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カミラが自室で身支度をしている間、セドリックとグレンは応接室に戻り、エドワードやレオニス、セリーヌに、これまでの経緯について説明していた。
「…というわけで、我々もなぜカミラ嬢が聖女アイリスの下に現れたのかは全く分からないのです」
アイリスを聖女として扱ったまま、話せるだけの真実を伝えた。
エドワードのように勘が鋭く、実力のある人物に下手に隠し事をするのは悪手だと、セドリックは経験で知っていた。
「…そうか。いずれにせよ、聖女アイリスには大変お世話になったようだな。…もちろん君たちにも」
ソファーに向かい合って座る二人に、エドワードは改めて頭を下げた。
セドリックは穏やかに笑うと首を振った。
「ご令嬢についてはこちらも偶然です。お気になさらず…」
そして、旅の途中でのお宅のお嬢さんへの数々の無礼もお気になさらずにいて欲しい。セドリックは表面上で冷静を装いながら、内心では冷や汗をかいていた。
想定していた以上にアシュトレイヤ家のカミラへの愛が重い。
重たすぎる…。
「感謝する…」
セドリックの内心には気が付かず、エドワードは謙虚な気遣いとして、ありがたく受け取った。
その横ではレオニスが不機嫌な顔でじろじろとグレンを眺めていた。
セリーヌもまた、にこにことグレンを見つめている。
「…あの、グレンに何か?」
貴族を相手にするとき、グレンはなるべく口を開かないようにしている。
育ちの悪さが隠せる気がしないからだ。
じろじろと不躾に視線を寄こされても、グッと耐えているのは彼にしては大分上出来だ。
できればこれ以上無理をさせたくない。
セドリックはあえて二人に切り込んだ。
「…いえ」
渋面を作るレオニスとは打って変わって、セリーヌが堪えきれぬように身を乗り出した。
「で、グレンさんはうちのカミラのことをどう思っているの??」
「…は?」
「……っ!!!」
グレンが間抜けに口をあけて聞き返し、セドリックは咄嗟に吹き出しそうになった口元を押さえて横を向いた。
セリーヌは固まるエドワードとレオニスを尻目に、ぐいぐいとグレンに迫る。
「うちの子、美人なうえに可愛いでしょう?どう思う?」
「や、会った時からクマだったし…」
「まあまあ!それじゃぁ、中身重視なのね?うちの子、外見も可愛いのよ!?」
圧倒されるグレンがセドリックに助けを求めて視線を投げる。
「が ん ば れ !」
が、面白そうな顔をしたセドリックが音を立てずに動かした唇を読んで青筋を立てた。
だが、グレンの怒りより先にセリーヌの隣からの殺気と冷気が突き刺さる。
「セリーヌ、グレン君がびっくりしているじゃないか。やめなさい」
「そうですよ、母上。なにもそんなに問い詰める必要はないでしょう。これでお別れかもしれないんですし」
兄の方は露骨に引き離そうとする意思すらはっきり出している。
セリーヌは少し頬を膨らませて姿勢を正した。
二人の子どもがいるとは思えない、少女のような仕草にグレンは脱力した。
「随分と賑やかね。何のお話をしているの?」
そこへ、アイリスと一緒にカミラが戻ってきた。
すっきりとしたドレスを身にまとい、ハーフアップにまとめた黒髪。
黒髪によく映える髪飾りはシンプルな装いでも優雅さを損なわないようなデザインだ。
長い睫毛に縁どられた赤い瞳が、ルビーのようにきらめいた。
「やぁ、カミラ嬢。本当の姿でちゃんと挨拶するのは初めてだね。君の言った通り、本当に薔薇のようだよ」
セドリックが洗練された動きでカミラの前に立つと、胸に手を当てて改めて綺麗な一礼をした。するりと差し出された手の甲にセドリックが唇を落とすと、カミラの背後から「きゃあ!」とアイリスが高い声を上げた。
「セド、王子様みたい!!」
「アイリスもお姫様みたいにしてもらったんだね?」
アイリスに目をやると、アイリスの方も髪を綺麗に整えてもらっている。
初めての髪型に、アイリスは目をキラキラさせた。
「分かる?カミラの侍女さんが一緒にやってくれたの!」
「うん。可愛いよ?」
セドリックがそつなくアイリスも褒めていると、セリーヌがアイリスの髪留めに目を止めた。その髪留めに見覚えがあったからだ。
「あら、あれはあなたのお気に入りだった髪飾りね?」
「わたくしにはもう子どもっぽいもの。お子様なアイリスの方が似合うと思ったからあげたのよ!」
おっとりと尋ねると、早口で言い訳された。
お友達にプレゼントしたと言えば良いだけなのに、可愛らしいことだ。
「そう。アイリスさん、大切にしてね?」
「え!!借りただけだよね?」
「おまえ、わたくしがそんなけち臭い女だと思っているの!!!」
意思の疎通ができてないことに驚いて、カミラがアイリスを怒鳴りつけた。
少し物言いのきつい子だ。「大丈夫かしら」と、セリーヌが見つめていると、アイリスは気にした様子もなく笑顔で答えた。
「そうだったんだ!ありがとう、嬉しいよ!」
「ふん。分かればいいのよ」
セリーヌは気の弱そうなアイリスの、意外に図太い一面にほんの少し面食らう。
ルウイ村での老婆とのやり取りを知っているセドリックとグレンは、カミラのあの程度の物言いでアイリスが怯むなんて微塵も思っていないので、肩をすくめるだけだった。
「驚かれましたか?大丈夫ですよ、二人は大変仲良しです」
一応、セドリックがセリーヌにそっと耳打ちしておいた。
皇国で春の妖精と謳われたセリーヌは、その比喩に違わぬ美しい満面の笑顔を浮かべ、その妻の隣でエドワードは娘の初めての友人に感動して震えていた。
だが、兄の方はそうもいかないようで、まだグレンをジッと見ている。
「な、何か?」
グレンもいい加減にこの視線が鬱陶しくなってきている。
余所行きの声が少し低くなってきた。
セドリックがそれに気が付き、すっと二人の間に割り込むと、レオニスににっこりとほほ笑んだ。
「本当に、薔薇の妖精のように美しい妹さんですね?」
セドリックの言葉にレオニスがぴくりと反応した。
大きく息を吸い込むと…。
「そうだろうとも!この世の美辞麗句のすべてを捧げてもカミラの可愛らしさを表現するには全く足りない程だろう!いいかい、カミラは…」
レオニスによる「カミラを褒めたたえる百の美辞麗句集講座」が始まるかと思われたその時、優秀な執事が来客を告げた。
「皇子殿下がお見えになりました…」
これで何度目だろうか。
部屋の温度が急速に下がった。
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