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ターニャに背中を押されて、セドリックの前に立ったアイリスは恥ずかしそうに俯いた。
「さあ、どうぞ」と差し出されるとなんだか気まずい。
「どうです!?」
ターニャはアイリスの気まずさなどお構いなしに、アイリスの背中を押してセドリックの前に突き出す。
大聖女の衣装だというから清楚系だろうなという当たりはつけていた。
アイリスのことはよく知っているつもりだったので、きっと可愛いだろうなくらいの気持ちはあった。
「本番はベールを抑える髪飾りに、祭壇に飾った純白の花を添えるんですよ」
ターニャが説明してくれるが、セドリックはアイリスから目が離せなかった。
聞いているのか、いないのか分からないような顔でただ頷く。
神事用の聖女装束はアイリスの透明感を際立たせ、揺れるベールは神秘的だ。
純白のドレスはシンプルだからこそアイリスそのものの神聖さを強調しているようだった。
アイリスがはにかんで、セドリックを見上げた。
「どうかな、大聖女っぽい?」
「すごく…かわいいよ」
セドリックにしては捻りのない称賛に、アイリスは素直に喜んだ。だが、セドリックは胸を押さえて自問自答するほど動揺する。
(なんだ『かわいい』って!他にもっとあるだろう!!)
自分の語彙力の無さに愕然とするセドリックをよそに、世間知らずな聖女達はきゃっきゃと喜んだ。
「ほら!大丈夫だったでしょ?」
「セ、セドは優しいから…!」
こそこそと小声で囁きあう二人に、セドリックがハッと我に返る。
「アイリス!」
「…?」
このまま流してはいけない気がして、慌ててセドリックはアイリスの手を掬い上げるように取った。そして、その指先を口元に当てる。
そのまま上目使いでアイリスを見つめた。
「本当にすごく綺麗だよ。うまく言えないけど…よく似合っている」
「ど、どうしたの!?さっき聞いたよ!!」
改めて目を見て告げられてアイリスは真っ赤になった。
アイリスの隣ではターニャも真っ赤になって悲鳴を上げていた。
「なんか、誰にでも言うって思われるのが嫌だったから、ちゃんと言っておこうと思って?」
自分の言葉に動揺して取り乱すアイリスを見て、セドリックの目が甘く緩む。
その目の奥にある熱に当てられて、アイリスはへなへなとしゃがみ込んだ。
「あ、アイリス!気持ちは分かるけどしっかりして!!!」
「ターニャ…、私もう無理かも…」
ターニャが慌ててアイリスを支える。
その様子にセドリックも慌てて手を差し出した。
「アイリス、大丈夫?」
「噓でしょ!王子、鬼なの!?」
ターニャはセドリックの甘い追い打ちに震えた。
自分たちはずっと神殿に籠っていた聖女だ。世間知らずという自覚はあるし、恋愛偏差値なんて底辺もいいところだ。
そんな自分たちに、セドリックの甘さは攻撃力が高すぎる。
抱き合って、小動物のように震える二人にセドリックはにっこりと微笑んだ。
貴公子のような笑顔は端から見たら王子だろうが、アイリスとターニャにとっては巨大な蛇だ。
「ターニャ嬢、アイリスを綺麗に着飾ってくれてありがとうね?」
ターニャは、こくこくと頷く。
「それで、俺はアイリスと少し話がしたいんだけど構わないかな?」
ターニャは、こくこくと頷く。
「ターニャ!首振り人形みたいになっているよ!!」
アイリスがターニャの肩を揺さぶりながら叫んだ。
こくこくこく…。
「ターニャぁぁぁ!!!」
アイリスが半泣きで叫ぶ。
「ごめん、アイリス!あたしはアイリスを助けてあげられない!!!」
アイリスの叫び声で我に返ったターニャは、悲痛な声とともに明日の神事の準備の続きに、走って戻ってしまった。それはもう驚くほどの猛スピードで。
アイリスの手が空しく宙に浮いている。
「アイリス、少し話そうか?」
一体何の話をするつもりなのか。
不安そうにアイリスがセドリックを見上げた。
「やだな。そんなに怯えなくてもいいじゃないか」
セドリックは苦笑する。
グレンがいたら「自業自得だ」と笑っただろうな。
そんなことをふと思った。
それでも、急に閃いた甘い衝動を逃してはいけない気がして、もう一度アイリスを見つめた。
ぱちり。
アイリスと目が合った。
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