゃんと理解したうえで放たれた言葉が、まあキレイにプロミナさんに効いている。
「……そも、交友関係を制限するようなやつが真っ当な友人だとは思えないけど?」
「“ふるい”は必要でしょう? 相応しくない者を近づける意味はないもの」
「独占欲ヤバ女の言い訳にしか聞こえないわね」
「べつに、誰彼構わず弾いてるわけじゃないのよ〜? 事実、アナタやネネカさんは“理解ってる”側だと判断したから」
「「……“理解ってる”?」」
「ええ、ルミナのことを」
ふむ、ではここでイケてる触手のポーズなど。いやちょっと手持ち無沙汰だったもんで。
そしたらいい感じに一拍あいて、プロミナさんがぐっと拳を握りしめた。
「そりゃ当然でしょうが、あたしはルミナちゃんの初めての女なんだからっ」
言いかた言いかた。
いや事実だけども。でもアレなんだよな、初めての友達って意味では甘愛も初めての女だし……あとその、へへ、初めてときめきを覚えた相手って意味ではネネカさんも、うん、初めての女性なんだよな、でへへ……
「わたしもルミナさんとは、その……もう、ただの友達という間柄ではない、と、思ってはいますけど……」
ネネカさんのほうもてれてれと小さくはにかみながら、嬉しいことを言ってくれる……ってああ、プロミナさんが今度はネネカさんにもぐぬぬっておられる。
んで二人を見やるガーベラは、やっぱり楽しそうに薄く笑んだまま。そのままゆっくりとした所作で、右手の人差し指を立ててみせた。たぶんそれ私にしか見えてないよ。
「は〜いじゃあここでアンケートっ、ルミナの人としての肉体はどんな姿をしていると思いますか〜?」
「はぁっ?」
「“人としての”とはつまり、そちらの世界での……ということ、でしょうか?」
「ええそう。ルミナだって一応、こっちでは人間ってことになっているから」
一応て。私こと宇野 明里は普通に一般成人女性なのですが。
てかなにその急なアンケート。
「……ノソラちゃんじゃなくて、その中の……ってことね」
「どんな、どんな姿……」
しかし変な話題と思ったのは私だけのようで、プロミナさんもネネカさんも思いのほか真面目な顔で思案し始めた。え、なんかちょっと照れるというか、むず痒いんだけど……
「──触手さんの姿に引っ張られちゃうけど、やっぱり銀色の髪をしているんじゃないかなぁって。長くて綺麗で、夜風に当たって小さくなびくような……」
「──あー、あたしもノソラちゃんのイメージが強すぎるわ。プラチナブロンド系のー、ショートからミディアムくらい?」
「──ほっそりとしていて、背丈はわたしよりも高い……ような……」
「──配信中のアバターの挙動見てる感じ、背丈とか体型はノソラちゃんボディとそんな変わらないと思うのよね」
「──きっと目つきはまん丸で……顔つきは、なんだろう……好奇心旺盛な猫さん、みたいな?」
「──丸目寄りのジト目っ。顔立ちは美人系だけど表情は可愛い系っ。絶対そうっ」
ぽんぽんぽんと小気味良く、二人のなかで私が形作られていく。
本人たちが言ってるようにルミナ、ノソラの姿にけっこう影響されていて、でもところどころ近いかも? みたいなのもあったりするのがちょっと面白い。
いややっぱり気恥ずかしさは消えないけども。マジでなにこの話題。
なんとも落ち着かずもにょもにょ居住まいを正しているあいだにも、ネネカさんとプロミナさんの口は止まらない。色白だとかイエベだとか、指の長さだとか細さだとか、当人の好みや願望まで混じってそうな宇野 明里予想図が組み上がっていって。
「それで──」
「んで──」
不意に。
「「──ぐるぐると、渦を巻く瞳」」
二人の言葉がピタリと重なり、ガーベラがにんまりと笑みを深めた。
「……って、んなわけないか」
「あら、 ないんですか?」
「あたし達の世界じゃ、天然で渦巻き模様の眼球なんてそうないと思うわよ、多分」
「そうですか……わたしはすごく自然に、そういう瞳が思い浮かんだんですけど……」
「それは、あたしもだけど。なんでかしら……? べつにノソラちゃんボディはそういうのじゃないし……」
言った当人たちが首を傾げているけども、私としてもはてなという気持ち。なんで渦巻き模様? 触手柔術に引っ張られた? としてもなんで瞳?
「ん、ふふっ。触手さんまで不思議そうにしてる」
「そりゃそうよね。ごめんルミナちゃん、変なこと言って」
いえいえ、べつに嫌ではないけども。
ってちょっとそこ、ガーベラさーん? なんでそんな楽しそうなの?
「ふふ……ほらやっぱり、二人とも“理解ってる”側。ね、ルミナ♡?」
いや、ねって言われても。
「……てかそもそも、なんであんたに理解ってるだの理解ってないだの評価されなきゃならないのよっ」
おっとここで、ガーベラのペースに乗せられてると気付いたプロミナさんが盛大なちゃぶ台返し。再び鋭く細めた目つきで睨みつけていくぅ。まあ視線は微妙に以下略。
「そりゃあ、一番最初に気付いたのはワタシだもの」
「なんなのよその意味分からん言い回しっ」
「ま、まあまあ…………その、個性的なんだね、触手さんの周りの人たちって」
きゃいきゃい噛みつくプロミナさんに、ずーっと上手く躱しているガーベラ。二人をなだめているようでいて、ちゃっかり私に微笑みかけてくるネネカさん。
ふと視線を感じて部屋の扉のほうを見てみたら、「ほ、ほんとに幽霊なんだ……」「こわ……」とか言いながらこっちを覗いてるラナちゃんフロウさんの姿が。
…………うん、仲良くやっていけそうだなっ。




