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想定外の出来事のため慌ただしく片付けが始まった祈りの間を後にして、レイヴァンドは控室に戻っていた。
ソファーに腰を下ろすレイヴァンドの前に置かれたハーブティーからは、優しい湯気が立ち上っている。
しばらくすると扉を叩く音が響き、入室の許可とともに神殿の責任者であるサイファと騎士団の責任者であるオルガが頭を下げて現れた。
そのあとにセドリックにエスコートされた謎の少女と、大聖女アイリス、そしてグレンが続いた。
「陛下、こちらはアマンディアス皇国のアシュトレイヤ家ご令嬢、カミラ嬢でございます」
サイファが頭を下げて、カミラを紹介する。
レイヴァンドが鷹揚に頷いて腰を上げた。
「ようこそ、カミラ嬢。私はエルダリア王国第一王子、レイヴァンドです」
「お会いできて光栄ですわ。アマンディアス皇国のカミラ・フォン・アシュトレイヤです」
アシュトレイヤ家といえば、皇国の筆頭貴族の家門だ。
レイヴァンドが周辺国の情報を思い浮かべる。
艶やかな黒髪にバラ色の唇。印象的なルビー色の目を持つ、噂にたがわぬ美少女だ。
目の前で優雅に膝を折り挨拶をする少女は、とても神事に強引に乱入してきた少女とは思えない。
一方で、カミラも感心していた。
細身だが鍛えられた体。先ほどの乱雑で突発的な事態にも動じることのない精神力。
赤い髪に琥珀色の瞳は、整った顔立ちを軟弱に見せることなく為政者としての資質がすでに現れている。
(いやだわ。わたくしって本当に世間知らずだったんだわ)
思わず自国の皇子を思い出して一人反省会をしてしまったが、すぐに表情を取り繕う。
あれはもうどうでもいいことだ。
「本来であれば外国の方にご同席いただく場ではないのですが、これからのお話に深く関係する方ですので、ご容赦ください」
二人のあいさつが終わったのを受けて、静かにセドリックが切り出した。
ソファーに掛け直したレイヴァンドが頷いて許可を示す。
「事前にご連絡いたしました通り、ヴァリエール第三部隊長よりご報告がございます」
オルガが頭を下げたまま、レイヴァンドへ申し入れた。
「色々と複雑なようだからね。この場ではある程度自由に発言してかまわないよ」
無駄を嫌うレイヴァンドらしい提案に、生粋の貴族であるオルガとサイファは戸惑ったように頭を下げた。
気づかいはありがたいが、そこまで図太くはないのだ。
だが、図太いのは確かにその場にいる。
「では、早速お願いがあります」
セドリックが躊躇なく、本題に入った。
「おまえは少し遠慮して話してくれたほうが良いんだけどね?」
「殿下もお時間が限られているでしょう?大した話でもありませんのでさっさと終わらせたいのです」
「せ、セド。公私を分けて形式的にやらないとダメなんじゃなかったの?」
あまりに気安く話を進めだしたセドリックの腕をアイリスが慌てて叩いた。
セドリックは例の何かを企むときの目をして、アイリスに微笑んだ。
「うん。こういう場を正式に申し込んで成立してるから形式は整ったよ?あとはさっさと終わらせよう?」
「せ、政治の世界、難しい!!」
アイリスの悲鳴にカミラが鼻を鳴らす。
「入り口と道筋だけ整っていれば、あとは全部、茶番よ。おまえも少し慣れておきなさい」
大聖女ともなれば間違いなくこれまでとは異なる扱いを受けることになるだろう。
本人が気にしないなら問題ないだろうが、慣れておいて無駄になるものでもない。
「…アイリスには、そのままでいてほしいのだがね」
サイファの切実な呟きはセドリックにもカミラにも黙殺された。
(セドから聞いていたけど、思ったより無茶苦茶になりそうだな)
レイヴァンドはそれぞれの反応を面白そうに眺めながら、ハーブティーに口をつけた。
セドリックの話は大体事前に聞いている。
確か、騎士団に入団させた平民の騎士を「聖騎士」に叙任する話だったはずだ。
「確かに、おまえの言う通りだとしたら大聖女アイリスの騎士を「聖騎士」とすることは問題ないと思うよ?」
やはり事前に話を通している。
サイファとオルガは苦い顔をした。
しかし、それ以上に衝撃を受けている者がいた。
「はぁぁぁ!?」
グレンだ。
新章スタートです。
狂犬聖女は第5章で完結予定です。
ラストまでお付き合いいただけると嬉しいです。
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