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セリーヌのとんでもない気遣いによって、二人きりでお茶をすることになったカミラとグレンは、侍女の案内したテラスで向かい合って座っていた。
侯爵家の庭が一望でき、穏やかな風が頬を撫でた。
暖かい紅茶が侍女によって差し出されると、カミラは優雅に受け取って口を付けた。
「おまえも飲みなさい」
短く促すと、グレンも黙ってカップに口をつける。
傍に控えた侍女はまるで人形のように無表情で、主の邪魔にならないように控えている。
立ち振る舞いだけで、ただの侍女ではないことが窺えてグレンは苦笑した。
「めちゃくちゃ過保護だな、おまえのうち」
「おまえに対して悪意があるわけじゃないわ。…気を悪くしたなら…」
「別に良い。立場を考えたら普通だろ」
口は悪いがグレンは相手の立場をよく理解して気遣ってくれる。
あまりにもさらっとされるので、こちらが気が付かないことも多いくらいだ。
カミラがぼんやりとそんなことを考えている間も、グレンは口を開かない。
話したくないことは無理に聞かないし、話したいことは適当に聞いてくれる。
そういう距離感の男だった。
「…多分、初恋だったの」
カミラが胸のつかえを吐き出すようにぽつりと零した。
カミラをよく知る侍女がほんの少し眉を上げた。
「あれが?」
「同じ学園で一緒に過ごしてた時は素敵に見えたのよ」
カミラが思い出して、ぐっと手のひらを握った。
返す返す、何であんな男を…。
「まあ、箱入りのお嬢さんじゃ、しょうがねぇか」
カミラの肩に力が入ったのを見てグレンが軽く肩をすくめた。
「顔はまあまあ良かったし。女が好きそうな顔してたじゃん」
「人を顔だけで選ぶ人みたいに言わないで」
また少し沈黙が落ちた。
カップの紅茶から立つ湯気がゆらゆらと揺れている。
「何がいけなかったのかしら…」
カップを見つめながらカミラが呟いた。
自問自答のような声だった。
ベルナルドを好きだったから支えたかった。
ベルナルドに必要だと思ったから助言を何度も繰り返したし、皇子の隣に立つアシュトレイヤの娘として恥ずかしくないように己にも厳しく律したと思う。
その努力がすべて無駄だったのだろうか…。
黙り込んだカミラにグレンが呆れたような目を向けた。
「男の趣味だろ…」
「え?」
「悪かったところだよ」
カミラがきょとんとグレンの顔を見つめた。
「だから、何がいけないのかってところ。…おまえの趣味が悪かっただけだろう?」
思いがけない言葉にカミラが目を瞬いた。
それを見てグレンが笑った。
「アイリスの癖、移ってるぞ」
その指摘にカミラは顔を赤くする。
いつの間にか癖が移るくらい親しくなっていたことにも。
それをグレンに指摘されたことも。
何だかよくわからない慰め方をされたことも、気に入らなくて。
「男の趣味ってなんなのよ、失礼ね!!」
「悪いだろ、あれは。あんなん、さっさと忘れちまえ」
本当にしょうもないことのように言われて、カミラはまたカっとなる。
既にベルナルドのことなど、どうでも良くなっていた。
「人の思い出に勝手にダメ出ししないでちょうだい!!」
「どうされたいんだよ、おまえは」
からからと笑うグレンに、すっかりいつもの調子を取り戻したカミラは不機嫌な顔で紅茶に再び口を付けた。
その様子を無表情な侍女だけが見ていた。
一方、アイリスとセドリックは侯爵家の当主とその夫人と嫡男に詰め寄られながら、侯爵家の最高級の菓子を満喫していた。
「このクリーム美味しい!!」
「本当だ、濃厚だね?」
次から次に差し出されるスイーツと、怒涛の質問。
「ねぇ、カミラはいつからグレン君が好きなのかしら?」
「いや、そもそも好きかどうかは分からんだろう?」
「というか、グレンは妹をどう思っているんだ!!」
息もつかせぬ勢いだが、アイリスとセドリックに答えの持ち合わせなどあるわけない。
セドリックの方には薄々あるのだが、まだ本人たちが自覚していないうちは黙っていたいのだ。面白そうだから。
「カミラとグレンは最初から仲良しでしたよ?」
なのでアイリスの誤解を招きそうな発言は敢えて放置する。
嘘ではない。アイリスにはそう見えていたのだし、本当に仲は良いだろうから。
セリーヌはアイリスよりセドリックから話を聞きたがっていたが、同じ人種の臭いを嗅ぎつけたのか、それ以上は口を出すのを控えてくれた。
しかるべき時に必ず教えるようにと釘を刺されたが。
「最初からあの男はカミラを狙っていたのか!!」
「くぅ!ぬいぐるみでも隠し切れない美貌だからな、うちの妹は!!」
冷静になれば、まさかそんなことはないだろうということを、本気で苦悩するエドワードとレオニスをよそに、セリーヌは朗らかにアイリスたちを誘った。
「今晩はうちに泊まっていらしてね?もっとお話ししたいわ」
アイリスが少し考えてこくりと頷いた。
「カミラ、傷ついてると思うんです」
ここにきてカミラを心底心配できるアイリスにセリーヌの目が柔らかくなる。
アイリスがセリーヌを窺うように見つめた。
「だけど、あんな人と縁が切れたのはお祝い事だと思うんです!」
エドワードとレオニスが目を丸くした。
仮にも他国の皇子に向かって「あんな人」とは大胆な娘だ。
「だから、今夜はお祝いしないと!!」
アイリスを止めなくてはと分かっていたが、間に合わなかった。
セドリックは堪え切れずに腹を抱えて笑い出した。
一方のアイリスは何がおかしいのか分からず、不本意そうな顔をした。
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