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「そう。見つからないと思ったらエルダリア国にいたの…」
応接室でソファーに腰を下ろしたセリーヌは、正面に並んで座るセドリックとアイリスを見つめた。
グレンはアイリスの背後に立っている。
「そちらのあなたも、かけて良いのよ?」
貴族らしからぬおおらかな感性で、セリーヌはグレンにも同席を許可したが、グレンは静かに首を振った。
「ありがとうございます。ですが、私はこのままで…」
アイリスはグレンを見上げると目を瞬かせた。ちゃんとした言葉遣いでしゃべるグレンは珍しい。
それと同時に、同じ平民なのにちゃんとしているグレンと自分の違いが少し恥ずかしくなった。
「お気遣いありがとうございます。グレンは護衛騎士なのでお構い無く」
柔らかい声でセドリックがセリーヌの気遣いに感謝の言葉を述べ、アイリスの肩に手を置いた。
「それと、ご紹介いたします。こちらが我が国の聖女アイリスです」
にこやかに紹介するとセリーヌの目が少し大きくなった。
「エルダリアには聖女信仰があると聞いていたけど、あなたがそうなのね?」
「は、はじめまして」
セリーヌが微笑みかけると、アイリスはガチガチに緊張した顔でギクシャクと頭を下げた。
「あら、可愛らしいのね?」
「あ、あの…す、すいません…」
全く要領を得ないアイリスに、セリーヌの膝の上からカミラが声をかけた。
「緊張しすぎでしょう!何でもかんでも謝らないの!」
「だ、だって!!」
「だって、じゃない!」
声をかけたと言うよりは、「説教をした」に近いが、それでもアイリスがホッとしたようにカミラを見るので、セリーヌは「あら?」と目元を緩めた。
「うちの子と仲良しなのね?」
「…っ!! はい!!」
元気の良いはっきりとした返事にセリーヌは堪えきれないように笑みをこぼした。
「嬉しいわ。この子あんまり同世代のお友達がいないのよ?」
少しだけ滲む心配と、母親らしい暖かい眼差しに、アイリスの心も柔らかくなっていく。
(この人も「お母さん」なんだわ)
身分に関係ない優しい気持ちに、アイリスは落ち着きを取り戻した。
「親友なんです!」
肩の力を抜いて、セリーヌに向かい合うと、明るい笑顔で答える。
「待ちなさい、親友ではないわ!!」
「ええ!? 友達とは思ってくれてるんだね!」
即座にカミラが口を挟んできたが、アイリスの方も目を丸くする。
「ど、どこで、そんな小賢しいやり方を覚えたの!!」
軽い誘導尋問にカミラが地団駄を踏むと、アイリスの後ろで舌を出してるグレンと目があった。
「…っ! おまえね!!!」
きぃぃっ、と声を上げるカミラが噛みついた。グレンはしれっと背後に控えたまま、鼻で笑った。
その様子を呆気にとられて見ていたセリーヌは、今度こそ思い切り笑いだした。
「あらあら、何て素敵なことかしら!」
滅多にない母親のご機嫌な姿にカミラはきょとんとする。
笑顔を絶やさない人だが、爆笑は珍しい。…と言うか、初めて見た。
「お母様…?」
恐る恐るカミラが覗き込むと、目尻の涙を拭いながらセリーヌは、もう片方の人差し指を自分の唇に当てた。
「お父様とお兄様には、まだ、内緒にしておきましょう?」
「…え、何を…?」
カミラが首をかしげると、セドリックが正面からセリーヌに声をかけた。
「ご夫人、二人はまだ無自覚です」
「まあ!そうなのね!!」
胸の前でキラキラと目を輝かせて、手を合わせるセリーヌは少女のような顔をした。
「なんて、楽しみなの!」
セリーヌとセドリックは同じような目をして、顔を見合わせると頷きあった。
「え?なに??貴族の話、難しすぎるよ!」
「…安心しなさい。貴族ではなくて『腹の内の読めない人』たちの話よ。わたくしにだって分からないわ!」
オロオロするアイリスにカミラが難しい声を出した。そんな二人にセリーヌはとても良い笑顔を向けた。
「いいえ、『お子様』には、分からない話なのよ?」
グレンはものすごく嫌そうな顔を、『腹の内の読めない』二人に向けていた。
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