ヒクイドリ・ユウタの過去
「ごめんなさいハシビロコウさん。あの時、私が止めればよかったですね」
サキは、病室にいるユカリに頭を下げる。
「腰の骨に数本ヒビが入ってて、一本折れていると……」
「…………アイツを侮ってた。まさか、戦闘力を隠して生活しているとは」
「それに関しては私も同感です。この私でも、傷一つけられませんでした」
「サキがライバルって言うのも納得できる。アイツを倒せるの?」
「倒します。私はオウギワシですから」
ユカリはため息をつく。
「プライドさえ無ければ、完璧な生徒会長なのに」
「プライドですか…………彼のせいで散々へし折られましたよ」
サキは羽を広げてレイピアを抜いて、床に突っつけていた。
「この剣だって、一回も折られたことがなかった。羽だって千切られたことがなかった……なのに、彼はいともたやすく……しかも、まだ力を持っている」
*
「これ以上騒がれたら困ります」
生徒会副会長、カラスはユウタにそう告げた。
「承知しています。でも、相手が向かってくるんです」
「言い訳は結構です。会長もあなたにライバル意識を持ち、ダチョウとハシビロコウが病院送りになった。相当な大事ですよ。なのに表に出ないのは会長のおかげです。彼女が生徒を安心させ、第一線で活躍する人物だからこそです」
「はい……」
「あなたは徐々に学校内で有名になりつつある。さらに気を張って行動してください」
「…………はい」
「喧嘩を買わない、売らない。常識ですよ」
「…………」
「聞いてるんですか?」
「あぁ、聞いてる」
カラスの背筋がゾッとする。
「あ、すみません……ちょっと……あの、分かりきってることなので」
「……そうですか。それは、こちらも謝罪します。あなたは、きっと、僕でも分からないくらい不遇な目に遭ったんですね」
ヒクイドリは片手を押さえる。
「そうですね。たくさん喧嘩を売られました……あの時は僕も子供で、感情のままに相手を血まみれにするまでやめませんでした……でも、だんだん抑えられて……今は、自分の気が済むか、女の子の顔を殴れば、戻れるようになりました」
「後者はどうにかしてほしいですね」
カラスは悪態をついた。
「冗談ですけど、カラスさんも僕とやりますか?」
「やりません。僕はあまり強くないので」
*
11年前――
顔が血まみれの少年の胸ぐらを掴むヒクイドリ・ユウタ。当時、7歳。
「お前、僕になんて言った?ん?意気地なしとかバカだとか言ったよね。それを10回繰り返してたね」
「……ごめんなさい…………許して……やめて」
「いやいや、止められないくらいにやったのはお前なんだから。ね、これは制裁だよ。大丈夫だよ。殺しはしないうよ……ただ」
再度拳を握る。
「2度と近づけないくらいのトラウマを体に刻むだけだから」
いつもそうだった。自分の中では決めていた。
自分に合計で30回悪口を言ったものは容赦なくボコボコにするだ。
「ヒクイドリ。喧嘩しようぜお前、強いんだって?」
皆、それで喧嘩を切り出した。もちろん、2度と何も言えないくらいにボコボコにした。
指で穴を開けたり、ニキビを千切ったり、歯を抜いたりと2度と消えない傷も刻んだ。
それでも、喧嘩を挑んでくるものもいた。
数えて、40人を2ヶ月でシメた。大体、ものの5分でかたは付いた。
1日に3回は喧嘩を売られたこともあった。
喧嘩の条件は満たしてたから、全員をまとめて相手して3分で全員を倒して、ついでに前歯を一本抜いておいた。
この時、パワーヘッドはまだ使っていなかった。というより、存在さえ知らなかった。
ユウタの喧嘩っぷりは、家族でも問題になっていた。
家族でも、ユウタのように喧嘩っ早いものはいない。皆、穏やかで喧嘩とは縁遠い家系だから。
だが、ユウタに似た喧嘩早さを持つ曽祖父は、蔵からあるものを取り出した。
「俺に似たんだな。じゃ、これをやる」
それがパワーヘッドだった。
「でも、俺に勝ったらやろう。パワーヘッドは制御が難しいけどな」
曽祖父はパワーヘッドをユウタに被せた。
「…………マックス」
「え?ユウタ?」
幸い、戦闘モードでそれを使っていなかったので、足をかけるくらいで我に帰った。
そこから、9年後の2年前――
中学生になると、喧嘩をする頻度が増えてしまった。週に1回以上は生徒指導に呼ばれた。
全校生徒231名中、48名をシメるのに1ヶ月半しかかからなかった。
時には、他校の不良にも喧嘩を売られた。
小中、他校を含めて119名を血祭りにあげ、前歯を折り、肝臓をえぐり、骨を引き抜いて持ち帰り、ついに両親は最後の手段を取った。
「ユウタ、アリア」
真剣な話だった。
「私たちみたいな人を、受け入れてくれる学校があるみたい」
そこは、千葉にあった。
「だから、ここの中等部に転校しましょ。ユウタ、ここからまた始めましょ」
中学校の2年生の中盤で、ユウタたちは転校をした。
「…………ヒクイドリ・ユウタです」
この時になると、心がズタズタだった。いくつもの血を見たから。
でも、ここは自分を怖がったりしなかった。
「ヒクイドリ君。私と同じなんですね。仲良くできたら嬉しいです」
オウギワシ・サキ。中等部の生徒会長だった。
「あぁ、うん」
そこから、彼女とは全く話さなかった。
半年前――
高等部に入ったサキは猛禽類最強と言われるようになった。入学早々に挑発してきたダチョウを病院送りにしたと聞いたが、ユウタは聞き流した。




