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立派な検問所と言っても、アマンディアス皇国の検問所の役人達もさほど厳しいわけではない。
穏やかな隣国との間の儀礼的なものだ。最低限の身元が分かれば問題なく通される。
セドリックが身分を証明する紋章入りのカードを提示すると、入国審査官が目を通す。
「確認させて頂きました、ヴァリエール侯爵家のセドリック様ですね。ようこそ、アマンディアス皇国へ」
審査官は軽く頷き、社交的な笑顔でカードを差し戻す。そのカードを受けとりながら、セドリックは朗らかに審査官に問いかけた。
「そうだ。アシュトレイヤ侯爵にお伝えいただきたいことがあるんだけど、どなたにお願いしたら良いかな?」
ピタリと審査官の手が止まった。
「…少々お待ちください」
審査官はそのまま深く頭を下げ、奥の部屋に消えていく。
すぐに上官と思われる男を伴って現れた。
「お言付けとのことですが、どのような内容でしょうか?」
丁寧な言葉とは裏腹に眼差しの奥に鋭さがあった。セドリックは気にせずに、にこやかに両手を広げた。
「我が国で、大変美しい薔薇を見つけたのですが、それに相応しい花瓶がないのでご紹介いただけないか、と」
二人の審査官は訝しげに首をかしげた。セドリックはそれでも貴公子のような優雅さを失わない。
「こちらも急ぎませんので、お伝え頂ければ結構ですよ。宿を取ったらお伝えしますので、お返事を頂けるようなら、そちらに…」
「いえ…」
セドリックの言葉を遮るように、審査官が一礼した。
「確認して参りますので、少々こちらでお待ちください」
本当にただの知り合いかもしれない。あるいは、何か別の目的があるかもしれない。しかし、この場で判断をしてはいけないと、長年の勘が告げていた。
「…良いのですか?」
若い審査官は不審そうに眉を寄せている。
「構わん。確認するだけだ」
最近、侯爵家の周辺が少し騒がしい。小さなことでも知らせておいた方が良いだろうと、熟練の審査官はその経験による知見を十分に発揮した。
まだ少し不服そうな部下に、男は笑いかけた。
「いちいち報告するなと言われたら、俺が叱られるよ」
「いえ、そんな!!」
慌てる部下と共に、侯爵家に一報を入れに連絡用の部屋に移動した。
少し待ち時間ができたアイリス達は、ベンチに腰を下ろして待つことにした。
「セド、お土産を持ってきたの?」
目をぱちぱちさせるアイリスの膝の上で、カミラがのんびりと寄りかかる。
「おバカね。あれは比喩よ、比喩」
「比喩?」
不思議そうに首をかしげるアイリスにカミラが軽く手を振った。
「分からなくても良いわ」
「ええー、なんで?」
「わざと不審なメッセージを出したの。意味が伝われば一番良いわ。そうでなくても、こちらを気にしてくれれば良い…」
まだ理解できていないアイリスを見て、もう一度カミラが手を振った。
「…だから、分からなくて良いと言ったのよ」
「ええー、気になるよ!!」
アイリスが食い下がろうとしたとき、二人の審査官が戻ってきた。
「アシュトレイヤ侯爵夫人がお会いになるそうです。屋敷までご案内いたします」
セドリックが小さく息を吐いた。
まずは第一段階。
グレンと視線を合わせると小さく頷いた。
「いよいよだわ…」
小さく呟いたカミラを、アイリスがきゅっと抱き締めた。
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