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「近所だろうが遠方だろうが、ダメに決まっているだろう!!」
「あぁ!もう、うるせぇな!!」
耳元のレオニスの大声に、グレンが面倒くさそうに耳を塞ぐ。
実は二人は同じ年だと分かったのは昨日の夜だ。
年が近かったせいなのか、微妙に似たもの同士だったからなのか、既にグレンから遠慮というものが剝がれつつある。
「じゃあ、置いてく。それで良いな!?」
遠慮なくグレンが怒鳴り返すので、どんどん口論が激化する。
このまま収拾が付かないのかと、アイリスがおろおろしているとひゅっと隣から凄まじい冷気が放たれた。
「おまえ、わたくしを、置いていくつもりなの…?」
「…は?」
予想外のところからの圧にグレンが、呆気に取られる。
レオニスはカミラの機嫌を損ねたことに気がつき、慌ててカミラの側に寄ってオロオロと手を伸ばした。
「カミラ、いくら近場でもおまえはまだ病み上がりなんだから…」
「お兄様は黙ってて」
妹の放つ絶対零度の迫力に、思わずレオニスは口をつぐんだ。
グレンは意味が分からないと首を振る。
「おまえはもう身体も取り戻したし、無理する必要はねぇだろ?」
「そういう事ではないのよ…」
クマでもアイリスでもないカミラの美しい顔に浮かぶ怒りは、恐ろしく苛烈だった。
据わった目で見つめられて、グレンが一歩下がる。
「ここまで、散々、関わってきたわよね、わたくしは?」
一歩下がるごとに、一歩詰め寄られる。
グレンの背中にとん、と壁が当たった。
「お、おう…そうだな?」
「今更、もう関わるなというの?」
「いや、でもおまえには関係な…」
ヒュゥゥ…!!!
グレンの周囲の温度が一気に下がった。
怒りが最高点に到達すると、温度が下がる家系なのか?
どうでもいいことがグレンの頭をよぎる。
「関係ないわけないわ!あの子の労働環境改善はわたくしが言い出したことなのよ!最後まで見届ける責任があるわ!!」
どん、と壁に手をつかれてグレンが逃げ道を塞がれた。
「か、壁ドン!!」
アイリスが口に両手を当てて目を丸くした。
初めて見た!男女が逆な気がするけど!!
「男女逆どころか、甘さのかけらもないけどね…」
「そんなことは些細なことだわ!!」
震えるセドリックと、目を輝かせるセリーヌ。
エドワードは魂の抜けたような顔をしており、レオニスはカミラに冷たくあしらわれたショックから抜け出せていない。
「ルウイ村へは、絶対にわたくしも行くわ!」
数センチのところまで顔を寄せられて、グレンがガックリと頷いた。
「分かった…分かったから、離れろ…」
両手を上げて降参の意を示すと、カミラがふんと腕を組んで一歩下がった。
仕方なさそうにグレンがレオニスに視線を投げた。せめてもの妥協案を出す。
「どうせ、ここから近場の村だ。朝出かけたら、日暮れまでには送り帰す、それでどうだ?」
「…ぐ。しかたない。これ以上、何か言ってカミラに嫌われたら死ぬ…」
「死ぬなよ、そんなことで」
グレンとレオニスが何とか折り合いをつけたそばから、カミラが口を挟む。
「あの子が神事に間に合うかどうか分からないんだから、今日から三日間よ」
なんだか役人の出勤時間みたいなスケジュールが確定した。
グレンは仕方ないと肩をすくめて頷いた。
「分かったよ」
「そ、それじゃ、出発する?」
アイリスが気を取り直して、三人の顔を見渡した。
セドリックがちらりと柱時計に目をやり、頷いた。
「そうだね。そろそろ出かけよう」
クゥ・ルーイの実を入れた荷袋を受け取ると、エドワードに頭を下げた。
「ご協力、感謝いたします」
「いや、こちらもカミラを助けていただいた恩がある…」
「それでも、皇室からの許可が必要なものと伺っております…」
この短時間でその許可を取れたとも思えない。
それはアシュトレイヤ侯爵家にとって、リスクのあることだとセドリックは知っている。
「そこは問題ない。皇室には皇子の件でかなりの貸しがある」
一瞬鋭くなった目に、セドリックが苦笑した。
その貸しをここで使ってくれることに感謝した。
ピピッ…
魔鉱石を配置した転移装置が充填完了を知らせた。
エドワードとレオニスが魔鉱石に手を置いた。
「聖女アイリスの『聖力』と同じ力を、君たちの指示してきたアスコット村から感知できた。我々の魔法で二人を送るよ」
アイリスがお気に入りのクマのぬいぐるみをカミラに手渡した。
魂の器でなくなったぬいぐるみは、くったりとした無機物らしい質感に戻っている。
「ふふ。ぬいぐるみっぽい感じは久しぶり」
「…そうね」
二人が、目を合わせる。
アイリスの目の前にはとても綺麗な女の子が立っている。
良かったな、と思う。
同時に、カミラ達はいい加減で適当な神様だというけれど、多分これも神様が起こした奇跡だと思う。
「やっぱり、神様にはお礼をしたいかな」
「また、そんなこと言って」
アイリスがセドリックから荷袋を受け取ってクゥ・ルーイをキュッと抱きしめる。
カミラは呆れたようにその様子を眺めた。
それでも、「お礼をしたい」のはアイリスの意思だ。
儀式とは関係ない個人的な希望だ。
「好きにしなさい。気を付けるのよ?」
受け取ったぬいぐるみを、抱きしめてカミラが目を細めた。
アイリスがセドリックとともに、転移装置の前に立つ。
「うん!行ってくるね!!」
そう力強く返事をすると、強い光が二人を包み込んだ。
眩い白い光が消えると、そこに二人の姿は無かった。
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