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すっきりとした青空だった。
王家の馬車から降り立ったエルダリア国の王太子、レイヴァンド・オーレリアン・エルダリアはさわやかな風に赤い髪を靡かせて、神殿の入り口で出迎えた大司祭サイファに鷹揚に頷いて見せた。
「気持ちの良い、良い朝でございます、殿下」
「そうだね。今日はよろしく頼むよ」
短いあいさつの後、サイファが王族用の控室に案内する。
普段、訪れることのない神殿の最奥部に入ることができるとあって、レイヴァンドの目には隠しきれない好奇心が浮かんでいる。
通された控室のソファーに腰を下ろすと、レイヴァンドは差し出されたハーブティーに口をつける。
神殿は基本的に薬草茶しか出さないと事前に聞かされていた。レイヴァンドは、あまり目にしないそのお茶を物珍しそうに眺めた。
「ところで、今年は『大聖女』が神事を行うんだって?」
どこから仕入れた情報なのか。
神事の進行の連絡はするが、聖女についての詳細は基本的には公開していない。
サイファは注意深く頭を下げた。
「聖女アイリスが神事にあたります」
「ふうん。その聖女は昨年の聖女と同じだよね?」
今年初めて神事に出席するこの王太子は、随分とこの神事に興味があるらしい。
サイファは頭を下げたまま、静かに頷いた。
隠しても意味がないと直感したからだ。
「このたび『大聖女』であると判明いたしました」
「そうなんだ。良かったね、『大聖女』が見つかって」
どういう真意があるのか掴み損ねて、サイファの背中に汗が伝う。
レイヴァンドはそれ以上、特に言いたいことはないらしくハーブティーに再び口をつけた。
しばらくの間、重い沈黙が落ちる。
そこでようやくレイヴァンドがサイファの様子に苦笑した。
自分の発言が神殿の長にプレッシャーを掛けたことに気が付いたのだ。
「すまない。ただの興味本位だ。気にしないでくれ」
レイヴァンドはサイファに声をかけると、別のことを確認してきた。
「聖女アイリスの騎士は騎士団の第三部隊のグレンになったんだってね?」
「失礼ですが、殿下はどこでその話を?」
嫌な予感しかしないが、確認しないわけにもいかない。
頭の中でオルガのところの胡散臭い部下の顔がチラチラとしている。
そんなサイファの気持ちを知ってか知らずか、レイヴァンドは笑いながらティーカップを机に置いた。
「騎士団のヴァリエール第三部隊長は、学生時代の友人なんだ」
想像通りの名前にサイファは苦い顔をする。
(何が『公私を分ける』だ、あの子タヌキめ)
タヌキの部下など、子タヌキで十分だ。
しっかり、先に王太子に連絡を取っているではないか。
「あ、別にそんなに詳しいことは聞いてないぞ」
しれっとした顔で伝えてくるあたり、こちらをけん制しているのだろう。
身分が上だとは言え、どいつもこいつも小生意気なことだ。
サイファは冷静に笑顔を張り付けて静かに頭を下げた。
最近、すっかり心を乱されることが多かったが、この程度が取り繕えないほど間抜けでもない。
「いえ。殿下の人脈に感服しているだけですのでお構いなく…」
「はは。神殿もなかなか面白そうなところだな」
余計な目を付けられたくないサイファにとってはありがたくもなんともない評価だった。
とにかく答えたくないことは頭を下げてやり過ごすに限る。
サイファは、恭しく一礼した。
「まあ、いいさ。どうせ、神事の後のほうがお前たちにとっては大仕事なんだろう」
意味深に唇を引き上げる姿は、国王陛下が何かを企むときの顔にそっくりだ。
気が付きたくもないことに気が付き、サイファの眉間にしわが寄る。
視線を上げると、レイヴァンドが自分の額を指先でとんとんと指している。
サイファは自分の額に手を当てると、コホンと咳ばらいを一つしてやり過ごした。
(全く、かわいげのない奴らばかりだ!)
あと少し遅れていたら、サイファの苛立ちが頂点に達していたに違いない。
そんな絶妙なタイミングで、控室の扉がノックされた。
「祈りの準備が整いました」
呼びに来た司祭に、褒美の一つでもくれてやりたい気分になったサイファを誰が責められるだろうか。
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