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オルガがその復命を受け取ったのは早朝だった。
騎士団本部の執務室に入るとすぐに、歓楽街からの伝令使が報告に現れた。
「こちらをヴァリエール部隊長からお預かりいたしました」
軽く敬礼して退室する。
必要があれば、さらに伝令を受けるため、外で待機だ。
オルガはセドリックからの書類に目を通すと目を見開いた。
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がり部屋を飛び出す。
「ご苦労だった、ヴァリエールが到着次第すぐに神殿に直行するように伝えることを、本部で共有しておいてくれ」
控えていた伝令使に鋭く命令すると、すぐに馬車を用意させて神殿へ向かった。
神殿では明日に控えた神事の準備で、司祭も聖女たちも慌ただしく動き回っていた。
祭壇周りのチェックに、賓客の席次。
神事の段取りなど、確認事項は多岐にわたる。
サイファがそれらに指示を出しながら、執務室に聖女のうちの一人であるターニャを呼びつけていた。
「ターニャ。君は神託を夢で見たことはあるかね?」
突然の質問にターニャは瞬きを繰り返した。
その反応で十分だと、サイファはため息をついた。
「いや、いい。忘れてくれ」
「あ、あの…神託かわかりませんが、アイリスはよく神様の夢を見ていたみたいですよ?」
ターニャに悪気はない。
だが、サイファにとっては最も考えたくないことの裏付けが増やされたようなものだ。
難しい顔で黙り込むサイファにターニャが恐る恐る声をかける。
「大司祭様…?」
「いや。そうか、君達は知っていたんだね」
「神様の夢といってもあんまり大したことはなくて…何だか良く分らないものの方が多いので、あたし達も良く分ってなくて…」
ターニャはここ数日、サイファが聖女たちを一人一人呼んで神託についての話を聞いているとは聞いていた。
聖女たちはみな、全く心当たりがないので首をかしげていたが、一人が言ったのだ。
節目節目にアイリスがよく神様の好きな花の話や、クゥ・ルーイの話をしていたと。
思い返してみれば、そんなことを言っていたような気もする。
だが、どれも大した話ではない。
特にアイリスは近所の老婆の作るクゥ・ルーイのランタンが好きだったから、そういう贔屓目もあるのだろうと、気にしていなかった。
アイリスを気にかけてないという意味ではサイファも同じだ。
きちんと向き合って話を聞いていれば、違和感くらいは感じられたかもしれない。
(いや、結果論だ…)
例え事前に情報を得ていたとしても、平民の聖女というだけでまともに話など聞いてなかっただろう。自分のことだけに想像がついて余計に気が重くなった。
そこにバタバタと大きな音を立てて騒がしく乱入してきたものがいた。
騎士団の責任者、オルガだ。
「よろこべ、サイファ!!何とかなるぞ!!」
サイファは胡乱な目で、元気よく飛び込んできたオルガを見た。
そのサイファの肩をオルガがバンバンと叩く。
「何が、何とかなるんだ…?」
何だか投げやりな気分で問いかけると、オルガがターニャに目を向けた。
「君は…ここの聖女かい?」
「わ、ワタシはこの度、アイリスの代わりに神事の進行を任されました…あ、あの…」
自分程度の貴族の前でこの様子では、本番はさぞ心許なかったろう。オルガは気の毒そうな目をターニャに向けた。
「今度の神事は年に一度の王族も参列する最も大きな行事だ。急な代理の話で君も戸惑っただろう…?」
労るような台詞だが、それが白々しいことはサイファがよく知っている。良くも悪くもオルガは貴族だ。
この神事の成否が騎士団の名誉にも影響することをよく分かっている。
つまり、サイファと同様、失敗したくないのだ。
だからといって、この状況で代理の不安を煽ってどうする。サイファが苛立ってオルガを睨み付ける。その視線に気がついたオルガが自信満々に一枚の紙切れを突き付けた。
眉を寄せてそれを受け取ると、オルガが誇らしげに胸を張った。
「聖女アイリスが王都に向かっている。勿論、神事の供物を持ってだ!」
目の前に、突如射し込んだ光明に、サイファもターニャも目を見開いた。
「それは本当か、オルガ!」
「あぁ。うちの騎士が、間に合わせると言っているよ」
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