危険なヒクイドリ
朝の学校で、職員たちは会議をしている。
「今回の職員会議。議題を一つだけ変更します」
管理職の教頭が一言言う。
「最近、ヒクイドリ・ユウタ君が学校の生徒を傷つけていると」
数人の教師が首をかしげている。ユウタを知らない教師も多いからだ。
「彼は少し、警戒する必要があります。先日、ダチョウ君を病院送り、生徒会長のオウギワシさんも彼によって羽を引きちぎられ、ハシビロコウさんも背骨にヒビが入り、病院送り」
教師全員がザワザワとざわつく。
「さらに、捕獲ネットも効かない。これは、何か対策を講じる必要があります」
「対策?」
ユウタたちの担任の教師が立ち上がる。
「お言葉ですが、ヒクイドリ君は警戒するほどの人物ではありません。本当は大人しくて、優しい子なんです」
「それを証明できる職員は、あなただけです」
「ですが、オウギワシもダチョウも仲良くなってて」
「脅迫されてるんじゃないですか?」
「そんなことは」
教頭は一言言う。
「あなたの言うことは真実かもしれません。ですが、私たちは生徒の心を知っているわけではありません。最悪のことも想定するのが、我々教師です。私は、あなたを頭ごなしに否定してるわけではありません」
「…………」
教頭は少し笑って言う。
「私、たまにヒクイドリ君を見ますよ。礼儀正しくて感心します。私はあなたを信じます……ですが、彼の深いところは分からないので、警戒はしますよ」
*
ユウタはダチョウと話している。
「あれヒクイドリ。俺、何話してたっけ」
「昨日のご飯の話だよ」
「あーそうだった。昨日の夕飯はー…………なんだっけ」
「じゃあ、スポーツコースはどんな感じなの?」
「あー…………なんだっけ。ヒクイドリ、分かる?」
「僕は普通コースだからこれっぽっちも分かんないよ」
すると、サキが入ってくる。
「ダチョウ。あまりヒクイドリ君を困らせないでください。そして、クラスが違うので戻ってください。もう少しでホームルーム始まるでしょ」
「やだよー。この脳みそを利用して、チャイムを忘れたと言い訳してやる」
「ブレないアホですね」
そして、チャイムが鳴って先生が入ってくる。
「ヒクイドリ。ちょっと来れる?」
「え、あ、はい……」
ユウタは先生に連れられて、教室を出る。
「えー、ヒクイドリ、なんかしたっけ?」
ダチョウが聞く。
「あぁ、いろいろやってますからね。まず、ダチョウとのバトル、私とのバトル、ハシビロコウのバトル。私とダチョウ、ハシビロコウの負傷を含めると、色々やらかしてますよ」
*
教師に連れられるヒクイドリを見る生徒。
「ヒクイドリ……ねぇ」
そう言って、エナジードリンクを飲み干す。
「あー。夜型の俺はこれがないとやってけないな」
*
ユウタが連れてこられたのは、会議室だった。
大勢の先生が座っている。
「呼び出してごめんね。でも、私たちは確かめないと行けませんからね」
教頭が口を開けて言う。
「まず、君は問題行動が目立つ……オウギワシさん、ダチョウ君、ハシビロコウさん。この3名の負傷、原因は君だよね」
「…………はい」
ユウタは頷くしかない。
「ヒクイドリ族については、私もよく知ってる。ケンゾウさんは凄かった……あぁ、ごめんね。その特性を出すなとは言わない。でも、少し自制してほしいと言うか……一応、暴走の解除はできるんでしょ」
「……はい。辞めようと思えば辞めれます……祖父もそうでした。いつもの姿で、強さを誤認させる戦術は常套手段だと……」
ユウタは下を向く。
「でも、僕は祖父と違うんです。破壊の本能が、血みたいに全身に巡るんです。それを解毒する時間が、長いんです」
ユウタは、ヒクイドリ族の中でも異端児だった。強化だけのパワーヘッドも、3種類の強化に拡張した。暴走も、すぐに収まるわけじゃない。
「なるほど」
「歳を重ねるごとに、暴走の制御はできるようになりました」
「無理に話さなくても良いんだよ」
ユウタはバッと顔をあげる。
「これだけははっきり申し上げます。暴走状態の僕も、今の僕も全部が紛れもない“僕自身”です。もし、手に負えないなら僕を撃ち殺」
「黙りなさい‼︎」
教頭は目を見開く。周りの教師も驚いている。
「命を軽く考えるんじゃありませんよ。自分が死んで良いなんて、絶対に考えてはいけませんよ。かけがえのない、人間じゃありませんか。命じゃないですか」
「…………はい」
「それに、君には良いところもある。君の挨拶は心地がいい。曇りが無いですから」
「ありがとうございます」
「いきなり怒鳴ってすみませんね。もう、戻ってください。お友達が待ってますから……あ、ケンゾウさんのサイン、できればもらえます?」
ユウタは「ふ」っと吹き出した。
「教頭先生。おじいちゃんのファンなんですか?」
「えぇ。当時の英雄ですよ」
*
昼休みになって、2人は朝の呼び出しに触れてくれなかった。
「ねぇ、2人とも」
ダチョウとサキは同時にユウタを見る。
「どうした」
「どうしました?ヒクイドリ君」
「…………ありがとうね。僕と仲良くなってくれて」
サキは咳払いをする。
「いつか、あなたを倒すんですから」
「お前みたいなやつのツンデレは需要ないぞ」
「うるさいですね。まぁ、私みたいな柔らかい生徒会長じゃ無理ですか。氷の生徒会長じゃなくては」
「お前が氷だと、もっと怖いからやめろよ」
「わかってますよ。一言多いんですよあなたは」
*
ユウタが夕方の学校を出ると、急襲に遭った。
「痛い痛い痛い、なになになに」
「……なんだこいつ。本当にヒクイドリかよ」
起き上がると、そこにはエナジードリンクを持った、ユウタより少し背の高い男子がいた。
「誰誰、なに」
「俺はフクロウ。夜のハンターだ」
「今、夕方だけど」
「……そこはいいんだよ」
フクロウ―夜行性で、音もなく飛行する鳥。左右非対称の耳で周囲の音を立体的に聞き取る。
「お前、強いんだって?俺は自称、この学校の裏ボスってやつだ」
「へぇー」
(どうしよう。今朝、先生に注意されたばっかりなのに……)
「で、お前がいると俺のプライドが許さないってわけ。俺、お前に勝てるんだよ。どう?やってみる?」
「いや」
「あぁそう」
フクロウの飛び蹴りが、ユウタに炸裂する。
「痛い痛い」
「痛いなら戦え。俺を倒せ」
(うぅ、どうしよう。オウギワシさん、ダチョウ君。助けて)
あいにく、どちらも生徒会と部活。
(あーもう。せめて、怪我をさせない程度に)
衝撃波を出したユウタはフクロウが繰り出した足を掴むと、握りつぶして、骨にヒビを入れる。
「鬱陶しいなぁ」
フクロウの腕を掴むと、校門の壁を乗り越えさせて投げる。
ユウタも、校門の壁に立つ。
「この程度にしてあげるよ……あ、なにここ。高い……ちょ、降りれないんだけど。フクロウ君。助けてくれない?」
「あぁ、そう。俺はその程度のやつってことか」
フクロウは飛び上がると、ユウタを蹴って落とす。
「うわあ……あ、降りれた降りれた‼︎ありがとう」
「調子にのるな」
倒れたユウタに、フクロウの蹴りが炸裂する。
*
ドタドタと足音がひっきりなしに聞こえる。
「なんの騒ぎですか?」
サキは少しイライラしている。
「さぁ……見に行きますか?」
カラスが聞いてくる。
「そうですね。騒がしいのは苦手ですからね」
フクロウの猛攻を、頭を守ってひたすら耐えるユウタ。
すると、2人の間に風を起こして現れたのは……
「……オウギワシ」
「あなたですか。久しぶりに見ますね。学校に行ってるんですか?」
「行ってるよ。大体遅刻するけど」
「遅刻でも、出席の扱いになりますから。単位を落とさないようにしてくださいね」
「分かってるよ」
そう言って、音もなく飛び立つフクロウ。
「大丈夫ですかヒクイドリ君」
手を貸して立ち上がるユウタは、傷だらけだった。
「よくやられましたね」
「戦闘モードにはならないようにしました。そう言えば、オウギワシさんはフクロウ君を知ってるんですか?」
「……えぇ。ダチョウと戦った後、決闘を仕掛けられました。ダチョウより厄介でしたよ。まぁ、倒しましたけど。彼は厄介ですよ。まぁ、私は挑んでくるたびにぶちのめしてますよ。彼は夕方に勝負を仕掛けて、そこからの夜に真価を発揮します。くれぐれも、長期戦にはならないように。では、私はこれで」
そう言ってサキは歩いて学校に戻って行った。
サキは生徒会室に戻る。
「会長。なんでしたか?」
「フクロウでした」
「フクロウ……ですか」
カラスは相槌を打つ。
「なにかあるんですか?」
「あぁ、いえ。風の噂なんですが、いや、本当に噂なんです。フクロウをリーダーに、不良のような集団がいまして……うちの生徒も何人か。他校のやつは1人。たしか、ハヤブサ。それと、うちの学校のモズだそうです」
「モズさん……が?」
*
フクロウは、体育館裏に行った。
「ハヤブサ」
フクロウは、ハヤブサの肩を借りる。
「どうした」
「ヒクイドリに足やられた……なんだあいつ」
「折られたのか?」
「多分、ヒビが入った」
「ヒクイドリか。オウギワシとどっちが強い」
「絶対、ヒクイドリの方が強い。俺でも、あんなに一瞬でやられるのは無かった」
「そうか」
ハヤブサはため息をつく。
「で、離れてくれないか?俺もヒクイドリとやらが気になるんだが?」
*
カラスは続ける。
「もっとも、彼らは不良と言っても、違法な行為に走らない連中です。やたら好戦的で、周りから不良と呼ばれているだけです……会長?どうかしました?」
「いや、モズさんが……」
「……確かに、モズはあまり学校に来てません。確か、少しだけ会長。彼女の家に行きましたよね」
「うん……まさか、それくらい強いなんて」
「気にするところはそこなんですか」




