78
王都の門を潜り抜けると、セドリックはそのまま真っ直ぐ騎士団の本部に向かった。
「先にオルガ様に報告しようと思うんだ」
「オルガ様に?」
「うん。あの人サイファ様と同級生だったんだってさ」
アイリスはセドリックの言葉に頷きながら、好奇心を隠しきれない目をした。
「学校っていろんな人が知り合うんだね」
「ん、そうだね。良くも悪くもって感じかな」
面倒なことを思い出したのか、セドリックがなぜか遠い目をした。
一方アイリスはカミラの初恋のことを思い出して、鼻にシワを寄せた。
「それはともかく、サイファ様とはよく話をする仲みたいだから、オルガ様経由のほうが話が通りやすいかもしれないだろう?」
「そうか!すごいね。セドって本当にそういう根回し得意だよね」
(得意っていうか、効率の問題なんだけどね…)
アイリスがひどく感心した視線をよこすので、セドリックとしてもどう反応するべきか迷った。そして迷った上で結局、苦笑する。
確かにアイリスには縁のない発想なことは間違いない。
(…多分、褒められたんだろうし)
あんまり褒められた気がしないが。
そんなやり取りをしているうちに、騎士団本部の入り口に到着した。
セドリックの姿に気が付いた騎士が慌ただしく寄ってきて、馬上のセドリックを見上げた。
「隊長、お疲れ様です。オルガ様から言伝です!」
「言伝?」
「王都に到着次第、神殿へ直行するように、との事です」
セドリックは、出迎えた騎士からオルガの命令を受け取ると、アイリスの耳元に顔を寄せて囁いた。
「思ったより、話が早いかもしれないね?」
(ち、近い!!!)
セドリックの吐息を耳元で感じて、アイリスの心臓がバクバクと音を立てた。
二人で王都に移動を始めてから、セドリックの距離が近すぎる気がする。
四人でいたときには気にならなかったことが、急に気になり始める。
アイリスは内心の動揺を悟られないようにするのが精一杯だった。
「アイリス?」
「ううん、何でもない!神殿、急ごう!!」
顔を赤くするアイリスにセドリックが首を傾げた。
そしていたずらっぽく目を細めると、もう一度アイリスの耳元に顔を近づけた。
「ドキドキする?」
「い、急がなきゃいけないんだから、変なことしないで!!」
真っ赤になってセドリックを押し返すアイリスに、セドリックは目を丸くした。
(なんか、小動物みたいな反応になってる!)
旅に出る前は全く意識してなかったのに、今はこんなに動揺している。
アイリスの変化にセドリックの胸がそわそわと落ち着かなくなった。
意識してなかったのはセドリックも同じだ。だが、セドリックは自分のことを棚に上げてることに気が付いていなかった。
分かりやすく態度が変わったアイリスを見て、釣られたようにセドリックの鼓動も早くなる。
(何を考えているんだ、俺は。今は、そんな時間ないだろう!)
慌てて仮面を当て直して平静を装う。
幸いあわあわしているアイリスは、自分のことで手一杯でセドリックの変化に気が付いていない。
その様子にほっと息を吐いた。
「ごめん、ごめん。ほら、急ごう?」
「もう!!セドが悪いんでしょう!!」
微妙な甘酸っぱさを見せられた騎士がぽかんとセドリックに目をやると、セドリックが温度のこもらない目を細めて騎士に視線を送った。
余計な詮索をするなということだろう。
優秀な騎士団の一員である彼は、正しく上官の感情を読み取った。
静かに…静かに敬礼してその場を素早く走り去ったのだった。
ただし、その場で追求しないことと噂をしないことは別の話だ。
本部の中に駆け戻ると、同僚の騎士をとっ捕まえて興奮気味に話しかけた。
「おい、あのセドリック様に女の影だ!」
「まじか!?」
優秀な騎士団は情報共有を怠らない。
アイリスとセドリックが慌ただしく神殿に向かったあと、瞬く間に騎士団には「セドリックに春が来た」という噂が広まった。
「ついにセドリック様の一人勝ちの時代に終わりがきたぞ!!」
色めき立つ騎士団の結束が強まったのだった。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




