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「…し、勝算があるのか?」
オルガは恐る恐るセドリックを見た。
アイリスはセドリックの発言に驚愕して、両手を頬に当てて固まっている。
その隣でセドリックは相変わらず真意の読めないような顔で目を細めていた。
「い、いや、待ちたまえ。聖騎士というのは聖女の騎士という意味だろう?」
危うく場の空気に流されそうになったサイファが、はたと気が付く。
それはアイリスを護るための騎士という意味だ。
隣国の令嬢を口説くためのものではない。
「でも、カミラは私の友達ですよ?」
「アイリス、そういうことじゃ…」
ショックで固まっていたアイリスがサイファの発言に首を傾げた。
サイファがアイリスを宥めようと口を開きかけたが、その前にアイリスが納得したように、手を打った。
「あれ?…そうだよ!カミラがいなかったら、私が大聖女だって気づくことはなかったんだし……」
「ア、アイリス、だから…」
「そもそも私の体に憑依していたんだからカミラも大聖女と言っても過言ではないのでは!?」
過言だ!
サイファが何とか止めようと口を挟もうとするのだが、アイリスは全く止まらない。
「あぁ!それに私より神殿の秘密に詳しくなっちゃってるし、外に漏らされないようにするためにも、こっち側に居て貰わないとダメですよ!…そうですよね!?」
ぴたり。
…サイファの動きが止まる。
確かにカミラという少女は、アイリスの体に憑依して神殿のあちらこちらを見て回っている。
その結果、この国の聖女制度についてかなり詳しい情報を手にしてしまった。
過去の聖女の歴史はもちろん、この国の結界の仕組みまで理解してしまっている。
「た、確かに外国にいてもらっては困る存在だが…」
事の重大性に気が付き青ざめた。
そのサイファに向かって、ここぞとばかりにセドリックが微笑みかけた。
「そこで、グレンです。あいつが聖騎士となって堂々とカミラ嬢を口説き落とせれば問題が解決するわけです」
するわけかどうかは不確定なのだが、追いつめられたサイファとオルガは勢いに押されて納得しかけている。
「お、落とせそうなのか?」
オルガはすでに貴族らしい表現を放棄して、直接的に確認に走っている。
「勝算はあると思ってますよ?」
「カミラ、グレンのこと、大好きだもんね」
セドリックは面白そうに、黙って目を細めた。
(グレンの気持ちは分からなかったのに、そこは確信してるんだ…)
「そ、そうなのか!?」
オルガが目を見開く。
可能性を確認しておいてなんだが、グレンはどこからどう見ても平民だ。大貴族のご令嬢がお気に召すとは、到底思えない。
「まぁ、身分だけで判断するタイプではなかったと言うことでは?」
セドリックの言葉は他意がなさそうにみえて、痛烈な皮肉だった。
サイファとオルガが気まずそうに目を泳がせた。
「それと、これについては王室にも恩を売る事ができます」
「王室に?」
セドリックが愉快で堪らないという顔をしていた。
初めて見る悪い顔にアイリスがきょんと、セドリックを見上げた。
(ワルい顔してる!!)
目指すべきお手本を見つけた気分だった。
そんなアイリスの視線に気がついて、セドリックが片目をつぶる。
「グレンは王太子が進めている、平民の人材活用施策の一番手です」
オルガが微妙な顔で頷いた。
貴族しか入団できない騎士団に初めて入った平民であることは確かだ。
王太子がまた面倒を押し付けてきたと頭を抱えたものだ。
「そのグレンが功績をあげて地位を得る。その上、大国の貴族の娘と結婚する…」
セドリックが一つ一つ事例をあげて指を折る。
「平民にとっては夢があり、王室にとっては有用な施策であるアピールができる」
最後にセドリックは少しだけ小首をかしげた。
「騎士団の国防に関する機密情報の漏洩も防げるし、大聖女の誤認という神殿の失態も帳消しにできそうですよね?」
思わずアイリスが拍手を送った。
(めちゃくちゃ脅してる!なんて立派なワルなの!!)
キラキラしたアイリスの目に応えるように、セドリックが優雅に微笑んだ。
「と、まぁ。このくらいのメリットは考えられるわけです」
サイファとオルガの喉が上下した。
セドリックの提案は神殿と騎士団、そして王室にとって損のない話に思えた。
「あんまりのんびりしてたら、カミラのご両親がグレンを皇国に引き抜いちゃいそうだもんね?」
アイリスの無邪気な声が、二人の大人の度肝を抜いた。
「そ、そんなに気に入られているのか!?」
アイリスは不思議そうに首をかしげた。
「夜から朝までずーっとグレンとお話しするくらい、仲良しでしたよ」
アイリスの話す真実にセドリックは堪えきれずに爆笑した。
「すごい援護射撃だよ、アイリス!」
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