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「大事な神事の前に、ごめんね?」
セドリックが眉を下げた。
アイリスはビクビクしながら、セドリックに頷く。
「ど、どうしちゃったの?セド…」
先ほどから様子のおかしいセドリックを目の当たりにして、エメラルドグリーンの目が緊張で潤んでいる。
「俺ね…こういうことに関してはすごく衝動的な男だったみたい」
「…衝動的?」
アイリスの困惑した顔に、セドリックも困ったような顔をした。
準備で慌ただしい、ごちゃごちゃした祈りの間。
しかも神事の直前。
(どれもこれもこんなことを伝えるような状況じゃないな…)
用意周到に。
ロマンチックに。
そういうことができる男だと思っていたのだが、違ったらしい。
戸惑っている女の子の、隙を突くみたいなやり方で…
もう一度アイリスの手を取った。
「アイリスが…好きだよ」
アイリスの全身の血が沸騰した。
真っ赤になって、「あ…」だの、「うぅ…っ」だの口ごもる姿はいつかのターニャと全く同じだ。
「あ、あの!!私っ…」
限界を超えてフラフラしているアイリスの指先に唇を寄せた。
バフッと音が出そうなほど体が揺れ、アイリスが可哀想なくらい動揺しているのが分かったが、畳み掛けるように小首をかしげた。
「ドキドキしてくれた?」
セドリックのあざとい仕草にアイリスの全身の力が抜け落ち、再びへたり込みそうになる。
セドリックが咄嗟にアイリスの腰に手を回して支える。
その腕の中に、すっぽりと収まってしまったアイリスは、ついに両手で顔を隠してしまった。
「アイリス?」
そっと確認するように囁く。
耳まで真っ赤に染めたアイリスが小さな声で何かを呟いた。
「なに?」
よく聞こえなくて、セドリックはその耳元に問いかける。
すると、がばっと顔を上げたアイリスに涙声で叫ばれた。
「もう!意地悪しないで!!」
その勢いにセドリックが目を丸くする。それには気がつかずにアイリスはセドリックの胸に顔を埋めてぎゅっと上着の胸元を握った。
そして俯きながら、なんとか声を絞り出した。
「…ドキドキ、した…」
辛うじて聞き取れるくらいの、小さな声。
その答えにセドリックが破顔した。
「俺もしてる…」
アイリスにも分かるように抱き締めた腕にきゅっと力を込めると、アイリスの肩がビクッと震えた。
「セドは大事なところでいつも意地悪だよ…」
セドリックの上着の胸元を握っていたアイリスの手が解かれ、恐る恐るその腕が伸ばされた。
そしてセドリックの背中に腕を回すと、アイリスは恨みがましい目で見上げた。
その顔が可愛くてセドリックはまた笑う。
「うん。俺も知らなかった」
これは本当だ。
まさか、好きだと気がついた瞬間、歯止めが効かなくなる性格だったなんて、想像もしてなかった。
「騎士としては失格だけど、アイリスだけだから許して」
「そういうところだよ!!」
アイリスが悲鳴を上げる。
セドリックのわざとなのか無自覚なのか分からない激甘攻撃。
それに対してアイリスは防御する術を持っていない。その全てに被弾するのだから、たまったものではない。
「セドの事は好きだけど!神事が終わるまで、これは保留!!絶対保留!!」
これはもはや、自分を守る戦いだ。
こんなの、心臓がいくつあっても足りない。
大事な神事を盾にして、アイリスは頑張った。
「そう?」
セドリックは面白そうに目を細める。
「じゃぁ、神事が終わったらアイリスから告白してくれるってこと?」
だが、悲しいかな。
戦いの経験値の差か、セドリックの嬉しそうな顔にアイリスは言葉を失った。
「な、なんで、そうなるの!!」
「保留ってことは、あとで考えてくれるってことでしょ?」
口をパクパクさせているアイリスの顔を覗き込んで、もう一度首をかしげた。
どうしたら自分の魅力が最大限に活かせるのかを、分かっていてやっている仕草だ。
(か、勝てるわけない!!!)
別に勝負をしているわけではないのだが、アイリスの中ですっかり何かが変わってしまっている。
それには気がつかないまま、アイリスは、また叫び声を上げた。
「それも保留!!」
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