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厳かな神事を台無しにする乱入者たちに、祈りの場は騒然となった。

サイファの額に青筋が浮かぶ。

何よりも想定外を嫌う男の堪忍袋がついに切れたのだ。


「ええい、何事だ!騒々しい!!」


よく通る大司祭の一喝は、その場の混乱を収めるのに十分な声量だった。


あくまでも一時的に、だが。


祭壇の置かれた壇上で、カミラに抱きついていたアイリスが、はっと息を飲んでカミラの顔を見る。


「カミラ、見て!私、大聖女として祈りを成功させたよ!」


「知っているわ。おまえにしては上出来よ。良くやったわね」


「うん!!」


褒めてくれと言わんばかりのアイリスに、カミラが顎を上げて唇を釣り上げた。

カミラらしい褒め言葉にアイリスが、満面の笑顔で頷く。


「感動の再会のところ悪いんだけど、どういうことか説明してくれる?」


すっかりへそを曲げて黙り込んだグレンでは話にならないと、セドリックがカミラに声をかける。


「ほほほ!その男はわたくしの作戦がうまくいったことが面白くないのよ」


口元に手を当てて高らかに笑うカミラは何かの芝居の悪役令嬢のようだ。

アイリスが少しだけ、羨ましそうな顔をしてこっそり真似をして手を当ててみる。


「アイリス、君にそれはまだ早いから…」


セドリックが疲れた顔でアイリスに声をかけると、アイリスは慌てて手を戻した。


「どうやら、無事におまえの国の神事とやらは終わったようね?」


「えっとね。段取りとしてはあと王太子殿下への挨拶が終わってないんだけど…」


「そんな明らかにどうでもいいパフォーマンス、必要あるのかしら!?」


話題の中心に駆け上がった王太子殿下は、今まさにその目の前にいるのだが、カミラはお構いなしに首をかしげる。


「信仰のパフォーマンスは、簡略化したら儀式がしょぼくなるから駄目だよ!」


明らかに誰かからの受け売りと思われる言葉にカミラが目を細めた。


どういう経緯だったとしても、アイリスが自分で考えてその意見を取り入れたことが分かったからだ。

何でもかんでも言いなりだったころとは、言葉の強さがまるで違う。


「随分とご立派な意見が言えるようになったじゃない」


「ふふ。私は大聖女だよ!」


誇らしげに胸を張るアイリスにカミラが口元を緩めた。


「いいわ。だったら、さっさとその挨拶とやらを済ませなさい。いつまでわたくしを待たせる気なの」


カミラの言葉にアイリスが目を瞬いた。

カミラがあまりにもカミラらしくて嬉しくなる。


「うん!待ってて」


アイリスがくるりと体の向きを変えると、まず石像に静かに一礼した。

そして王太子レイヴァンドの前に進み出ると膝を折って頭を下げた。


近衛騎士に囲まれたレイヴァンドは面白そうな顔をしてアイリスの頭を見つめた。

そして、騎士たちに片手をあげて背後に下がらせる。


祭壇の上はいまだに、人が二人も落下してきた勢いを受けて、物が散乱していた。

祈りの間は騒然としたままだったし、いつも冷静な大司祭は青筋を立てて今にも倒れそうだ。


そもそも部外者が堂々と乗り込んできているとういう状況はめちゃくちゃだ。


レイヴァンドは、その状況でなお厳かに静かに膝を折る大聖女アイリスの図太さに感心する。

愉快そうに目を細めるレイヴァンドの唇が弧を描く。


「確かに見届けた。大聖女アイリス、ご苦労だった」


王太子の儀式を見届けたという宣言をもって、この神事は終了だ。

つまり、これで本日のイベントは終了したことになる。


「お待たせ、カミラ!!終わったよ!!」


「わたくしが言うのもなんだけど、本当に形だけの挨拶ね」


駆け寄ってくるアイリスに、カミラは小さく肩をすくめた。


王族への態度がそんなに雑で良いのだろうか。


飼い主に褒めてもらいたい犬のように飛びついてくるアイリスを呆れた顔で受け止めた。

嬉しそうなアイリスにカミラも満更でもない気持ちになっている。


祭壇の上の二人の少女を見つめながら、レイヴァンドはセドリックに視線を投げた。

セドリックはすました顔で頭を下げる。


「大事な神事に部外者の乱入を許すとは、騎士団の警備はどうなっているんだ?」


「あちらのご令嬢は神の使いですので、問題ございません」


しれっと答えるセドリックに、レイヴァンドは苦笑した。

この男の図太さも相変わらずのようだった。


「この後、話がしたいということだったな?」


「お時間をいただけて光栄です」


「この度の神事については、きちんと説明してもらわないことには夜も眠れないからな」


アイリスたちにとってのメインイベントはこれからだ。

セドリックがいよいよ王太子との交渉の場につこうと、腹の探り合いを始めていた。


勿論、アイリスがそんなことに気が付くわけもない。

アイリスはカミラに抱き着いたまま、そっと石像に目を向けた。


自らが捧げた祈りの光が、静かに国中に広がっていくのが感じられる。

そしてクゥ・ルーイの残した花のような香りが、甘い香木のような香りに変わったのを確認して静かに息を吐いた。


(よかった!神様、今年もありがとうございました)


アイリスは心の中で、いつものように感謝の言葉を述べる。


例年通りでは決してなかった神事は、こうして無事に終了したのだった。



第四章終了です。次から第五章(最終章)です。

よろしくお願いいたします。


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


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