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セドリックの笑いが収まるまで、しばらく二人はベンチに座っていた。
アイリスは心なしか頬を膨らませている。
不安がすっかりなくなったのは良かったけど、笑われるのは面白くない。
「セドは、いつも笑い過ぎだと思うの…」
「ごめんって」
まだ目の奥が笑っているセドリックを見て、「もう!」とアイリスはまだ機嫌を損ねたままだ。
分が悪いと思ったセドリックが速やかに話題を変える。
「ずっと気になってたんだけどさ?」
ちらりと、アイリスが目を向けてきた。
少し興味を引けたようだ。
「初めて会った時さ。アイリスがクマのぬいぐるみでカミラ嬢が騎士団本部に乗り込んで来た時…」
「うん?」
アイリスが思い出すように少し斜め上を見た。
それを確認してセドリックは言葉を続ける。
「グレンのこと、知ってただろう?」
「ああ」
グレンが、クマのぬいぐるみだったにも関わらず、迷わずそれをアイリスだと認識した時のことだろう。あれはアイリスも驚いたが。
「どっかで、会ったことあったの?」
「会ったっていうか、見かけたっていうか…?」
アイリスがグレンのことを思い浮かべながら、その時のことを話し始めた。
大したことじゃないよ、と言いながら指先を顎に当てて思い出しながらゆっくりと口を開いた。
「確か、騎士団の人がけがをして神殿に治療に来てたの」
「グレンが?」
「グレンは付き添いだったと思う」
訓練中にしては少し大きなけがだったから、神殿に来たとかそんな理由だったはずだ。
「神殿の治療って基本的には貴族が優先だから、その人も普通に貴族用の受け付けで横入りして…」
…普通にやっていいことでもない。
それは別途、後で調べておこう。セドリックは心のメモに書きつけた。
だが、今は表には出さずに黙って頷いた。
「けど、グレンが並んで待ってるならそっちに行こうって言ってたの」
その時は結局、すっとんできた司祭の一人が、あれよあれよと貴族受付に通してしまったのだが、騎士団の人にしては珍しい感じだったので覚えていたのだ。
「その人の治療は私がしたんだけど、確か付き添いがグレンだったんだよね」
「あいつ、よくそれだけの記憶で断言できたな…」
「グレンてすごいよねぇ」
横並びで座って、無愛想で口の悪い騎士を思い浮かべた。
アイリスがふふっと息を漏らす。
「グレン、帰ってきたらびっくりするよ」
「ああ、知らないうちに聖騎士になってたら驚くだろうね」
二人で顔を見合わせて笑う。
すごく面倒くさそうな顔をするか、しかめっ面をするかのどちらだろう。
「カミラも喜んでくれるかな?」
「それはどうだろうね。地位は押し上げてやれるけど、カミラ嬢はグレンが自分で捕まえないと意味がないしね」
厳しいのか甘いのか分からないセドリックの発言にアイリスは目を細めて頷いた。
「それに、カミラのご両親の説得もしないといけないもんね」
アシュトレイヤ家は難癖付けたいだけだろうけど。
セドリックはそう判断していたのだが、アイリスが楽しそうだったので笑って流しておいた。
「それくらいの甲斐性はみせてもらわないと、向こうだって安心できないでしょ」
「グレン、やることが沢山あって大変だね!」
大事な行事の前の緊張感は、大切な友達の恋バナに取って代わられ、穏やかな空気に包まれていく。
「明日、神様へのお礼が終わったら王太子様にお願いするんだよね」
「うん。そうだね」
アイリスの言葉にセドリックは頷いた。
「まず、私が成功させないと始まらないんだよね」
「怖くなっちゃった?」
セドリックが軽く尋ねる。
もう、全く気負いのなくなったアイリスが胸を張った。
「ううん。任せておいて。神事を成功させて、グレンを聖騎士にしてカミラを幸せにして見せるよ!」
色々なことが、一段飛ばしくらいに極端だがアイリスらしい。
セドリックは眩しそうに目を細めた。
「俺への返事も忘れないでね?」
「それは、一番最後まで保留!!」
釘を刺してみたが、短時間ですっかり逞しくなったアイリスに躱される。
その頼もしさにセドリックは、また爆笑した。
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