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「これは急なお越しですな」
慇懃に騎士団本部の責任者であるオルガ・トレイスト伯爵が出迎えた。
大司祭からの申し入れだというのに不躾な視線を隠しもしない。
「わたくしが、わたくしの都合で動くことをどうこう言われる筋合いはないわ」
オルガの顔がヒクリと引きつった。
言い返されると思わなかったのだろう。
「大司祭から連絡が来ていると思うけど、護衛を付けたいの。第三部隊のグレンという男を呼んで頂戴」
応接室に通されたカミラは、無駄口は一切叩かずに男に指示を出した。
「お言葉ですが、急に騎士を引き抜くといわれても…」
「あらそう。それではこちらの騎士団の守っている領域の結界は解除して構わないのね」
こともなく告げられた言葉にオルガの顔が蒼白になる。
聖女の結界があればこそ、魔物に対応しうるという状況を理解していないわけではないようだ。
(だとしたら、なおのこと問題だとは思うけれども…)
誰もがアイリスの力を疑っているわけでもないのに、アイリスを雑に扱うことに疑問を感じていない。その現状にカミラは眉を寄せた。
「わたくしの力で護られているものがある以上、わたくしの身辺の警護は最重要だと思うのだけれど?現に神殿の規定にはそのような記載があったわ。騎士団にもあるわよね」
膝の上のアイリスが小さく驚いた。
全く知らなかった。
「今からでも責務を果たしていただきたいのよ」
「でしたら、こちらから大司祭へご紹介を…」
「結構よ」
カミラの拒絶はいつも短く明確だ。
曖昧さを嫌う性格が良く出ていた。
「わたくしから申し入れるまで用意もしないような者が選出した騎士など、信用できないわ」
「で、では何故、グレンを希望なさるのか教えていただきたい…」
この期に及んで、騎士団の面子を気にしていることが丸わかりの態度に、カミラが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「平民の騎士だからよ」
「聖女の護衛に平民を付けるなど、騎士団の…」
「お黙り」
鋭く冷たい声が、オルガの男の声を遮った。
温度の無い目と、冷酷に吊り上がった口元。
年端もいかぬ少女の威圧感に息をのむ。オルガの背中に冷たい汗が伝った。
「貴族の騎士が平民を本気で護衛するとでも思っているの?」
「それは、もちろん…」
「無駄なお話は結構よ。グレンとやらを呼びなさい」
オルガは目の前の少女の言動に混乱していた。
神殿の最も力の大きい聖女は平民の少女で、これまで神殿の外には出てこない存在だった。
だというのに、目の前にいる少女はどこの貴族よりも圧倒的な存在感を放っている。
本能的な部分で警鐘を鳴らしたオルガの危機感が、それ以上の問答を止めさせた。
控えていた騎士に命じた。
「グレンを呼びなさい」
「…は」
小さく敬礼して、騎士は部屋を退出した。
オルガが緊張で汗ばんでいるというのに、目の前の少女は膝に可愛らしいクマのぬいぐるみを乗せたままゆったりと出されたティーカップに口を付けている。
実に優雅な所作だった。
(この娘は、一体…)
今になって大司祭からこのような面会の申し入れがあったことも気になる。
だが、発言を拒絶する明確な態度がオルガの口を縫い付けた。
時計の音だけが静かな室内に響き渡っていた。
しばらくして、扉がノックされる。
「…入れ」
オルガはほっとしたように入室を許可した。
「失礼いたします。第三部隊長セドリック・ド・ヴァリエールです」
丁寧な一礼と共に現れたのは金髪に青い目を持つ、如何にも貴公子といった風情の青年だった。
甘くさわやかな顔立ちはさぞ女性にモテるだろう。
続いて、黒髪の青年が入室した。
セドリックより僅かに背が高い。
鋭い視線の中に、貴族にはない粗野な光りが見え隠れしている。
だが、グレンも見た目は悪くない。
セドリックと並ぶとそれぞれの差がお互いを引き立てている。
「グレンをお呼びだと伺いましたので、私が同伴いたしました」
「ご苦労、二人ともこちらへ」
セドリックの挨拶を受け、オルガがカミラの前に二人を立たせた。
カミラはグレンを上から下までじっくり観察すると、にんまりと笑う。
「悪くはないわね。これでいいわ」
まるで帽子屋で帽子を選ぶような言い方だった。
「なんの話だ…」
グレンの低い声が静かな部屋に響く。
オルガが慌てて止めようとしたが、カミラが手を上げて制した。
「構わないわ、わたくしから説明するから」
不審な目を隠しもしないグレンと、面白そうに目を細めるセドリックがカミラの顔を見つめて、その先の言葉を待った。
カミラの膝の上では、当事者なのに誰よりも置いてけぼりのアイリスがハラハラとこの事態を見守っていた。
(ど、どうなるの!?)




