表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
77/87

77

宿で一晩過ごした翌日。

早朝にアイリスとセドリックは、チェックアウトを済ませ歓楽街の宿を出た。


今日中に王都にたどり着けば、神事の準備には間に合う。一日あれば、不備を洗い出して調整することも可能だろう。


セドリックは馬を走らせながら日程を計算する。

そして小さくうなずくと、背後から腕を回して抱え込んだまま、アイリスの耳元に囁きかけた。


「日が高いうちに王都に到着できそうだね…」


「良かった…」


アイリスがほっと息を吐く。

あとはサイファの説得だけだ。


王都ではサイファがオルガとともに、神殿の伝承に誤った理解があったことにたどり着いているのだが、そんなことを知る由もないアイリスは少しだけ顔を曇らせた。


これまでサイファを「優しい人」だと信じて疑っていなかった。

実際に悪い人ではない。

けれども神殿から離れたアイリスは、感じてしまった違和感をなかったことにはできなかった。


「こんな風に考えてしまうなんて、思ってもみなかったよ…」


「アイリス?」


「考えてみたら、サイファ様って別に平等ではなかったなって思って…」


神殿の福祉活動にお金が必要だから貴族を優先的に治療する。その反面、平民は長い列を作って待たされる。運が悪ければその日の治療は受けられない。


医療に限らず、そういう差は常にあったような気がする。


「セドとグレンに初めて神殿の応接で会った時も、セドにしか挨拶してなかったんだよ」


気にしてみると、確かに貴族とそれ以外の対応に明確な差があった。

俯くアイリスにセドリックは、小さく息を吐いた。


「アイリスはそれが気になるんだね?」


「…うん。でもそれって、結局仕方ない部分もあると思うの。だから、なんていうか…」


アイリスが自分の考えをまとめるように、少しだけ口を噤んだ。


「…私、不安なんだと思う」


「不安?」


自分の考えをゆっくり反芻しながら、アイリスが慎重に言葉を選ぶ。


「サイファ様をちゃんと説得できるかどうか。話を聞いてもらえるかどうかが、怖いんだと思う…」


サイファはいつもアイリスに対して穏やかだったが、それは単に相手にされていなかっただけだ。身分の低い自分の意見をまともに取り合ってもらえるのか、アイリスには分からなくなっていた。


セドリックからアイリスの顔は見えない。

だが、強い不安がアイリスを包み込んでしまったことは理解できた。


「…俺は大丈夫だと思けどね?」


アイリスの不安を取り除くように、優しく口にした。

腕の中のアイリスが、僅かに肩を震わせた。


「君は大聖女だ。俺はその意見を変える気はないよ」


セドリックから見えるうなじに少しだけ朱が差した。

アイリスのその反応を見て、目を細める。セドリックは畳みかけるように続けた。


「大聖女の立場は大司祭より上だよ?」


「…でも」


「自信をもって、アイリス」


セドリックは馬のスピードを落とし、まだ不安で揺れるアイリスの肩に顎を乗せた。


アイリスの体が、ビクッと硬直する。


「大体のことは、『気合とはったり』なんだろう?」


直後にセドリックの口から出た言葉に、正面を向いたままのアイリスが目を瞬いた。


そうだった。


サイファが聞いてくれるかどうかじゃない。

聞かせてみせるくらいの気合でやらないといけないことだった。

大司祭よりも私のほうが偉い。そう叩きつけて、何が何でも言うことを聞いてもらう。


「ね?俺たちは神殿を説得しに行くんじゃないよ。神事を正しく行わせるために指導に行くんだよ」


セドリックの甘い声が、アイリスの心臓をきゅぅと締め付けた。


セドリックが信じてくれるということが、アイリスの心を強くする。知らず知らずに強ばっていた体から、力を抜いた。


ぽふっ。


もたれ掛かると背中に暖かい体温を感じる。セドリックの心臓の音も聞こえるくらいの近さで、アイリスは静かに息を吐いた。


「ありがとう、セド」


不安に揺れていた目が、落ち着きを取り戻す。


「どういたしまして」


宝石のようにきらめく、エメラルドグリーンの眼差しを確認すると、セドリックは澄ました顔で、馬の腹を蹴った。


「さぁ、着くよ、アイリス。気合いをいれないとね?」


「うん!」


二人の前に、王都の門が見えてきた。



いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ