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司祭に続き廊下を歩く。
髪の色の変わったアイリスを、ぎょっとしたようにすれ違う者達が振り返った。
「鬱陶しいこと」
まるで意に介さず闊歩するその姿は、昨日までワタワタと慌ただしく駆け回っていたアイリスとはまるで別人だ。
「やはり悪魔憑きなのか…」
小さな呟きを聞き逃さずカミラの言葉が司祭を後ろから突き刺す。
「わたくしがこれまで通り力を使えたら、神殿への神罰の予兆だと心得なさい」
全く嘘だがはったりは大切だ。
腕の中のクマが「やっぱり、神様の…っ!」と呟いたのは黙殺する。
「それはこれから分かるだろう。ここだ」
虚勢を張った司祭が、祭壇を指し示す。
カミラはゆっくりと跪きクマを膝にのせたまま手を合わせた。
頭を下げると後ろから見守る司祭には口元は見えない。
「おまえが祈るのよ」
「え!私??」
「おまえの力なんだから、おまえしか使えないに決まってるでしょう」
てっきりカミラが祈るのかと思ったらそうではないらしい。
慌ててアイリスが祈り始めた。
『……すべての人が無事でいられますように』
カミラが金色に光った。
正確にはカミラの膝の上のクマなのだが、司祭にそれが分かるはずもない。
「ば、バカな……」
たった今、司祭の前でアイリスの力に変わりがないことが証明された。
すっと立ち上がったカミラが獲物をいたぶる猫のような目で司祭を見つめた。
「無礼を詫びなさい」
「なっ…!」
「明日から止めてもいいのよ?この祈りを」
顔色を真っ白にさせた司祭が跪いた。
「も、申し訳ありませんでしたっ」
慌てて跪く。
これは明らかにアイリスではない。だが、その力は確かに聖力だった。
まさか、本当に神の使いが…!!
司祭を混乱させるには十分な状況だった。カミラは鷹揚に頷いた。
どう見えるか十分理解した上で。
「午後は休むわ。それと騎士団へ向かう手配をしてちょうだい」
背中を伝う冷たい汗を感じながら、司祭は頭を下げた。
一刻も早く大司祭様に報告せねば。
慌ただしく去っていく司祭の背中を見送るとカミラはくるりと向きを変えた。
「すごいね、カミラ!私、お休み初めて貰ったよ!」
嬉しそうなクマを呆れたように見下ろす。
「初めてですって!本当にお人好しのおバカね」
「え…そうなの?」
「染み付いた従属根性は簡単には抜けないわね。…まぁ、いいわ」
クマを抱え直し悠然と足を踏み出した。
「どこに行くの?」
「資料室よ。騎士団のことを調べるの」
「え、なんで?」
カミラはまっすぐに前を向いたまま、きっぱりと答えた。
「そこから護衛を見つけるのよ」
「騎士様から!?」
「おまえの扱いが聖女な以上、当然の権利のはずよ。それがないこと自体、なめられていたのよ」
恐らく、もっとも力の強い聖女が「平民」だったからだ。閉じ込めて使い潰そうとする明確な意思を感じる。
そしてそれは神殿が神など信じていないということだ。
「信仰のない神殿なんて腐敗の温床でしかないわ」
アイリスがこてんと首をかしげる。
「腐った連中なんて、どんなにひどいことをしてもこっちの気持ちは痛まないってことよ」
「ええ…それはなにか違うような…」
「お黙り。お人好しは食い潰されるから大人しくしていなさい」
カミラは目的の資料室の扉を勢い良く開いた。
ざっと視線を流し、新聞の束につかつかと歩み寄る。
そして、猛スピードで新聞をめくり始めた。
「か、カミラ!?」
アイリスが思わず声を上げる。
信じられないスピードだった。
「ねぇ…何を調べてるの?」
「おまえが治療した者に噂好きのミーハーな女がいたでしょう?」
「えっと…マァーサさんかな?」
カミラは新聞から目を離さずに「名前なんか知らないわ」と言い捨てた。
その間にも目は恐ろしい速度で動いている。
「その女が騎士団に平民が入ったって言ってたでしょ」
「え…、そうだっけ?」
アイリスの曖昧な記憶をカミラがはっきりと思い出していた。
「そうよ。…あった、この男よ!」
新聞に大きな文字で書かれた見出し。
『ついに平民から騎士が誕生!平等への第一歩か!?』
「芸のない見出しだけど、まぁいいわ」
新聞の記事を一通り読んで、満足したように頷いた。
「この男をおまえの騎士にするのよ!」
「ええ!?そんな勝手に!!」
「お黙り。おまえの価値を考えたら、そもそも初めからちゃんと護衛がいるものなのよ!」
カミラはちょうど目の高さにぬいぐるみを抱き上げ、しっかりと視線を合わせる。
「何度言うけど、おまえはなめられてるわ!」
カミラがはっきりと言い切ったその時、資料室の扉がガチャリと開いた。
「失礼するよ、アイリス」
ゆっくりと姿を現したのは大司祭サイファであった。




