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「待て待て!聞いてねぇ!」
グレンの叫び声は、サイファとオルガが久しぶりに見た、実に常識的な反応だった。
思わずサイファとオルガのグレンへの好感度が爆上がりする。
「そうだな。おまえの反応は実に素直だ」
「若いうちは素直さも、大きな美徳だ」
だが、セドリックは、重く頷く組織の責任者達の発言を軽く聞き流し、グレンに向かって柔らかく微笑んだ。
「騎士の昇格に、おまえの意見はいらないよね?」
「俺の話だろが!!」
「おまえの話だったとしても、だよ」
見かねたオルガがグレンの肩に手を置いた。優しい顔で首を振る。
「トップの意見も聞かんのだ、君の意見など聞くまいよ」
オルガの説明に唖然とするグレンに、セドリックが不本意そうな顔をした。
「ちゃんと許可を頂きましたよ。決定されたのはオルガ様ですよね?」
あれは脅しと言うんだ。
オルガの苦い顔を見て、何かを察したグレンの顔が引きつる。
「まぁ、本人は納得してないようだが…話を続けようか」
一度グレンに視線を投げてから、レイヴァンドは楽しそうにセドリックを見た。
「平民の聖騎士叙任に加えて、叙爵も希望してるね?」
「…は!?なんですと!!」
サイファとオルガが目を剥いた。
それは聞いていない。
「必要ですので」
セドリックは相変わらず、すました顔のままだ。
カミラが綺麗に揃えた指先を頬に当てて、首を傾けた。
「四代目にいたわね。『聖騎士』になって男爵位を得た者が…」
一代限りの名誉職の様なものだったが、叙爵の本質は確かその時代の貴族出身の大聖女が、好きな男を伴侶にするためだった気がする。
(様々なものと引き換えに、いつの時代の大聖女も大胆ね)
ふと、思いがけない共通点に気がつきカミラが口元を緩めた。
大聖女の選定基準は案外そこにあるのかもしれない。
(だとすると、アイリスにもその素質があるということね)
それは、とても良いことのように感じられた。
カミラの発言を聞いたレイヴァンドが思わず、まじまじとカミラを見つめてしまう。
紳士としてはかなり失礼だが、それほど驚いたということだ。
「我が国の聖女について、本当にお詳しいですね?」
「ほほほ。恐らく、ここにいる者の中では、わたくしが一番神の真意に近いと思いますわよ?」
挑発的な笑顔にレイヴァンドの片眉があがり、視線がサイファに向けられる。
サイファは深く頭を下げるばかりだ。
「仕方ありませんわ。こういうことは部外者の方が、よく見えるものですもの」
別にサイファを庇ったわけでもないが、カミラが優雅にティーカップに手をつけて微笑む。
「神秘に無頓着なのは王家も同じではなくて?」
そうでなければ、大聖女不在と言う不安定な事態を放ったらかしにするわけがないのだ。
カミラの言葉はアイリスに敬意を払わなかった全てを平等に切り捨てた。
レイヴァンドにも心当たりがあるのか、口元だけで微笑んでティーカップに口をつけた。
「耳の痛いことですね」
「すべて、これからどうとでもなりますわ」
レイヴァンドはこの少女について、無視してはならない情報があったことを思い出していた。
(アマンディアス皇国の皇子の婚約者だったな…)
婚約は白紙に戻ったと言うことだが、その優秀さが変わるわけではない。
一国の妃に望まれていた女だ。
(なるほど、面白い…)
先の読めなくなってきた会談にレイヴァンドの唇が薄く引き上がった。
「ねぇ、カミラ…」
緊迫した空気の中で、一切の重さを無視してアイリスが口を開いた。
恐るべき鈍感力だが、アイリスにはずっと聞きたいことがあったのだ。
「何なのかしら?まぬけな顔して、話の腰を折るとは図々しいわね?」
全く聞く気がないようでいて、アイリスの言葉が続くのを待っているので、どうやら聞いてくれるらしい。
アイリスはそう判断して言葉を続けた。
「あのね。カミラ達はどうやってここまで来たの?」
どうでも良さそうでいて、絶対に無視してはいけないような疑問だった。
「ここ、王都の中心部だよ?」
色々なことが一気に起こりすぎて、後回しになってしまっていたが、物理的な距離も厳重な警備もすっ飛ばして現れたのだ。
それは確かに脅威だった。
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