私も甘愛も
「──はーい、はいはいどうもぉー、今日も今日とて明 ノソラですよー。いつもお世話になっております〜」
〈今日も今日とて〉
〈今日日〉
〈もとて〜〉
〈ょもょ〉
〈キショい略し方選手権やめてね〉
〈今日も今日とてノソラちゃんは神様だよ〉
〈キショいイカロス選手権やめてね〉
〈単独優勝が過ぎる〉
ガーベラとの合流から一日。
明 ノソラとしての午後配信のお時間です。
「今日はほんとなら『ウミウシ☆ラプソディー』の続きをやる予定だったんですがー……ぇあー、そのぉー、昨夜のイデアでの……封印城でのあれこれがちょっと話題になっちゃってる? みたいなので、少し説明しておこうと思います」
〈まあそうね〉
〈次のエピソード気になってたんっすけどねぇ〉
〈この際説明はほどほどでいいから早く続きやって欲しい〉
〈とはいえまあしょうがないか〉
〈けっこうな騒ぎになってるからなぁ〉
〈(普通に封印城のほうが気になってる俺がおかしいのか……?)〉
急な予定変更もいつものリスナーさんたちは許してくれる。
……一応、ノソラ=ルミナだとバレて以降も、正直そんなに積極的にルミナとしての話はしてこなかった。だってここ明 ノソラチャンネルだし。たださすがに、今回のことに関しては多少なり触れておいたほうがいいんじゃないかなぁと思いましてね。昨日イデアを終えてからすぐに告知だけはしておいたわけですけれども。
そのおかげというべきか、現在の視聴者数は天使騒動のときと同じ規模にまで膨れ上がっている。例によってコメント制限はオン。そろそろ緩めてもいいかなぁ〜って思ってた矢先にこれですよ。
なお朝活配信はいつも通りにやったら「こいつ無敵か?」みたいなこと言われた。無敵なのは私ではなくイカちゃんである。
「じゃあ最初に、SNSとかで議論されてるっぽい、ボスとの野外戦闘について」
さておきさっそく、東の封印城に関しまして。
これが封印城の新しい攻略ルートとして話題になってるってのが、今回配信で話すことに決めた理由……の一つ。
私としてはべつに攻略情報まで秘匿するつもりもないというか、「情報隠してんじゃねー!!」なんて誹りを(実際に言われたわけじゃないけど)受けるのもイヤというか。
ってわけで知ってることは全然話しちゃいます。その“知ってること”がそう多くもないのがアレだけども。
〈あれやっぱノソラがなんかしたん?〉
「まぁー……そうなりますねぇ。いや私としても予想外の展開だったのは間違いないけども」
〈ほんとにぃー??〉
「ほんとじゃい。アレは城そのものに対して『暴く月導』を使った結果というか……あ、『月導』の説明って一応したほうがいい? もうみんな知ってる?」
〈配信見に来るほどのやつらは把握してそうだが〉
〈PVなり天使騒動なりでステ自体は公開してるしな〉
〈あれってつまり看破魔術の『月光』版って認識でええんか?〉
〈?? 城に対して看破魔術使ったってこと?〉
「そーねぇ、大枠はその認識でも間違いじゃない……と思う」
いくつものはてなコメントが私のまわりをふよふよと漂っていて、ちょっとかわいい。それらを指でつついたりしながら話を続ける。
「んでー、『月導』って対象がプレイヤーとかモンスターとか決まってなくて、暴くのもステータスに限定されてない……んだと思う。ただ“秘されたものを暴く”としか書いてないから。だから封印城のギミック、それか地下に秘されていた[ヴェグレラの左腕]を暴いたのかなぁーって……思う」
〈あの……ノソラさんって語尾が“思う”なんでしょうか……?〉
〈そうかもしれないと思う〉
〈語尾でキャラ付けとか安直だと思う〉
〈だっせぇ語尾だと思う〉
〈お〜もおもおもおもっ! すべての物事に対して断定は避けていきたいと思うおもねぇ〜〜っっ!!〉
「違うからねご新規さんっチャンネル登録ありがとうございます! いやあのっ、『月光』まわりについては私自身もよく分かってなくて、あんまりはっきりは言えないっていうかぁっ」
隙を晒すとすぐおちょくってくる常連どもを視線で制する。ご新規さんまでこんな煽り野郎どもになっちゃダメだからねっ?
「と、とにかくっ。ようは効果範囲の広い看破系の技でなら、同じことが再現できるんじゃないかなぁーってのが、私(と甘愛)の見解です。はい」
これも正規ルートの一つであるというのなら、完全に一個人の能力に依存した攻略法ではないはずだ。
甘愛調べでは、いまのところ看破魔術のほとんどはステータスを覗き見るための性能をしているらしいけど……今回の一件で、それ以外を暴くことにも価値が生まれてくるかもしれない。
〈はぇ〜〉
〈完全な『月光』由来とかでなければ再現はできる……か?〉
〈っても出力の問題とかあるだろ〉
〈まあ今日明日すぐに再現、ってのは無理だろな〉
〈西の大陸、『レギオン』の者です。情報の公開感謝いたします〉
おや、不意にチャンネル登録者さんが一人増えたかと思えば、すぐにもその人からのコメントが。
「『レギオン』──ぇあー、西の一番でっかいクランさんっ。いえいえーこちらこそチャンネル登録ありがとうございます〜」
〈ようこそ、あたしのノソラちゃんチャンネルへ〉
〈まあゆっくりしていけよ〉
〈ゆっくりノソラよ 〉
〈 ゆっくりルミナだぜ〉
〈同一人物じゃねーか〉
〈やっぱ西的には外で戦いたいか〉
『レギオン』の人はそれ以降コメントはしなかったけど、どうやらチャンネルは登録したままでいてくれる様子。ありがたいねぇ。
〈てかそもそも、なんで城に『月導』使おうなんて思ったんだ……?〉
──っと、次いでそんなコメントが目につく。甘愛いわく、想定しておくべき当然の疑問。なれば応えてしんぜよう。
「なんで城にっていうと、それは“亡霊”を城から連れ出したかったからです」
〈??〉
〈それこそなんで?〉
〈たしかに後半から亡霊纏って戦ってたけど〉
〈なんでそういう事ができると知っていたのか〉
〈てっきりルミナは『汚濁』全殺しウーマンとばかり〉
「──そうそこっ!! マジでこればっかりはみんな目ぇ節穴なんじゃないのって思ってんだけどさ! “亡霊”はっ!! 『汚濁』じゃっ!! ないからッ!!!」
〈ヒィッ……!〉
〈うわっ〉
〈声でっか〉
〈うわぁ急に叫ぶなっ〉
そうこれこそが今日この配信をした二つめの、そして最大の理由。
ガーベラは『汚濁』だなどという意味の分からない誤解を払拭するためッッ。いや前からちょっとモヤってはいましたけれどね、昨夜なんか誰も彼もあまりに『汚濁』だ『汚濁』だ言うもんだから、ついに我慢ができなくなってしまった。甘愛から許可は取りまして、今こそみんなの目を覚まさせてやりますよッ!
「あのね?? 『汚濁』ってのはその名の通りなんか汚くて濁ってるやつらなわけ。 気体っぽくも液体っぽくもあって、でもどんな状態でもやっぱり濁りが目立つ泥モヤ。見りゃ分かるっしょ???」
〈なんかキレ気味で草〉
〈なにがそんな逆鱗に触れたんだよ〉
「対して“亡霊”っ、その姿は揺蕩う霞、雅な薄雲、純黒の艶姿、美人お姉さん、私と彼女で朧月ッッ!!! 」
〈なんて??〉
〈ちょっとなに言ってるか分からないですね〉
〈感情の振り幅が激しすぎる〉
〈あれがお姉さんに見えてるってマジ?〉
〈一応、女性っぽく見えるって人もおり〉
〈女性の声が聞こえるという人もおり〉
「あーそれねぇー、なんか人によって見え具合とか聞こえ具合がちがうっぽい? んだけど、まったくかわいそうな話だよねェーっ彼女の姿がちゃんと見えないなんてさァーーッ!!」
〈なんやねんその顔腹立つわぁ〉
〈鼻につくドヤ顔〉
〈謎マウンティングやめてね?〉
どうもSNSとか、あと昨夜すこしだけ顔合わせしたネネカさんプロミナさんの反応を見る限り、今のところ姿が完全に見えているのは私だけのようだった。羨ましかろう。声については、ネネカさんプロミナさんは会話できる程度には聞こえてるっぽい。
〈いやもう姿形はなんでもいいんだけど、結局『汚濁』じゃなかったらなんなんだよ?〉
ええはい、はいはい。
こんなことを熱弁をする以上、その問いにも答えねばなりませぬな。
「なんかだーれも気付かなかったみたいだけど、彼女はプレイヤーです」
途端、驚きと困惑のコメントがぐるぐると宙をまわりだす。
〈えぇ……〉
〈ほんまかぁ〜?〉
〈適当こいてない?〉
〈“亡霊”ってステ見えなかったよな?〉
〈看破通らなかったんですけど?〉
「それは彼女がそういう特徴を持ってるからです。私の『月導』はそれを突破できるんです。そう“““私だけが”””ねェッ!!!」
〈クソムカつく表情〉
〈“私だけが”の主張が強すぎる〉
〈さっき“城攻略は私じゃなくても再現できますよ〜”みたいなこと言ってた口とは思えない口角の曲がり方〉
〈そんなに“亡霊”が好きになったのか、月の触手〉
中身が甘愛、親友ちゃんであることまでは告げない。
情報を追っているうちに“亡霊”が気になって東の封印城を訪れた、というふうに説明する。
〈じゃあなんすか? 東の封印城はナンパのついでに木っ端微塵にされたってことすか?〉
〈瓦礫と化した封印城に悲しき過去〉
〈……いやしかしどう見てもアレはモンスター側……ああ、ルミナもそうだったわ〉
〈そう言われれば〉
〈なんだろう、急にすっと飲み込めた〉
〈触手の化け物よりはまだ“亡霊”のほうが人間に近いか〉
〈いやでも触手にナンパされてついてくって相当の奇人だぞ〉
〈俺ならダッシュで逃げるね〉
〈こうしてまた一つ、変な出自の例が生まれたのであった……〉
「その納得の仕方はなんかちょっと引っかかるけど……まあとにかくそういうわけなので! 彼女──ガーベラは私の仲間になったので!! 誹謗中傷やめてね!!!!」
〈『汚濁』呼ばわりは誹謗中傷にあたるのか〉
〈ま、まあ汚くて濁ってる扱いはたしかに失礼か……〉
〈配慮が足らずすまなかった。以後気をつけよう〉
〈プ鱗隊長なにしてんすかこんなとこで〉
〈こ ん な と こ〉
「あ、プ鱗隊長もチャンネル登録ありがとうございますー。たぶん、昨日一緒に戦ってくれた人たち? も何人か登録してくれたみたいで、いやぁ〜ありがとうございます〜」
そうそうありがたいことに、昨日の夜から今日にかけてチャンネル登録者さんがまた少し増えてたのだ。一緒に戦ったその人たちへの説明責任といいますか、共闘した仲として情の一つや二つも湧こうといいますか。というのも一応、今日の配信の理由だったりしまして。
〈“亡霊”といい、好き好んで触手の化け物に近づくとは奇特な連中だな〉
〈まったくだ〉
〈鏡って知ってます? 自分の顔とか見れる道具なんですけど〉
〈いや俺らは明 ノソラのリスナーってだけだし〉
〈などと申しており〉
〈ノソラちゃんは太陽にして月、天上に座す神様だから。人間どもが威光に引き寄せられるのも仕方がない〉
〈無敵の信者は黙っててね〜〉
〈なんかこの天使、普通に化け物としての推しにも適応してるよな……〉
〈待ってイカミナってルミナが新しい女引っかけるのを手伝うために城までついていったってこと?〉
〈都合の良い女にもほどがあるだろ〉
〈でも幸せならオッケーっす〉
「ゔっ……イカちゃんの厚意を利用したのは否定できない……ので、あとで個人的にお礼をしたいなと思っています」
〈み゜ゃ〉
〈いやそれ配信で言っちゃうのも大概どうかと思いますけどもね〉
〈ちゃんと餌をやる飼い主の鑑〉
〈そうしないと都合良く使えないからな〉
〈やっぱこの触手カスなのでは?〉
〈女を弄ぶカスの化け物ですわ〜〉
〈まあある意味触手らしいっちゃらしい〉
「あれ、おかしいな……なんで私がボコボコに殴られる流れに……??」
封印城の話をしていたはずなのに、気付けばカス呼ばわりされバチボコに殴られていた。
理解できずに首を傾げたまさにその瞬間、多機能端末に甘愛からのメッセージが届く。配信中に送ってくるなんて珍しい(ぜんぜんダメではない)なんて思いつつ、ぱっと開いてちらっと覗いてみたらば。
〈甘愛:配信、どんどん賑やかになっていくわね♡ 見ていてワタシも楽しい♡〉
「……んふ」
子供のころの甘愛との出会いに劇的ななにかなんてなくて、なんとなーく馬が合って今日まで一緒に来たわけだけども。それでも一つ、よく覚えていることがある。
小学一年生の最初の日、隣の席に座る澄まし顔のかわいこちゃんが、すんごいつまんなそうな目をしていた。
こっちから話しかけて、やがて目が合ったその瞬間に、私のなにを気に入ったのかその瞳は一気に色づいた。
そのときに湧いてきた、この子が楽しそうにしていればきっと私も楽しいだろうなという気持ちは、ずっと忘れていない。
だから。
「──まぁー、いいや。はいっ封印城関連の話は終わりっ、もう喋れることありませーんっ」
〈露骨に話を畳むな〉
〈不利と見て即座に退く戦略眼〉
「ってわけでここからは当初の予定通り『ウミウシ☆ラプソディー』の続きやってきますよー。今日はアレね、アオミノウミウシ×カツオノエボシ編ね」
〈よっ待ってました〉
〈ほなここからはいつも通りの明 ノソラチャンネルということで〉
〈え、うみ……? ウミウシのなに……?〉
「ご新規のみなさん向けに説明させていただきますとー、これはウミウシとその被食者との関係を描いた恋愛ゲーでして……あっ、だいじょぶだいじょぶっ続きっていってもちょうど今日から新しいカプの話始まるからっ! 全然こっからでも楽しめるからっ!」
〈必死で草〉
〈ご新規さんに逃げられないように縋りつく配信者の図〉
〈(逃げられたくないならこんな変なゲームやらなきゃいいのに……)〉
「はぁーっ? ウミ☆ラプは神ゲーなんですけどォッ??」
〈そうだそうだ〉
〈ウミラプはノソラが見つけてきた中では珍しく当たりだぞ〉
〈変なゲームってのはスネイルシミュレーターみたいなのを言うのであって〉
「スネイルシミュレーターも神ゲーだろうが!!」
リスナーさんたちとやいのやいの言い合いながら、今日もかかさず配信を見てくれている甘愛の顔を、頭の片隅に思い浮かべる……いや、片隅ではないかもしれないけど。
そんで夜には『結わえ草』で、改めてネネカさんと顔合わせしてもらって。昨日の感じだと仲良くなれそうで、それはもちろん私にとっても嬉しいことだ。
ふふふ、今日も一日、退屈しないこと間違いなし。
私も、甘愛も、ね♡
「「「「──ウミウシ☆ラプソディー!」」」」
〈無駄にフルボイスなの何回見ても笑う〉
それはそう。
というわけで三章終了、ここまででひとまず第一部のヒロインは出揃った形になります。
次章はゴールデンウィーク明けくらいにスタートできたらと思っておりまして、前回お伝えした通り週二更新を目標にやっていくつもりです。
いつも本作を楽しんでいただきありがとうございます。よろしければ次章もお付き合いいただけるとさらに嬉しいです!




