76
王都の神殿が一縷の望みを繋いで、希望に目を輝かせていたその頃――
「押し売りならお断りだよ、帰っとくれ!!」
「押し売りしか来ねぇのか、この家は!!」
ルウイ村の老婆を訪ねてノックした瞬間、扉の向こうから飛んできた罵声にグレンが怒鳴り返していた。
老婆は、グレンを見ると鼻をならしてそっぽを向いた。
「なんだ、騎士の小僧かい。昨日出掛けてすぐさまトンボ返りとは、皇国で悪さでもしたか?」
相変わらずの口の悪さだ。
グレンがイラッと言い返そうとするのを、カミラが制して老婆の前に屈んだ。
老婆は少し目を瞬くと、にたりと笑う。
「随分と別嬪さんじゃないか。あたしの若いときにそっくりだよ」
「あら、そうなの。光栄ね?」
グレンがひきつった顔をしているのを横目に、カミラはしらっと返事をする。老婆はまたヒヒヒッと肩を揺らした。
「あんた、クマの娘だね?元に戻れたってわけだ」
楽しそうにカミラを眺めると、カミラも片眉をあげて答えた。
「で、なんでまた戻ってきた?うちの村の祭壇で結婚式でも挙げたいのかい?」
「そ、そんなわけないでしょう!!」
カミラは真っ赤な顔で即座に怒鳴りつけた。やっと思い通りのカミラの反応を引き出した老婆は楽しそうだ。
「あぁ、もう!いいから、こっちの用件を聞け!」
グレンが付き合いきれないと、話を強引に進めようと膝を詰める。
老婆は「ほーん」と目を三日月型にしてニマニマと二人の前に移動して腰を下ろし、二人に訊ねた。
「ふーん、アイリスがいないね?」
「王都に向かっているわ」
「もう一人と二人でかね?」
老婆は何をどこまで知っているのかニヤニヤしたままだ。
居たたまれなくなって、カミラは床をペシペシと叩いて気をそらす。
「王都の神事にはクゥ・ルーイが絶対必要なことが分かったのよ!」
「そりゃぁ、そうだろうさ」
カミラの発言に老婆はさして驚くわけでもなく、飄々と頷いた。
この老婆は初めから、供物はクゥ・ルーイ以外では意味がないと言っていたのだから、当然と言えば当然かもしれない。
「で、あんた達は何しにこの村に来たんだい?あたしゃ暇じゃないんだよ」
「何て偉そうなの!!」
「ヒヒッ。おまえに言われたかないねぇ」
揶揄う気満々の老婆にいいように踊らされて、カミラが「もうっ!!」と子犬のように吠えた。
「だから、話が進まねぇだろうが!」
グレンがカミラを押さえて、老婆に向き直る。
老婆は相変わらずヒヒッと楽しそうだ。
「何だい、話って?」
「この村の祭壇にこいつを置かせてもらう」
クマのぬいぐるみを老婆の鼻先に突き出す。老婆はそれを手にとって不思議そうに眺めた。
「そこの娘が入ってたクマだね?」
「アイリスも入ってたわ」
「ほう…そうかい。…まぁ、好きにおし」
カミラが静かに告げたが、老婆はすぐに興味を失って、ぬいぐるみを押し返した。
「ねぇ、おまえ」
カミラは祭壇に向かう前に、老婆に話しかけた。先に伝えたいことがあったのだ。
「んー?」
「おまえのランタンを皇国で買うことにするわ」
老婆が目を瞬いた。
驚かせることに成功したカミラは、それこそ子どものようにパチンと手を叩いて笑った。
「ふふっ、おまえのその顔!」
「ふん!あんなガラクタが売れるもんかい!」
老婆がムキになって言い返す。
カミラは一向に気にせず、自信満々に顎を上げた。
「売れるわ!だって、わたくしが売るのだもの!!」
勿論、祭壇にクマを置くことがこの村に来た目的だ。だが嬉々として老婆にランタンの話をするカミラの顔は、生き生きとしている。
(…こいつ、本当はこれを言いたくて付いてきたんじゃねぇの?)
満足そうに老婆にサプライズをするカミラに、肩をすくめた。
「おい、ランタンの儲け話も良いけど、先にクマを置きに行くぞ」
老婆の許可を得たので、さっさとグレンがクマを老婆から受け取り立ち上がった。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
慌ててカミラが後を追う。
少し先に出たグレンが振り返って、カミラを待つ。
足場の悪そうな所でカミラがふらつくと、グレンは「何やってんだ」という顔で手を差し出している。
老婆はまた鼻を鳴らす。
「二人であの祭壇に行くのだって!」
誰に言うでもなく老婆が笑った。
あの祭壇は村の若者の恋愛成就の祈願場所だ。勿論、教えてやらないが。
村から出るときにはそういう二人だと思われてることだろう。
ヒヒッ。
老婆が楽しそうに笑った。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




