もっとにぎやか『結わえ草』 2
新章も早々に投稿が遅くなってしまって申し訳ありません……!!
「ってかまず、『執心』ってなんなのよっ!」
やいのやいのと突っかかるプロミナさんの、その言葉でガーベラの表情がまた少し変わった。楽しげなのは変わらずに。
「正直、ワタシも完全には分かっていないわねぇ」
ガーベラの大まかなステータスは、当人の口からすでに語られている。ネネカさんとプロミナさんに対してだけ。
「触手さんとガーベラさんは、外見も含めて『来訪者』さんのなかでも変わった事例ということですけど……」
ネネカさんのように魔術を扱う人もいるわけだから、当然、三大素養やらステータスやらって概念はNPCの皆さんにもある。でもやっぱりゲーム感覚の有無というか、プレイヤーほど露骨に「ステが〜」「数値が〜」みたいな話をする人は少なめ。
なものでネネカさんもその辺り特別なにか知ってるってわけではなくて、私たちと一緒に首を傾げている。かわいい。
「大方、あんたのルミナちゃんへのヤバ執着が顕在化したってことなんでしょうけど……なんでそれが固有ステになってんのよっ……あたしだってルミナちゃんとお揃いのやつ欲しかった……っ!」
お揃い、と言っていいかは分からないけども……たしかに『執心』からは、私の『月光』と似たような気配は感じる。説明する気ない説明文とかから。
プロミナさんの『陽焔魔術』はねぇ、あくまで“太陽を模した魔術群”だからねぇ。いやカッコいいし、魔術のバリエーションも豊富なのは間違いないけども。人型アバター系プレイヤーの中ではかなり高水準。
「擬似天使っていうのも、変わり種だとは思うけどもね〜」
そうそう。でも、人型の域を脱してはいない。
正直イカちゃんも十分個性的というか、なんなら私よりもハジケてる側の人間だと思ってたから、そういう意味では不思議っちゃあ不思議だ。私とガーベラ、プロミナさんとでなにが違うというのか。
……なんて私の思考を読み取ってか、ガーベラの言葉は続く。
「一応、ワタシなりにアバター……つまり“魂の姿”とやらについて、考えてみたりはしたんだけども……」
「……む」
するとプロミナさんがちょっとクールダウン。まあこの話題に興味ないイデアプレイヤーなんていないでしょうからね。ものの見事にガーベラにコントロールされておられる……
「恐らくは、最初の個別アンケートでどれだけ“人としての体への執着を捨てきれるか”なのかな〜、なんて」
「……そんな簡単な話なわけ?」
「言うほど簡単じゃないわよ〜。多分ね」
ネネカさんと私はひとまず傾聴。
あ、ラナちゃんフロウさんは店番に戻ってます。
少し静かになった空間で、ガーベラは一瞬だけ間を取ってから、いかにも意味深な表情を浮かべた。だからそれ私にしか見えてないって。
「──獣人系をはじめとして、純粋な人間じゃないアバター自体はさほど珍しくもないでしょう?」
「まあ、それはそうね」
「……そういえば前に、ハーピーの『来訪者』さんが『ナーナ』に来たこともありましたね」
あったなぁそんなことも。夜の町で昼間にどんちゃか騒いで、プロミナさんに焼き鳥にされたやつら。私は直接見てすらいないけど。
「ルミナに直接挑む気概すらなかったチキン野郎どもはさておき……彼ら彼女らは皆一様に、実体を伴った人型の体がベースになっているのは間違いないわ。異種としての要素は、アバターを構成する比率で見れば比較的少ない」
ぇあー……まあたしかに。プ鱗隊長なんかもこう、レプティリアンというには人間に近すぎる感じはした……気もする。やべ、あんまりよく覚えてない。
しかしそう考えるとハーピー系の人たちなんかはむしろ、人間から遠ざかってるほうではあるのか? 腕が翼に、脚も鳥獣のそれなわけだし。そりゃ思想も尖りますわな……ごめん今のナシ。これだと異形アバターの私が超絶思想尖りウーマンってことになっちゃうので。私は趣味で配信やってるだけの一般成人女性ゆえ。
「……んふ♡」
「え、なに急にこわ……」
あ、ガーベラのやつ私の思考読んで笑ったな?
これも実際どこまで読み取れてるのか、一応あとで確認しておくか。べつに甘愛に読まれて困ることなんてないけども。
「失礼、ルミナがちょっとね♡」
「ぐ、クッ……!」
「兎に角ワタシが言いたいのは、魂の姿それ自体には、異種異形の片鱗を宿した者たちは存外多いかもしれないということ。まあ、流石にルミナレベルの存在は稀でしょうけれど、ね?」
おぁ、なんか三人してうんうん頷いとる。そんなに珍しいかなぁ……いや珍しいんだろうなぁ……少なくともイデアの現状を鑑みる限りは……
「さておき、けれども実際のところ、ワタシたちは現実世界で人間として生きている。それが普通だと意識に染み付いてしまっている。だから人間の体を捨てることを、なによりもワタシ達自身が恐れてしまっている」
お、これはあれだ、『仮想体実験』とかにも通ずる話な気がする。人間は人型から大きく逸脱したアバターを操作するのが難しいってやつ。あれあんまりピンときてないけどね個人的には。
っとと、ネネカさんが口を開こうとしている、傾聴傾聴。
「……本質を曝け出しきれない、ということでしょうか?」
「まさしく。曰く、『来訪者』が取る姿はその者の本質、本性、欲望あるいは渇望……それらが凝固したもの。でもワタシ達は、人間の体に慣れ過ぎている。容れ物の形のほうに、本質が追従してしまっている」
「……言うほど簡単じゃないってのは、そういう意味ね」
「ええ。ワタシだって頑張ってはみたけれど、どうもこれが限界みたいだわ」
「わたしにはガーベラさんも、人の形からは外れているように見えます、よ?」
ガーベラの語り口からしてそれが褒め言葉になると理解したうえで、ネネカさんが言う。
私以外からすれば黒霞そのもの、うっすらと人っぽいシルエットかも? くらいの墓無き霊嬢さんは、たしかに傍目には異形のそれだろう。
「ありがとうございます〜、でもやっぱり、人間っぽさが残ってるのよねぇ」
微笑みつつ肩をすくめつつ、ガーベラはまた話を戻す。
「まあつまり……逆に言えば、人の肉体に欠片の執着も未練もなく、魂の姿を全く臆せず曝け出せるのであれば──」
そして、またしても演出過多に一拍置いて、私のほうをちらりと見ながら。
「──その極致として、形姿は瑕疵なく本質を露わにし、宿る力は三大素養──つまり人間としての領分を逸脱する」
「「…………」」
ネネカさんも、プロミナさんも。
ガーベラの語り口に呑まれてか、揃って私に視線を向けていた。
「──なぁんて。最初に言った通り、あくまでワタシの勝手な予想に過ぎないんだけどね〜」
そして一瞬で、声音がおどけたそれに変わった。プロミナさんは座ったまま器用にずっこけている。
「……なんっなのよあんたはさっきからっ」
「ふふ。話の理解る同志は中々いないものだから、ついねぇ」
弛緩した空気のなかで、突っかかるプロミナさんにいなすガーベラという……つまりさっきも見たような光景が再演される。ネネカさんも慣れてきたのか、苦笑いではなく微笑を浮かべていた。
うん、仲良くなれそうという私の見立てはやはり正しかったながはは。
……甘愛はたしか、イデアを遊ぶにあたって出自をコントロールできないか試行錯誤してたって言ってた。だからゲームを始めるのが遅くなったのだと。もちろん、一個人で調べたり予想したりってのは限界があるだろうけど……私は彼女の、直感と知性のどちらも信用している。
いちゲームの話とは思えないほどに真に迫った先の言葉は、すとんと綺麗に、私のなかに入りこんでいた。
……いや、でもあれか?
この説を支持するってことはつまり、私が内に秘めたる(らしい)触手の化け物性を嬉々として曝け出す変人ってことになっちゃうか?
「……んふ♡」
ええい笑うな。




