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神殿の最奥部。
最も神聖な場所に、その祭壇は配置されている。
国を守る結界を維持するための最大の祈りの儀式は、毎年ここで行われる。
サイファに案内され、レイヴァンドは用意された席に腰を下ろした。
部屋中に漂う花のような香りは、神事用の供物クゥ・ルーイのものだろう。
参列するべき人が揃ったところで、静かに祈りの間の奥の扉が開いた。
純白の聖女の衣装。その胸元で意匠を凝らしたネックレスが揺れている。
中心で優しい光を放つ、大粒の美しいエメラルドは大聖女アイリスの新緑の目と同じ色だ。
凛と背筋を伸ばすアイリスは清涼な空気を纏ったまま祭壇の前に進んだ。
供えられたクゥ・ルーイに手を添えると、静かに頷く。
「ここに御神の至嗜の供物を捧げます」
続いて、石像の前に静かに跪いた。
手を組み合わせゆっくりと頭を下げると、ヴェールも静かに揺れる。
飾り付けられた白い花の香りとクゥ・ルーイの香りがふわりと混ざり合い、神事そのものの神秘性を際立たせていた。
(これが、我が国の神への祈りか…)
レイヴァンドはどこか冷めた目で、神事を観察していた。
幼い頃から王室で聞かされていた、自国の防衛の仕組みについては、ずっと胡散臭さを感じていた。
あまりにもお伽噺のような話だったし、貴族や神殿の利権が絡んでいるのも、見え隠れしていた。
そんなものに意味があるのか、測りかねていた。
父王からこの儀式に立ち会うように言われたときも、形式的なイベントでつまらないものだろうと思っていたのだが…。
(セドが先に話を持ってきてくれて良かったな…)
学生の時から一際癖ある男だったセドリック・ド・ヴァリエール。
面白すぎて、つい様々なエサを与えてみたが、ほとんど食いつかなかった男だ。
それが、珍しく手紙を寄越してきた。
王太子に直接連絡を取れる特別な手段だったのだが、使われたのは初めてだ。
だから、余計に興味を引かれた。
レイヴァンドの目の前で、大聖女アイリスが淡い光を纏い始めた。
(まぁ、面白い話があるから絶対来い、とは…)
王太子に向かって言う言葉ではない。
思い出して唇の端をつり上げた。
自分の配下に置けなかったのは残念だが、今も変わらず面白い男のようだ。
壇上では光を纏う大聖女の髪がふわりと巻き上がり、祭壇の供物も光り始めた。
そして、陽炎のように揺らめくと霧のようにゆっくりと消えていく…
「ほう…?」
確かに神秘的だ。
レイヴァンドがお伽噺と一蹴した聖女の仕組みは、夢物語ではないのかもしれない。
(だが、この程度…。面白い事というのはこれなのか?)
王太子として品格のある態度を崩さないまま、レイヴァンドは少しだけ期待外れだと片眉をあげた。
その時――
聖女の祈りが終わり、供物が神に捧げられたと思われたその瞬間。
祈りの間が、強烈な白い光に包まれた。
参列者達は思わず目をつぶり、息を飲んだ。
祭壇の上でアイリスが小さく悲鳴を上げた。
(これは神事ではないのか!?)
大聖女が声を上げたと言うことは、想定外の事態だと言うことだろう。
ばんっ!!
乱暴に祈りの間の扉が開き、警備にあたっていた騎士達が飛び込んできた。
「殿下!」
王太子を近衛騎士が囲む。
その向こうからセドリックの声がした。
「アイリス!!」
「セド…っ」
アイリスが無事を知らせようと叫び返した。
だが、聞き覚えのある声に固まる。
「ほら、見なさい!ちゃんと移動できたじゃないの!!」
「結果論だろうが!っつーか、重てぇ!どけ!!!」
鈴のような偉そうな声と、不機嫌な怒鳴り声。
「カミラ!!!」
アイリスが叫んだ。
「グレン!?」
セドリックはカミラの下敷きになってるグレンを見ると、深く息を吐いた。
「……随分と早いお越しだね?」
かなり予定とは異なる行動だ。
呆れたような顔で、どういうことかと目で問いかけた。
グレンはカミラの下敷きになったまま、眉間の皺を深くして怒鳴り声を上げる。
「俺に言うな!この女と過保護な野郎共に言え!!!」
王太子レイヴァンドは、あまりの出来事に目を丸くした。
「これは確かに面白そうだ…」
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