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「皇子様が、どうしてカミラのお見舞いに来るの?」
久しぶりに自分の体に戻ったカミラは侍女によって身支度を整えているところだった。
アイリスはカミラから離れたくなくて、「まだ安定してるか心配だから」と適当なことを言って、部屋に居座っていた。
(驚くほど図太くなってきたわね…)
何てことない顔をしながら、カミラはその変化に感心していた。
自分のために手持ちのカードを切ることを覚えたのは素晴らしいことだ。
そう思いながらアイリスの問いに答えた。
「皇子殿下はわたくしの婚約者なのよ」
「こ、婚約者!?」
物語でしか聞いたことのない単語にアイリスが赤くなる。
その様子をカミラが鼻で笑った。
「政治的なものよ?アシュトレイヤが付いた方が後継者になる…」
「付いた方…?」
髪を手入れされながらカミラはアイリスに目をやった。
「皇国には二人の皇子がいるのよ」
「へぇー、そうなんだ。それにしてもカミラはだいぶ記憶が戻ったんだね?」
アイリスは嬉しそうにしているが、カミラの内心は複雑だった。
二人の皇子は、現状では大きな差がない。二人を分けたのはアシュトレイヤ家の娘であるカミラを得られたかどうか、つまりアシュトレイヤの後ろ盾が有るか無いかだけなのだ。
(殿下はそんなことも理解されてなかったのかしら…)
ベルナルドの顔を思い浮かべた。
綺麗な銀髪に意思の強そうなアイスブルーの瞳。少し強引だけど、伸び代は十分ある。
それがアシュトレイヤのベルナルドへの評価だった。
もっとも、カミラの婚約者としたのは本人の希望があったからだ。
カミラの顔が、かぁっと熱くなる。
(あんな!あんな短絡的な男を『素敵』だと思っていたなんて!!)
カミラは賢く優秀だったが、かなりの箱入りだった。美しすぎる父兄以外に親しい男性はおらず、周りにいたのは執事などの年配の男性が殆どだ。
皇族としての自信をみなぎらせた、同世代の中では頭ひとつ飛び抜けて美男子のベルナルドに一目惚れしたのはカミラの方だ。
「思い出したくなかった!!」
強く拳を握るカミラに、アイリスがビクッとする。
「ど、どうしたの?」
「なんでもないわ!」
まさか記憶の戻った自分にこんな黒歴史があるとは思わなかった。
カミラが羞恥で頬を染めて、アイリスに八つ当たりぎみに声を張り上げた。
大体、自信があると言っても肝心なところで決断力がない。
結局、人に任せて後から文句を言う。
別に剣の腕だって大したことないし、いざと言う時に頼りになるわけでもない。
文句が多い割に面倒見が良いわけでもなく、口が悪いくせに老婆を気遣う優しさがあるわけでも…
悶々と自問自答しながら、いつの間にか誰かと比べていることに気がつき、カミラが両手で顔を覆った。
「違うわ!!あれと比べてどうするの!!」
いつにないカミラの百面相にアイリスは面食らった。
「カミラって本当はすごく表情が豊かだったんだね」
ぬいぐるみでは、さぞ歯がゆかっただろう。
アイリスはそっとカミラに微笑んだ。
カミラの髪を整えていた侍女は生温い目で、大切なお嬢様の支度を粛々と進める。
「お嬢様…」
最後にパチンと髪留めを留めると、侍女が頭を下げた。
「準備が整いました。皆様が下でお待ちですよ?」
来客用に着替えたとはいえ、カミラにとっては控えめな装いだ。
それでもアイリスは目を輝かせた。
「カミラって本当に綺麗だね、お姫様みたい!」
裏表のない純粋な称賛に侍女の口角が満足そうに上がる。
カミラは胸に手を当てて、顎を上げた。
「当たり前でしょう!これでもう文句は言わせないわ!」
カミラが無意識に「クマと変わらない」とのたまったグレンを思い出し闘志を燃やしていることなど露程も知らず、アイリスはカミラの隣に立って大きく頷いた。
「そうだね、とっても綺麗だよ!」
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