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必死に笑いを堪えていたセドリックだが、アイリスの話が済んだとみると、続けて口を開いた。

姿勢を正してサイファとオルガに報告を上げる。


「大聖女アイリスに憑依していた少女ですが、アマンディアス皇国のアシュトレイヤ侯爵家令嬢であることが確認できました」


神事にかかわる内容ではないが、聖女にかかわる話だ。

サイファとオルガには知っておいてもらう必要がある。

セドリックの報告にオルガは天井を見上げた。


「なんでまた、そんなところのご令嬢が…」


「その件については、事故でしたのでご安心ください」


おそらくオルガが想定している、最も最悪な予想については先に否定しておく。

オルガが、パッと正面のセドリックの顔を見た。


「先方の政治的事情によって引き起こされた事故です。皇国側も想定外のようでした」


「そうか…。何らかの事情で攻め込まれたら我が国などひとたまりもないからな。そういうことなら良かった…」


オルガが深く息を吐いて安堵した。

しかし、セドリックは申し訳ないと思いつつも、オルガのひと時の平穏をぶち壊す報告を続ける。


「その皇国のご令嬢ですが、我が国に興味がおありのようで、明日の神事が確認できたら、こちらにお見えになるそうです。警備の手配をお願いします」


「は?」


オルガが意味を図り損ねて、口をぽかんと開けた。

なぜ、大国のご令嬢がこんな小国に興味を持つんだ…。


「オルガ様もご存じの通り、皇国の大貴族が我が国にお見えになるのは初めてですので、いろいろと手配があるのではないかと」


淡々と続けられる部下の報告にオルガの目が虚ろになっていく。

もろもろの手続きに書類の作成。警備の配置の検討…

ざっと思いつくだけで家に帰れる気がしない。


「…ご令嬢は何を目的にお見えになるのかね?」


サイファが首をかしげると、セドリックの隣からアイリスが笑顔で答えた。


「私の労働環境の改善提案です!」


今度はサイファが遠い目をする。


「ああ。アイリスの体に入っていたものな…」


お会いしたことはないが、お会いしたも同然だ。

複雑な気持ちでサイファとオルガは顔をひきつらせた。


「カミラはすっごく美人でしたよ」


そんなどうでもいい外見の情報より、性格の方が知りたい。


アイリスに憑依していた時期しか知らないが、相当な曲者だったことだけは分かる。

だが、どうせアイリスに聞いたところで「いい人」としか返ってこないのは目に見えている。


二人はセドリックに目を向けた。

セドリックは意味深に唇を引き上げた。


「いい人でしたよ?」


オルガがため息をつく。

こういうところが、セドリックの扱い難いところだ。


「何か希望があるのかね?」


「話が早くて助かります」


どうせ情報と引き換えに何か企んでいるのだろう。そう思って確認すると、案の定、腹の読めない返事をされた。


セドリックがその笑みを消して、オルガに進言したのはオルガにとってもサイファにとっても予想外の事だった。


「グレンを聖騎士に任命してください」


オルガは沈黙した。

様々な損得勘定が頭のなかを駆け巡った。


「理由はあるのかね?」


「国防の強化です」


短いやり取りでは埒が明かない。

オルガは腹を括ってセドリックの話に耳を傾ける姿勢を見せた。


「詳しく話してもらわんと、分からんよ」


「ありがとうございます」


テーブルを挟んで向き合う二人の間に流れる緊張感にアイリスが目を瞬かせた。


「セド…?」


「ん。グレンのために一肌脱いでおこうと思ってね?」


アイリスの問いかけに、セドリックはいつものように軽く答えた。

アイリスは注意深くその目の奥を窺い、もう一度尋ねる。


「本当は?」


「グレンにちょっと恩を売っとこうかと思ってね」


「似てるけど、全然意味が違う!」


アイリスが小さく声をあげると、セドリックは楽しそうに唇を引き上げた。


「しかも、これだとカミラ嬢にも恩が売れる」


「カミラにも?」


三日月のような目をしたセドリックはいたずら好きの猫みたいだ。

アイリスは全く関係ないことを考えながら、セドリックの顔をぼんやりと見つめた。


(カミラとグレンにとって、悪いことじゃないんだろうけど…)


セドリックも意外と素直じゃないところがある。

アイリスは思わず息を漏らした。


アイリスが小さく笑いながら頷くのを確認して、セドリックはオルガに視線を戻した。


「我々がアマンディアス皇国から戻るのに使った手段が気になりませんか?」


「確かに移動距離に対して、早すぎるとは思うが…」


セドリックは懐から地図を取り出して、オルガとサイファの前に広げた。


「皇国のアシュトレイヤ邸から、アスコット村まで魔法で転移しました」


オルガの眉がピクリと動いた。


「細かい規制はあるものの、この魔法を使われては、国境沿いの警備は意味を成しません」


オルガの眉間のシワが深くなる。


「それと、グレンの聖騎士の任命はどう繋がる?」


「貴族相当の地位を持つ聖騎士なら、アシュトレイヤのご令嬢を口説けます」


「…は?」


神殿の応接に沈黙が落ちた。


「ええええ!!グレン、カミラが好きなの!?」


そして、その空白を破るようにアイリスの黄色い声が響いた。




作者めも

神事より恋ばな。


――

いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!


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