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王都の神殿が一縷の望みを繋いで、希望に目を輝かせていたその頃――


「押し売りならお断りだよ、帰っとくれ!!」


「押し売りしか来ねぇのか、この家は!!」


ルウイ村の老婆を訪ねてノックした瞬間、扉の向こうから飛んできた罵声にグレンが怒鳴り返していた。


老婆は、グレンを見ると鼻をならしてそっぽを向いた。


「なんだ、騎士の小僧かい。昨日出掛けてすぐさまトンボ返りとは、皇国で悪さでもしたか?」


相変わらずの口の悪さだ。

グレンがイラッと言い返そうとするのを、カミラが制して老婆の前に屈んだ。

老婆は少し目を瞬くと、にたりと笑う。


「随分と別嬪さんじゃないか。あたしの若いときにそっくりだよ」


「あら、そうなの。光栄ね?」


グレンがひきつった顔をしているのを横目に、カミラはしらっと返事をする。老婆はまたヒヒヒッと肩を揺らした。


「あんた、クマの娘だね?元に戻れたってわけだ」


楽しそうにカミラを眺めると、カミラも片眉をあげて答えた。


「で、なんでまた戻ってきた?うちの村の祭壇で結婚式でも挙げたいのかい?」


「そ、そんなわけないでしょう!!」


カミラは真っ赤な顔で即座に怒鳴りつけた。やっと思い通りのカミラの反応を引き出した老婆は楽しそうだ。


「あぁ、もう!いいから、こっちの用件を聞け!」


グレンが付き合いきれないと、話を強引に進めようと膝を詰める。

老婆は「ほーん」と目を三日月型にしてニマニマと二人の前に移動して腰を下ろし、二人に訊ねた。


「ふーん、アイリスがいないね?」


「王都に向かっているわ」


「もう一人と二人でかね?」


老婆は何をどこまで知っているのかニヤニヤしたままだ。

居たたまれなくなって、カミラは床をペシペシと叩いて気をそらす。


「王都の神事にはクゥ・ルーイが絶対必要なことが分かったのよ!」


「そりゃぁ、そうだろうさ」


カミラの発言に老婆はさして驚くわけでもなく、飄々と頷いた。

この老婆は初めから、供物はクゥ・ルーイ以外では意味がないと言っていたのだから、当然と言えば当然かもしれない。


「で、あんた達は何しにこの村に来たんだい?あたしゃ暇じゃないんだよ」


「何て偉そうなの!!」


「ヒヒッ。おまえに言われたかないねぇ」


揶揄う気満々の老婆にいいように踊らされて、カミラが「もうっ!!」と子犬のように吠えた。


「だから、話が進まねぇだろうが!」


グレンがカミラを押さえて、老婆に向き直る。

老婆は相変わらずヒヒッと楽しそうだ。


「何だい、話って?」


「この村の祭壇にこいつを置かせてもらう」


クマのぬいぐるみを老婆の鼻先に突き出す。老婆はそれを手にとって不思議そうに眺めた。


「そこの娘が入ってたクマだね?」


「アイリスも入ってたわ」


「ほう…そうかい。…まぁ、好きにおし」


カミラが静かに告げたが、老婆はすぐに興味を失って、ぬいぐるみを押し返した。


「ねぇ、おまえ」


カミラは祭壇に向かう前に、老婆に話しかけた。先に伝えたいことがあったのだ。


「んー?」


「おまえのランタンを皇国で買うことにするわ」


老婆が目を瞬いた。


驚かせることに成功したカミラは、それこそ子どものようにパチンと手を叩いて笑った。


「ふふっ、おまえのその顔!」


「ふん!あんなガラクタが売れるもんかい!」


老婆がムキになって言い返す。

カミラは一向に気にせず、自信満々に顎を上げた。


「売れるわ!だって、わたくしが売るのだもの!!」


勿論、祭壇にクマを置くことがこの村に来た目的だ。だが嬉々として老婆にランタンの話をするカミラの顔は、生き生きとしている。


(…こいつ、本当はこれを言いたくて付いてきたんじゃねぇの?)


満足そうに老婆にサプライズをするカミラに、肩をすくめた。


「おい、ランタンの儲け話も良いけど、先にクマを置きに行くぞ」


老婆の許可を得たので、さっさとグレンがクマを老婆から受け取り立ち上がった。


「ちょっと!待ちなさいよ!」


慌ててカミラが後を追う。


少し先に出たグレンが振り返って、カミラを待つ。

足場の悪そうな所でカミラがふらつくと、グレンは「何やってんだ」という顔で手を差し出している。

老婆はまた鼻を鳴らす。


「二人であの祭壇に行くのだって!」


誰に言うでもなく老婆が笑った。


あの祭壇は村の若者の恋愛成就の祈願場所だ。勿論、教えてやらないが。


村から出るときにはそういう二人だと思われてることだろう。


ヒヒッ。


老婆が楽しそうに笑った。



いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!


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